点状表層角膜症(SPK)
点状表層角膜症(Superficial Punctate Keratopathy:SPK)とは、角膜の表面に多発性の小さな欠損ができる角膜上皮障害の一種です。
ドライアイやコンタクトレンズ、乾燥、感染症、強い紫外線などが原因で起こり、目に見えないほど細かな傷が角膜表面に散らばっているような状態になります。
SPKは一時的な病気であり、治療を受ければ数日~数週間で治癒します。しかし、重症化すると、視力低下や角膜潰瘍などの合併症を引き起こす可能性もあります。
当記事では、点状表層角膜症(SPK)の症状や原因、治療方法を解説します。
この記事の著者
名前 / Name
高田 尚忠(たかだ なおただ)
高田眼科 院長|ひとみ眼科 / フラミンゴ美容クリニック 眼瞼手術担当医師
岡山大学医学部卒業後、郡山医療生活協同組合 桑野協立病院などの様々な医療機関を勤務し、現在は高田眼科の院長を務める。2022年3月より、名古屋市内の伏見駅近くのフラミンゴ眼瞼・美容クリニックを開院。
点状表層角膜症(SPK)の症状
点状表層角膜症(SPK)の最も代表的な自覚症状は、充血や涙の増加、目の痛みや異物感です。
これらの症状は、約80~90%の患者に現れますが、10~20%の患者は無症状もしくは軽度の症状にとどまります。
軽度であっても、目のゴロゴロ感、乾燥感、まぶしさ、視力低下などの症状が現れ、羞明(まぶしさを感じる)、頭痛、眼瞼痙攣などの症状が現れることもあります。
主な症状 | 自覚症状 |
涙の増加 | 涙の量が普段よりも増える |
目の痛みや異物感 | 目の痛みやゴロゴロとした異物感 |
光をまぶしく感じる | 光に対して過敏になりつらく感じる |
充血 | 血管の拡張による白目の充血 |
視力の低下 | かすみ目や視界のぼやけ |
涙の増加
点状表層角膜症でよくみられるのが、流涙(りゅうるい)と呼ばれる涙の増加です。
角膜の傷によって目が刺激されるため、常に涙目になったり涙が止まらなかったりといった状態がみられます。
目の痛みや異物感
チクチク、ヒリヒリする目の痛みや灼熱感を感じる場合が多いです。
また、異物がまぶたと眼球の間に引っかかっているようなゴロゴロする感覚を訴える人もいます。
気になって目を触ってしまうと、結膜の炎症や感染症を引き起こす可能性があります。
光をまぶしく感じる
専門的な言葉で「羞明(しゅうめい)」や「光過敏」と呼ばれる、光をまぶしく感じる症状も点状表層角膜症で良くみられます。
具体的には、ふだんは気にならない程度の光でも目を開けているのがつらいと感じる、明るい光を見ると目が痛くなり涙がでてくるなどの状態です。
充血
目の充血も点状表層角膜症の症状の一つで、角膜の傷によって目の血管が拡張・血流が増加するのが原因で起こります。
充血は細かな網のような形状をしている例も多く、黒目に近づくほど強くなる傾向があります。
視力の低下
点状表層角膜症を発症した際に、わずかな視力の低下が確認される場合もあります。
かすみ目や視界のぼやけなどの症状を訴える人もいますが、これは角膜の傷が光を乱反射するのが原因です。
眼科所見
眼科での所見では、角膜の最上層が多発的に欠損している状態が確認されます。
角膜は角膜上皮、Bowman膜、角膜実質、Descemet膜、角膜内皮の5層から成っていますが、点状表層角膜症でみられるのは角膜上皮のみの浅い傷です。
点状表層角膜症(SPK)の原因
点状表層角膜症(SPK)の原因は、ウイルスや細菌への感染やドライアイ、紫外線にさらされるなど多岐にわたります。
- ウイルスや細菌への感染
- ドライアイ
- コンタクトレンズの長期装用
- アレルギー性結膜炎
- 強い紫外線にさらされる
- 化学物質や薬剤が目に付着する
- まつ毛との摩擦
ウイルスや細菌への感染
目にウイルスや細菌が感染すると、合併症として点状表層角膜症が起こる場合があります。
代表的なものには流行性角結膜炎(はやり目)やブドウ球菌への感染(細菌性結膜炎)が挙げられ、まぶたの炎症を伴うケースも多いです。
ドライアイ
角膜に傷がつきやすいドライアイも、点状表層角膜症の原因の一つとして考えられます。
目は通常涙の膜で保護されていますが、涙液の量が不足したり質が低下したりすると角膜の表面が乾燥しダメージを受けやすくなります。
