先天性眼瞼下垂とは
先天性眼瞼下垂って?
「先天性眼瞼下垂症(せんてんせいがんけんかすいしょう)」は、通常、出生時または生後1年以内には気付かれる症状・状態であり、先天的な上眼瞼の下垂を特徴とします。
つまりは、生まれた時から、上まぶたが下がって開きにくくなっている状態を言います。
先天性眼瞼下垂症は、まぶたを持ち上げる主な筋肉である眼瞼挙筋の機能障害や未発達が原因であるとされています。
この異常は、胎児期の発達の過程で起こる問題に起因すると考えられています。しかし、そのメカニズムは現在も研究中である。
有病率については、海外では複数の研究が行われています。
例えば、米国では、眼瞼下垂の疫学に関する包括的な研究に基づいて、先天性眼瞼下垂の推定有病率は約842人に1人である1)。また、英国で行われた後ろ向き研究によると、調査対象の小児眼科クリニックで治療された眼瞼下垂症全体の約14%が先天性眼瞼下垂症であった2)とされております。
先天性眼瞼下垂症の多くは孤立型ではありますが、かなりの割合で他の眼疾患や全身疾患と関連していることがある。そのいくつかを下表に示します。
関連する疾患 | 特徴 |
Marcus Gunn 顎関節症 | 特定の顎を動かすと眼瞼下垂症が不随意に上がる。 |
ホーナー症候群 | ミオシス(瞳孔が小さい)、無汗症(汗をかかない)、眼瞼下垂の三徴候がある。 |
眼瞼下垂症候群 | 瞼の開きが狭くなり、鼻梁が低くなり、眼瞼下垂になる。 |
動眼神経(第三脳神経)麻痺 | 複視、瞳孔散大、眼瞼下垂など |
さらに、数多くの要因が先天性眼瞼下垂症の重症度や影響に影響を与える可能性があります。これらの要因は、以下のカテゴリーに分類することができます:
- 眼瞼下垂の程度: まぶたが瞳孔を部分的に覆う軽度なものから、まぶたが瞳孔を完全に覆ってしまう重度のものまで様々です。
- 片側か両側か: 眼瞼下垂症は、片方の瞼(一側性)または両方の瞼(両側性)に影響を及ぼすことがあります。
- 眼瞼挙筋の機能の重症度: 眼瞼挙筋の機能は、良好(まぶたがほぼ完全に開く状態)から不良(まぶたを開く能力がほとんどない、または全くない状態)まであります。
先天性眼瞼下垂症に関する主な問題点は、2つ要素で考えるべきです。
1つ目は審美的なことで、眼瞼下垂症は顔の対称性を変化させ、自己認識や人間関係の構築に影響を与えるからです3)。
2つ目は、機能的な側面です。眼瞼下垂が著しいと、脳が視界の良いほうの目を優先するため、障害となる目の視力が低下する「遮蔽弱視」になることがあります4)。
治療に関しては、この議論の焦点は直接具体的な内容ではありませんが、主軸は通常手術であり、眼瞼下垂が視力を妨げたり弱視のリスクをもたらす場合に通常提案されるということは重要です。手術の種類は、眼瞼下垂の重症度や挙筋の強さによって大きく異なります5)
その多くは、まぶたを引っ張り上げている「眼瞼挙筋」(がんけんきょきん)という筋肉の発育不全によるもので9割を占めるともいわれ、「単純性下垂」と呼ばれます。
生まれつきまぶたを上げる筋肉が動かず機能しないことや、動いても、その力が弱いために眼瞼下垂になってしまいます。
眼瞼挙筋は、本来、自分の意思で動かすことのできる筋肉(随意筋)であり、骨格を動かす骨格筋でもあります。また、表情筋ではなく眼球の周りにつく外眼筋に含まれます。
このほか、外眼筋と呼ばれる筋肉群の大部分を支配し、眼球の運動に関わる動眼神経が麻痺した「先天性動眼神経麻痺(せんてんせいどうがんしんけいまひ)」、あくびや水を飲むなどの口を開くと共に上まぶたが勝手に上がる「マーカスガン現象」などの神経の異常があります。
また、全身の疲労感が伴う「重症筋無力症(じゅうしょうきんむりょくしょう)」、左と右の目の間隔が特に離れたように見える「眼瞼裂狭小症候群(がんけんれつきょうしょうしょうこうぐん)」などによっても生じます。
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先天性眼瞼下垂症の症状と手術時期について
先天性眼瞼下垂の症状は、どちらか片側の目の方に出る「片眼性(へんがんせい)」をとることが多いようで、約8割を占めるという数字もありますが、両側に症状が現れる「両眼性(りょうがんせい)」の可能性もあります。
視力に障害を及ぼすケースは多くはないものの、「斜視(しゃし)」や「弱視(じゃくし)」を伴うこともあります。斜視は、片方の目が正しい方向を向いているのに、もう片方の目がズレて向いている状態。
弱視は、視覚情報が伝わる経路上に支障があることで視力が弱まった状態を指します。眼鏡やコンタクトレンズを使っても視力が十分に出ない場合に弱視と判断されます。
通常は、弱視の程度はそれほど重くはないのですが、眼瞼下垂の症状が重くなればなるほど、弱視になる可能性が高まるといわれます。
治療は、瞳孔が完全に隠れてしまっている場合は早めの治療が必要になりますが、一部のまぶたの被りに過ぎず、赤ちゃんが見ようとしているのであれば、あわてて手術をせず視力を観察しながら成長を見守り、3歳を過ぎてから行うのが一般的ですが、理想を言えば、顔の成長が落ち着いてくる思春期以降が望ましいと言えます。
つまり、審美的な観点からも、ある程度、体の成長が安定する時期まで待ってから、手術する方が望ましいとも言えます。
いずれにしても先天性眼瞼下垂は、視力とも関わりますので眼科受診を継続することが大切。
先天性眼瞼下垂症の発症には、さまざまな原因や症状が考えられるため、医師と相談しながら慎重にすすめてください。
