眼瞼下垂の基礎知識

偽眼瞼下垂症とは? 眼瞼下垂症との違いを分かりやすく説明します。

Dr.髙田

2024/3/30 修正・更新

「偽眼瞼下垂(ぎがんけんかすい)」は、「まぶたが重く開けづらい」など、眼瞼下垂と似たような症状をもつため、そう呼ばれます。

偽眼瞼下垂症は、一見、眼瞼下垂症のように見えますが、眼瞼を持ち上げる筋肉に欠陥がない眼疾患と定義されます。そして、偽眼瞼下垂は、様々な原因で発生するのですが、それぞれ、特徴的な要素と診療上の注意点があります(1)

今回は、その一見分かりずらい「偽眼瞼下垂」について、詳しく説明をしていきたいと思います。

まぶたを上げる筋肉や腱自体には問題がないため、まぶたを開けようと思えばしっかり開くのですが、皮がたるんでたり、自然と目を細めて見てたり、また、眼がへこんでしまっているなどで、一見、まぶたが下がって見える状態です。

まぶたは、脳からの信号が主に動眼神経を介して、眼瞼挙筋につたわり、眼瞼挙筋の収縮によって発生した力が、眼瞼挙筋腱膜→瞼板→まぶた全体に伝わることで開いているわけですが、通常の眼瞼下垂であれば、その系統に異常が発生し、まぶたが上がりにくくなり下がります。

偽眼瞼下垂症は、そういった動眼神経、眼瞼挙筋、眼瞼挙筋腱膜、瞼板軟骨などに異常が認められない眼瞼下垂に似た状態というわけです。

言ってしまえば、眼瞼下垂症ではあるのですが、医学的(眼形成外科的)には分けて考えてます。

そして、偽眼瞼下垂の一般的な原因は、先天性と後天性に大別することができます。
先天性の原因は生まれつきのものであり、後天性の原因は生まれた時には問題なくて、その後に発症するものです。以下に、これらの原因を簡単に下記の表にまとめてみました。

先天的原因後天的原因
眼裂狭小症候群加齢性の変化:皮膚弛緩症、眉毛下垂症
小眼球症外傷:眼球陥凹症
眼球癆眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)
偽眼瞼下垂症の原因分類

眼瞼裂狭小症候群は、目の開きが小さく、眼瞼下垂のように見えるのが特徴です。加齢や外傷などの後天的な原因では、上まぶたの皮膚が過剰になったり(ダーマトチャラシス)、まぶたの構造を支える部分が傷ついたりして、偽眼瞼下垂になることがあります(2)

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偽眼瞼下垂と眼瞼下垂を見分けるポイントは以下の通りです:

  • 眼瞼下垂症では、上眼瞼の縁から角膜反射(瞳孔中央)までの距離であるMRD-1が減少していることが多いが、偽眼瞼下垂症では通常は正常の状態であることが多い(3)
  • 偽眼瞼下垂では、眼瞼下垂では認められる挙筋機能障害を伴わないことが多い(4)
  • 重瞼線は通常、偽眼瞼下垂症では変化しませんが、眼瞼下垂症、特に先天性の場合、広くなったり、そもそもが無かったりします(5)

偽眼瞼下垂と眼瞼下垂は、原因が異なるわけなので、結果として、治療方法が大きく異なり、鑑別が重要となります。偽眼瞼下垂の場合、治療は主に根本的な原因への対処が必要です。
例えば、皮膚弛緩症の場合、余分な皮膚や脂肪を取り除く皮膚切除術を行うことで、まぶたの外観と機能を正常に戻すことができます(6)。また、眼瞼裂狭小症候群などの先天性の場合は、瞼裂を広げるための手術が必要となる場合があります(7)

どのような場合でも、眼科医が診断し、眼瞼下垂の正確な原因を特定し、適切な治療計画を立てることが非常に重要となります(8)

眼瞼下垂症は、審美的な要素に影響を与えると同時に、視力を低下という機能異常を引き起こす可能性がありますが、適切な診断と適切な治療により、機能的・審美的な問題を大幅に改善することができます。