コンタクトレンズの長期装用
点状表層角膜症は、コンタクトレンズの常用者に多くみられる疾患の一つです。
コンタクトレンズの長期装用は角膜の負担となりやすく、レンズのケアが不十分だと蓄積した汚れで摩擦が起きて角膜に傷ができるときがあります。
また、レンズのサイズ(カーブ)が合っていないと角膜に傷がつきやすいです。
アレルギー性結膜炎
アレルギー性結膜炎によって結膜乳頭※1が現れると、角膜と乳頭がこすれて欠損するケースがあります。
※1 結膜乳頭:まぶたの裏側にできるボコボコとした盛り上がり(隆起)。
結膜乳頭が形成されやすいアレルギー性結膜炎は、アトピー性結膜炎、春季カタル、巨大乳頭結膜炎の3つです。
乳頭が形成されるアレルギー性結膜炎
アトピー性結膜炎 | アトピー性皮膚炎に合併して起こりやすい結膜炎で、強い目のかゆみや充血が現れる。 |
春季カタル | とくに春に症状が現れやすい眼疾患で、石垣状の乳頭が特徴。 |
巨大乳頭結膜炎 | 1mm以上の乳頭が複数形成される状態を指し、コンタクトレンズが原因となる例が多い。 |
強い紫外線にさらされる
紫外線は角膜に吸収されやすく細胞を傷つけやすい特性があるため、強い紫外線も点状表層角膜症の発症原因となり得ます。
紫外線による角膜障害は「紫外線角膜炎」とも呼ばれ、アーク溶接、人工太陽灯や殺菌灯の直視、積雪によるグレアなどが原因です。
アーク溶接 | 短時間であっても防護メガネなしで溶接アークを直視すると角膜の熱傷を引き起こす。 |
人工太陽灯や殺菌灯の直視 | 人工太陽灯や殺菌灯、殺虫灯を直視すると角膜へダメージが及ぶ危険性がある。 |
積雪によるグレア | 雪目(雪眼炎)と呼ばれ、スキー場や雪原などで紫外線が雪に反射して角膜欠損につながる可能性がある。 |
化学物質や薬剤が目に付着する
化学物質や薬剤が目に付着して点状表層角膜症が起こる場合もあります。
稀に点眼薬に含まれる防腐剤によって生じる例もあり、これは目薬を差しすぎるために起こる弊害とも言えます。
まつ毛との摩擦
眼瞼内反や睫毛乱生などで眼球にまつ毛が当たって角膜上皮が欠損するときもあります。
いわゆる「逆さまつ毛」と呼ばれる状態で、いずれも下まぶたで生じるケースが多いです。
逆さまつ毛の種類 | 状態 |
---|---|
眼瞼内反 | まぶたが内側に巻き込まれてまつ毛が角膜に接触する状態。 |
睫毛乱生 | まつ毛の配列や生えている方向に乱れがあり、まつ毛が眼球をこする状態。 |
点状表層角膜症(SPK)の検査・チェック方法
眼科では点状表層角膜症(SPK)を診断するためには、問診やスリットランプ検査などが用いられます。
検査方法 | 目的 |
---|---|
問診 | 症状や原因として考えられるものなどの把握 |
スリットランプ検査 | 角膜の欠損度合いを確認 |
その他の検査 | 原因の特定 |
問診
問診では、自覚症状や原因として考えられるものなどを確認します。
- 目の痛みや涙の増加などの自覚症状
- コンタクトレンズの種類や装着時間
- 感染症の可能性
- 強い紫外線にさらされるような行動があったかどうか
- 現在使用している点眼薬(処方、市販問わず)
- アレルギー疾患
スリットランプ検査
スリットランプ(細隙灯顕微鏡)検査は、点状表層角膜症の診断において重要な検査の一つです。
検査に使用するスリットランプは強力な光源と拡大レンズを組み合わせた機器で、角膜の状態を高倍率で観察できるのが特徴です。
- 顎台に顎を乗せていただき、額を額当てに当てていただきます。
- 医師がスリットランプを通して角膜の表面を詳細に観察します。
- 必要に応じてフルオレセイン染色を行い、角膜上皮の損傷部位を可視化します。
- 青い光を当てて角膜上皮の点状の損傷や欠損、角膜の透明度、角膜の厚さなどを評価します。
原因を特定するための検査
問診とスリットランプ検査の他に、涙液量検査や角膜知覚検査など、原因を特定するための検査を必要に応じて行います。
検査方法 | 説明 |
---|---|
涙液量検査 | 涙の分泌量や乾くスピードを調べ、ドライアイか否かを診断する。 |
角膜知覚検査 | 角膜知覚の低下は目の表面の状態悪化につながるケースがあるため、角膜に細い糸を接触させて敏感度を測る。 |