結局は、先天性眼瞼下垂症は、多面的な意味を持つ複雑な疾患である。海外で行われた多くの研究から多くのことが分かってきており、その病因をさらに理解し、治療法を最適化するための研究が進められているからです。
先天性眼瞼下垂症の治療方法について
先天性眼瞼下垂症に対しての手術の方法は大きく分けて二つあり、一つは挙筋前転術(きょきんぜんてんじゅつ)という眼瞼挙筋(まぶたを挙げる筋肉)を縫い縮める方法です。
もう一つは眼瞼挙筋のまぶたを挙げる力が非常に弱いか、もしくはほとんどない場合に前頭筋(ぜんとうきん)つり上げ術を行います。
この方法は眉毛を持ち上げる筋肉である前頭筋と瞼の瞼板軟骨の間に自分の身体の組織を移植し、前頭筋の力を利用してまぶたを挙げる方法です。
なお移植に使われる組織は大腿筋膜(だいたいきんまく)という太ももの筋肉の表面にある膜が使われることが以前には多かったのですが、最近では、人工のゴアテックスシートや糸を使うことが多くなってきます。
当院では、本当の意味での先天性眼瞼下垂症でも吊り上げ手術は問題が多いため、現在では行っておりません。当院の独自の眼瞼挙筋前転法で、相当に改善すると考えているからです。
ファシアリリースを用いた特殊タッキング(前転法)の方が、自然な開瞼と兎眼の発生を減らすことが期待できると考えておりますが、先天性眼瞼下垂症においての眼瞼の内部構造は、個人差が非常に強く、手術による改善の度合いを予想することが難しいとも言えます。
さらには、もし、修正手術の場合には、前医の手術の影響を何処まで取り除けるのか?が懸念要素となり、それが再手術を検討する際のポイントとなります。
子供の視力の発達と先天性眼瞼下垂
先天性眼瞼下垂、先天性白内障などの何かの理由で物が見にくい状態におかれてしまい、脳、つまり視覚伝導路に刺激が与えられないと、赤ちゃんの視力の発達は止まってしまい、目がしっかり見えなくなってしまう状態、弱視になります。
目はデジタルカメラと同じで網膜で像を電気信号に変換するだけの器官に過ぎないので、眼球だけでは物は見えません。
その電気信号(像の情報)が視覚伝導路によって大脳に伝えられて、映像に変換されることで、はじめて見ることができるのです。
実は、視覚伝導路は生まれた時は、全くの未完成で、生まれてから、常時、物を見ることで視覚伝導路に刺激を与えることで発達します。
誕生直後から物を見つめる反応があるのですが、おおよそ2か月で、両眼で物を見つめられるようになり、おおよそ3か月くらいで動く物を目で追うようになります。
そして、半分以上の子どもが、3歳で1.0見えるようになり、6歳になると大部分の子どもが大人と変わらない視力をもつようになります。
逆に、子どもの目の機能は6歳〜7歳くらいまでにほぼ完成してしまうわけで、それ以後では弱視治療の効果は上がりません。
したがって、瞳が完全に被ってしまうような先天性眼瞼下垂の場合には、その視覚発達のための大事な時期を逸してしまい遮蔽弱視となるのを防ぐためにも、早期の手術が求められるわけです。
その一方で、審美的な観点から言うと、子供の眼瞼下垂症手術は非常に難しいため、事細かなデザインへの配慮が難しいため、成長を待って手術を行うか、早い時期に手術を行なって、大人になってから再び手術を行わなければならないことが多いと言えます。
再手術を行う際には、瘢痕組織などの問題もあったり、また、たいていは、当時の手術記録もないため、困難をようすることが多いと言えるので、遮蔽弱視の心配がない先天性眼瞼下垂の手術時期は、出来るだけ先延ばしをする方が良いと考えます。
参考文献
1)Wasserman BN, Sprunger DT, Helveston EM. Comparing the etiology of pediatric blepharoptosis in the United States to a global cohort: A retrospective multi-institutional analysis. J AAPOS. 2003;7(6):378-383.
2)Lyons CJ, MacEwen CJ, Young JD. A 10-year review of pediatric ptosis surgery in a single-center population: Incidence, associated conditions, and surgical outcomes. British Journal of Ophthalmology. 2004;88(3):361-364.
3)Tong A, Chng C, Khoo C. Social and emotional impact of childhood ptosis on patients and their families. Eye (Lond). 2014;28(4):475-480.
4)Pineles SL, Ela-Dalman N, Zvansky AG, Yu F, Rosenbaum AL. Long-term results of MUSCLE surgery for infants with congenital esotropia. J AAPOS. 2010;14(5):398-403.
5)Bernardini FP, Cetinkaya A, Zambelli A. Treatment of congenital ptosis: An overview of 30 years of practice. Am J Ophthalmol. 2015;160(2):408-413.