重症筋無力症の眼瞼下垂|見分け方と治療の順番

50歳を過ぎてから両目のまぶたが下がってきた。食べ物が飲み込みにくい、むせやすい。親やきょうだいにも同じ症状の人がいる。この組み合わせで考える病気が「眼咽頭型筋ジストロフィー」です。眼形成外科医の立場から、症状の進み方とまぶたの手術を解説します。
- 50代ころに、まぶたの下がりと飲み込みにくさで始まる遺伝性の病気:数年遅れて、太ももや腰まわりの筋力が落ちてきます。
- まぶたは手術で上げられる:過去の報告のまとめでは、1回の手術で80%が目標の高さになりました。病気が進むため、年数がたつと再び下がることがあります。
- 命に関わるのは、飲み込みの障害:誤嚥による肺炎や窒息を防ぐため、脳神経内科・耳鼻咽喉科での確認が欠かせません。
執筆:髙田 尚忠(高田眼科 院長/眼科医・眼形成外科) 最終更新:2026年10月
眼咽頭型筋ジストロフィーとは
PABPN1という遺伝子の変化で起こる、大人になってから発症する筋肉の病気です。親から子へ2分の1の確率で伝わる形式(常染色体顕性遺伝)をとります。まぶたの下がり、飲み込みにくさ、体の中心に近い手足の筋力低下が、ゆっくり進みます1。
カナダのケベック州やイスラエルの一部の集団に多い病気ですが2、日本でも診断されています。国内の専門施設には、1978年から2021年までに134人の記録があります3。
症状が出る年齢
飲み込みにくさ
筋力低下
カナダの333人の研究での、症状が出た年齢の中央値です。75歳までに27%が歩行に制限を生じ、14%が車いすを使っていました。亡くなった年齢の中央値は77歳で、原因は呼吸器の病気が最多でした4。
まぶたと全身の症状
筋力低下は、股関節を曲げる・開く動きで目立ちました5
むせる・食事に時間がかかる方は、飲み込みの検査を
診断がつかないまま、家族の中で誤嚥や窒息による死亡が続いた報告があります。飲み込みの訓練で、安全に食べられるようになった例も報告されています7。まぶたの相談で受診された方にも、飲み込みの症状をお聞きしています。
まぶたの手術
眼瞼挙筋の手術は、どのくらい長持ちするか
ミュラー筋も弱くなっている
まぶたを上げる筋肉には、眼瞼挙筋のほかにミュラー筋があります。40人の手術で採取したミュラー筋を調べた研究では、73%(29人)に筋ジストロフィーの変化と脂肪への置き換わりがありました。この研究の著者は、腱(すじ)とミュラー筋を一緒に前へ進めて固定する方法が、より効果的だったと報告しています9。
手術後の角膜の傷
手術を受けた232人の報告をまとめた研究では、7人に重い目の合併症がありました10。目を閉じる力は比較的保たれる病気ですが、上げすぎないことと、手術後の目の乾きの管理が大切です。
院長コメント:当院では、眼瞼挙筋前転法を基本としています
まぶたを上げる力が残っている方には、眼瞼挙筋前転法で対応します。病気の進行でまた下がってきた場合は、再手術を検討します。前頭筋吊り上げ術は当院では行っていません。必要と判断した場合は、対応できる施設をご紹介します。
よくある質問
加齢による眼瞼下垂と、どう見分けますか。
飲み込みにくさと、家族に同じ症状の人がいるかどうかが手がかりです。まぶたを上げる筋肉の動きが年齢の割に悪い場合や、手術後に早く戻った場合も、この病気を考えます。確定には、脳神経内科での遺伝子の検査が必要です。
眼咽頭遠位型ミオパチーとは違う病気ですか。
原因の遺伝子が異なる、別の病気です。眼咽頭型筋ジストロフィーは太ももなど体の中心に近い筋肉が、眼咽頭遠位型ミオパチーはすねやふくらはぎなど体の先に近い筋肉が弱くなります3。詳しくは「眼咽頭遠位型ミオパチー」をご覧ください。
治療薬はありますか。
現在は、症状に対する治療が中心です。原因の遺伝子に働きかける遺伝子治療などの研究が進んでいます1。
手術は保険が使えますか。
基準を満たす後天性の眼瞼下垂は、保険診療の対象です。まぶたを上げる力が、生まれつきの眼瞼下垂と同じくらい大きく失われている場合は、自費診療になります。詳しくは「眼瞼下垂手術の費用」をご覧ください。
高田眼科の考え方
まぶたの手術は、見え方と生活を楽にするための治療です。飲み込みや手足の症状がある方には、脳神経内科の受診をあわせておすすめしています。筋肉の病気による眼瞼下垂の全体像は「筋肉の病気による眼瞼下垂」をご覧ください。
まぶたの下がりと、飲み込みにくさが気になる方へ
まぶたの下がりの原因を見きわめ、全身の状態に合わせた治療方針をご提案します。
参考文献
PubMed収載論文をもとに作成しています。文献2・3・8は全文、それ以外は抄録を確認しています。
- Oelbrandt F, Voermans N, Warman-Chardon J. Recent progress in emerging therapeutics and evaluation of oculopharyngeal muscular dystrophy. Curr Opin Neurol. 2026;39(5):483-490. doi:10.1097/WCO.0000000000001508
- Park RB, Akella SS, Aakalu VK. A review of surgical management of progressive myogenic ptosis. Orbit. 2023;42(1):11-24. doi:10.1080/01676830.2022.2122514
- Ishiura H. Recent progress in oculopharyngodistal myopathy research from clinical and genetic viewpoints. J Neuromuscul Dis. 2025;12(3):303-311. doi:10.1177/22143602251319164
- Brisson JD, Gagnon C, Brais B, et al. A study of impairments in oculopharyngeal muscular dystrophy. Muscle Nerve. 2020;62(2):201-207. doi:10.1002/mus.26888
- Ben-David M, Greenbaum L, Nikitn V, et al. The genetic and clinical characteristics of oculopharyngeal muscular dystrophy patients in Israel. Orphanet J Rare Dis. 2026;21(1). doi:10.1186/s13023-026-04313-6
- Alonso-Pérez J, de León Hernández JC, Pérez-Pérez H, et al. Clinical and genetic features of a large homogeneous cohort of oculopharyngeal muscular dystrophy patients from the Canary Islands. Eur J Neurol. 2022;29(5):1488-1495. doi:10.1111/ene.15252
- Chen AW, Wu SL, Cheng WL, et al. Dysphagia with fatal choking in oculopharyngeal muscular dystrophy: case report. Medicine (Baltimore). 2018;97(43):e12935. doi:10.1097/MD.0000000000012935
- Nishii YS, Noto YI, Yasuda R, et al. A Japanese case of oculopharyngeal muscular dystrophy (OPMD) with PABPN1 c.35G > C; p.Gly12Ala point mutation. BMC Neurol. 2021;21(1):265. doi:10.1186/s12883-021-02300-x
- Jordan DR, Klapper SR, Farmer J. Oculopharyngeal muscular dystrophy ptosis, Mueller’s muscle involvement, and a review of management over 34 years. Ophthalmic Plast Reconstr Surg. 2022;38(6):535-542. doi:10.1097/IOP.0000000000002118
- Lin TY, Chen AD, Chang CH, et al. Severe ocular complications after blepharoptosis correction in the oculopharyngeal muscular dystrophy patient: literature review and case presentation. Ann Plast Surg. 2020;84(1S Suppl 1):S84-S88. doi:10.1097/SAP.0000000000002198