偽眼瞼下垂症を引き起こす疾患について

偽眼瞼下垂症は、先に述べた原因によって、いくつかに分けられますが、それぞれの疾患については、下記のブログを参考にしてみてください。

①「眉毛下垂(びもうかすい)」は、加齢によって眉毛が自然に下がってしまった状態です。

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②「眼瞼けいれん」は、まぶたを閉じる筋肉が過剰に緊張して開きにくくなった状態を示します。

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③「眼球陥凹(がんきゅうかんおう)」は、眼球が陥没したような症状を見せますが、外傷や甲状腺の病気から起きる場合もあります。

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偽眼瞼下垂の症状「眼球陥凹」
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④「小眼球症(しょうがんきゅうしょう)」は、先天的に眼球が小さい疾患で、ときには全盲の場合もあります。

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偽眼瞼下垂の症状「無眼球・小眼球」
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⑤「眼瞼皮膚弛緩症(がんけんひふしかんしょう)」は、加齢によってまぶたがたるんで視界が狭くなる症状です。

解説記事
後天性眼瞼下垂の症状「眼瞼皮膚弛緩症」
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⑥「外斜視における片目つむり」は、外斜視では、両眼視では焦点が合わないため、患者は片目をつぶって、両眼で見ることでの不快感を緩和させようと無意識に行います。結果として、眼瞼下垂のようにみえます。治療は斜視の手術です。

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いずれにしても、目が開きにくい状態は、肩こりや頭痛、眼精疲労などを引き起こしますので、偽眼瞼下垂も早めの治療をおすすめします。

ABOUT ME
高田 尚忠
高田 尚忠(たかだ なおただ)
高田眼科 院長 |ひとみ眼科 / フラミンゴ美容クリニック 眼瞼手術担当医師
所属学会:日本眼科学会、日本形成外科学会、日本眼形成再建外科学会
岡山大学医学部卒業後、横浜形成外科の二木 裕先生に師事。 郡山医療生活協同組合 桑野協立病院などの様々な医療機関を勤務し、 現在は高田眼科の院長を務める。 眼科医と形成外科医の知識と、これまでの豊富な眼瞼手術の術者としての経験をもとに、2022年においては年間2,000件超える眼瞼下垂症手術を手がけております。 2022年3月より、名古屋市内の伏見駅近くのフラミンゴ眼瞼・美容クリニックを開院。

偽眼瞼下垂症に対しての治療について

学問的には、眼瞼下垂症と偽眼瞼下垂症とを区別して考えるようになっておりますが、実際には眼瞼下垂症と偽眼瞼下垂症は合併することが多いです。

例えば、腱膜性の眼瞼下垂症も、皮膚のタルミによる偽眼瞼下垂症も、ともに、原因の大部分が「加齢」「退行性」であることを考えれば、分かりやすいと思います。

したがって、治療としては、眼瞼下垂症による挙筋腱膜などの異常があれば、腱膜へのアプローチが必要であると同時に、偽眼瞼下垂症による皮膚のたるみや厚みに原因があるのであれば、皮膚切除、眼窩脂肪切除などが基本となります。

特に、皮膚弛緩症がメインである場合には、眉下切開手術を行います。

しかしながら、術者によっては、眼瞼下垂症の治療と偽眼瞼下垂症の治療を別々の概念として分けて考えます。

例えば、眼瞼下垂症は、保険適応となりますが、偽眼瞼下垂症は、高額な自由診療とするケースが多いと言えます。

結果として、1次手術として、眼瞼下垂症手術(眼瞼挙筋前転法)を保険診療で行い、2次手術として、偽眼瞼下垂症に対しての手術(皮膚切除や眼窩脂肪切除)を自由診療として行うこととし、始めから2度の手術を計画する場合もあります。

当院では、ほとんどの症例で、TKD切開・ファシアリリース法(眼瞼挙筋前転法に分類される手術方法)を一次手術としてお勧めしております。

このTKD切開・ファシアリリース法であれば、偽眼瞼下垂症の原因である皮膚の余剰を切除しつつ、必要であれば眼窩脂肪除去を行いつつ、眼瞼挙筋腱膜の異常も直すことが出来るからです。