ウイルス検査・細菌検査 | 感染症が考えられるときに、まぶたの裏のふき取り検査などで原因となるウイルスや細菌を特定する。 |
角膜形状解析検査 | コンタクトレンズと角膜のカーブが合っていない可能性がある際に、角膜の形状を確認する。 |
点状表層角膜症(SPK)の治療方法と治療薬
点状表層角膜症(SPK)の治療方法は原因によって異なりますが、抗菌薬や人工涙液などを使用するのが一般的です。
ただし、まつ毛が眼球にこすれて点状表層角膜症を発症して場合は、睫毛切除術が検討され ることがあります。
治療方法 | 適応する原因 |
---|---|
抗菌薬 | 細菌感染、ウイルス感染、コンタクトレンズの長期使用、強い紫外線 |
ステロイド剤 | ウイルス感染、アレルギー性結膜炎 |
抗アレルギー薬 | アレルギー性結膜炎 |
人工涙液 | ドライアイ、細菌感染、ウイルス感染、アレルギー性結膜炎など |
散瞳剤 | 強い紫外線 |
手術 | 眼瞼内反や睫毛乱生 |
抗菌薬
治療薬 | 成分名 |
---|---|
クラビット点眼液 | レボフロキサシン水和物 |
ベガモックス点眼液 | モキシフロキサシン塩酸塩 |
タリビッド眼軟膏 | オフロキサシン |
エリスロシン眼軟膏 | エリスロマイシンラクトビオン酸塩 |
感染症やコンタクトレンズの長期使用が原因の場合は、抗菌薬を使用して治療を行います。
コンタクトレンズの長期使用者への処方は、細菌感染の予防が目的です。
ステロイド剤
治療薬 | 成分名 |
---|---|
フルメトロン点眼液 | フルオロメトロン |
リンデロン点眼液 | ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム |
プレドニン点眼液 | プレドニゾロン酢酸エステル |
ウイルス感染やアレルギー性結膜炎が原因のときに処方されるのがステロイド剤です。
ステロイド剤は、目の炎症を抑えたりかゆみを軽減したりする効果があります。
抗アレルギー薬
治療薬 | 成分名 |
---|---|
パタノール点眼液 | オロパタジン塩酸塩 |
ザジテン点眼液 | ケトチフェンフマル酸塩 |
リボスチン点眼液 | レボカバスチン塩酸塩 |
アレジオン点眼液 | エピナスチン塩酸塩 |
アトピー性結膜炎や春季カタル、巨大乳頭結膜炎などのアレルギー性結膜炎が原因の際には、抗アレルギー薬を使用して治療をおこないます。
ただし、中等度から重度の春季カタルでは、免疫抑制剤のシクロスポリン(パピロックミニ点眼液)やタクロリムス(タリムス点眼液)が適応となります。
人工涙液
治療薬 | 成分名 |
---|---|
ヒアレイン点眼液 | ヒアルロン酸ナトリウム |
ソフトサンティア点眼液 | カルボキシメチルセルロースナトリウム |
ドライアイが原因の点状表層角膜症には人工涙液が処方されますが、感染症やアレルギー性結膜炎でも併用される場合があります。
ただし、原因が薬剤のときは使用している点眼薬を中止し、防腐剤を含まない角膜保護剤(例:エイベリスミニ点眼液)のみに変更します。
散瞳剤
治療薬 | 成分名 |
---|---|
サイプレジン点眼液 | シクロペントラート塩酸塩 |
ミドリンP点眼液 | トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩 |
紫外線が原因のケースでは、抗菌薬の軟膏と併用して散瞳点眼薬を使用すると症状が軽減できます。
手術
眼瞼内反や睫毛乱生でまつ毛が角膜に当たり点状表層角膜症を引き起こしているときには、手術を検討します。
眼瞼内反に対して一般的に行われるのが、皮膚に糸を通す埋没手術やまぶたを切除してまつ毛を外側に向ける手術です。
対して睫毛乱生には、皮膚をまつ毛ごと切除する方法やまつ毛の抜去などがあります。
ただし、抜去後は時間が経つと再びまつ毛が生えてきますので、定期的な通院が必要です。
点状表層角膜症(SPK)の治療期間
点状表層角膜症(SPK)で視力障害が残るケースは非常に稀で、通常は完治します。
比較的短い治療期間で済む人が多く、軽度であれば数日で完治する一方、原因によっては数週間の期間が必要です。
原因 | 治療期間の目安 |
---|---|