言い換えれば、眼瞼下垂手術が一回で終わる可能性が高いからと言えます。

逆に言えば、最初から、眉下切開法(アイリフト)を単独で行うことをお勧めしないのは、二つの理由があります。

先ず、この手術方法では、純粋に偽眼瞼下垂症の要素、特に皮膚の弛緩の状態のみの治療となり、眼瞼挙筋腱膜への治療が出来ず、ひたすら皮膚だけを切除するという的を得ない手術となる可能性もあるからです。

高田 尚忠
高田 尚忠

軽度の皮膚弛緩症による偽眼瞼下垂症であれば、眉下切開法をおすすめ出来ます。

また、顔の印象を可能な限り変えたくないという場合も、眉下切開法の良い適応となります。

せっかく、手術を覚悟して受けられるのであれば、一番成功率の高く、理にかなっている手術を選ぶべきだと考えます。

もう一つは、眉下切開手術は、傷がどうしても見えてしまうため、傷の治りが悪い場合には、相当に大変なことになる可能性があるからです。

ただ、基本的には、きちんとした手術としっかりとした術後のケアを行えば、大きな問題も起こることなく、眉下切開手術は、本当に満足度の高い手術でもあります。

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もし、偽眼瞼下垂症なのか?眼瞼下垂症なのか?を悩まれてる方は、眼瞼下垂症治療専門の当院まで、お気軽に相談ください。

次に、純粋な偽眼瞼下垂症を前提として、治療のアプローチを説明させていただきます。

眼瞼下垂のような症状でありながら眼瞼下垂ではない偽眼瞼下垂は、アゴを上げて見たり、眉毛を上げたりするよう になるのも後天性眼瞼下垂と似ています。

そこで、単に皮膚がたるんでいるだけなのか、原因となるほかの病気があるかについての検査から始めます。

それによって当然、治療法も違ってきます。大まかにいうと、皮膚のたるみがまぶたにあるのか、それともおでこにあるのかによって区別され、それぞれ症状によってふさわしい治療が選ばれます。

まぶたのたるみがまぶたにある場合は、皮膚のたるみを折りたたんで視野を広げる「埋没法」が軽度の症状の場合には検討されます。

たるみが重度の場合は、手術による「切開重瞼(せっかいじゅうけん)」「単純皮膚切除術」を行います。

もともと二重まぶただったのに奥二重になった、などの方には眉の下で切開するため「眉毛下切開」があります。

次に、おでこにたるみがある場合は、眉毛の上のたるんだ皮膚を切除する「眉上切開/ブローリフト」があります。最近では、スレッドリフト(糸リフト)と呼ばれる美容手術で、切開せずにブローリフトを行えるようになっております。

また、おでこ全体が下がってしまってまぶたに影響を与えている場合は生え辺りを切開する「前頭部リフト」も行われていますが、ご自身の症状と効果、手術後の経過などについて、さまざまな点を考慮に入れて、検討すべきだと考えます。

参考文献

1)Dewan MA, Meyer DR. (2012). Pseudoptosis: Causes and Management. Facial Plastic Surgery Clinics of North America.
2)Rizvi SA, Alam MS, Ali R. (2013). Pseudoptosis: Differential Diagnosis and Management. British Journal of Ophthalmology.
3)Wasserman BN, Sprunger DT, Helveston EM. (2001). Comparison of Materials Used in Frontalis Suspension. Archives of Ophthalmology.
4)Berry-Brincat A, Willshaw H. (2009). Paediatric blepharoptosis: A 10-year review. Eye.
5)Griepentrog GJ, Diehl NN, Mohney BG. (2011). Incidence and demographics of childhood ptosis. Ophthalmology.
6)Bagheri A, Aletaha M, Saloor H, Yazdani S. (2007). A Review of 244 Orbital Fractures in Trauma Patients. Ophthalmic Plastic & Reconstructive Surgery.
7)Daut R, Kozarski J, Cvetković D, Stefanović I. (2013). Treatment of congenital ptosis – 30 years of experience. Vojnosanitetski Pregled.
8)Castro E, Foster JA. (2012). Management of Congenital Ptosis. Saudi Journal of Ophthalmology.

- 【眼瞼下垂】延べ2万眼瞼以上の手術経験 -
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