ウイルスや細菌への感染 | 2~3週間 |
ドライアイ | 数日 |
コンタクトレンズの長期装用 | 数日 |
アレルギー性結膜炎 | 1~2週間 |
強い紫外線にさらされる | 数日 |
化学物質や薬剤が目に付着する | 数日~1週間 |
まつ毛との摩擦 | 手術するまで |
一般的な治療期間
角膜上皮は新陳代謝が活発な組織ですので、少しの傷であれば数時間で自然に治癒するほどの能力を持っています。
ただ、原因や欠損の程度によっては治療期間に大きな差があり、数日から3週間程度かかるのが一般的です。
症状が治まっても原因を排除しなければ再び新しい傷ができてしまいますので、原因に合わせた治療や再発防止を行いましょう。
点状表層角膜症(SPK)の薬の副作用や治療のデメリットについて
点状表層角膜症(SPK)に使用される治療薬には副作用が存在し、手術にはリスクやデメリットが伴います。
また、コンタクトレンズを常用している人は、使用制限が発生して日常生活に影響を及ぼす可能性もあります。
治療薬の副作用
治療方法 | 副作用・リスク |
---|---|
抗菌薬 | 目の刺激感、かゆみ、充血、アレルギー反応 |
ステロイド剤 | 眼圧上昇、感染症リスクの増加、白内障、緑内障 |
抗アレルギー薬 | 目の刺激感、まぶたの腫れ、充血 |
人工涙液 | 光をまぶしく感じる、目が疲れやすい |
散瞳剤 | 目の刺激感、かすみ目、光をまぶしく感じる、充血 |
とくに注意が必要なのがステロイド剤で、長期間使用すると眼圧上昇を招くリスクがあります。
手術のリスク・デメリット
- 腫れやむくみ
- 内出血
- 治療後の痛み
- 稀に視界のぼやけ
- 抜糸の必要性
手術後の数日から2週間程度は目の腫れやむくみ、まぶたの内出血などの可能性があり、まれに血が混じったような目やにがでるケースも認められます。
まぶたを切開する手術の際は約1週間後に抜糸を行いますが、抜糸までの期間は近くでよく見ると目元に糸がある状態ですので、気になる人もいます。
(メガネをすると糸が目立ちにくくなりますので、気になるときは抜糸までの間メガネを使用するのも良いでしょう。)
手術部位はデリケートな状態であり、強い紫外線を浴びると色素沈着が起こる場合があるため、しばらくの間は紫外線対策を行いましょう。
点状表層角膜症(SPK)治療の保険適用について
点状表層角膜症(SPK)の治療は、基本的に保険適用の範囲内で行われます。
具体的な保険適用の治療に含まれるのが、眼科での検査や治療薬、手術などです。
1カ月あたりの治療費の目安
1カ月あたりにかかる費用は患者さんの自己負担割合(1割、2割、3割)に応じて、治療薬では数百円から数千円、手術では数千円~数万円が目安です。
治療方法 | 保険適用 | 1カ月あたりの治療費の目安(3割負担の場合) |
---|---|---|
眼科での検査 | あり | 数千円 |
治療薬 | あり | 数百円~数千円 |
手術 | あり | 数千円~数万円(片目) |
具体的な費用や治療内容については、各医療機関にお問い合わせください。
参考文献
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MOSHIRFAR, Majid, et al. Thygeson superficial punctate keratitis: a clinical and immunologic review. Eye & Contact Lens, 2022, 48.6: 232-238.
COURRIER, Emilie, et al. Size of the lesions of superficial punctate keratitis in dry eye syndrome observed with a slit lamp. Cornea, 2016, 35.7: 1004-1007.
MANDAL, Niraj, et al. Thygeson’s superficial punctate keratitis. Graefe’s Archive for Clinical and Experimental Ophthalmology, 2022, 260.6: 1837-1841.