透明な糸を使った眼瞼下垂症手術から、その先へ。
眼瞼下垂症手術において、ダウンタイムが短いことが特に患者様から求められることだと思います。
当院としても、これまで様々な工夫を凝らして、手術を進化させてきました。
どうしても、皮膚を切開することが基本となる眼瞼下垂症手術においては、抜糸を行うまで、日常生活の中で糸が見えてしまうことが最大の障壁だと思います。
患者様からのお問い合せの内容でも、時々、溶ける糸で縫って欲しいとご要望を頂くことがあります。
実は、医療の常識として、溶ける糸(吸収糸)で縫うと、余計に傷が汚くなってしまうので縫うことはありません。
溶ける糸(吸収糸)というのは、自然と溶けるのではなく、体の免疫反応で溶けるものなので、それで、皮膚を縫うと、飛び出している部分はなかなか溶けず、物理刺激になり、傷の炎症を誘発しますし、また、糸が溶けるとしても、免疫反応により、炎症反応が出てしまいます。
やはり、術後、傷をキレイに治すためのコツは、傷口(医学的には、創というのですが・・)の炎症を出来るだけ少なくし、早く炎症反応を終わらせることにあります。
そのために、創部の糸を目立たなくする方法として、透明な糸を検討しました。
透明な糸で皮膚を縫うことは、他科の手術を含めて、医学的に一般的に行われる通常の手術では行いません。
それは、抜糸の際に、糸そのものが見えなくて、うまく抜糸が出来ないため、外科医のタブーとして考えられているからです。
抜糸できず、残してしまうリスク(残っていたとしても、抜糸すれば問題ないのですが・・・)があったとしても、患者様のメリットに適う部分があるのでは無いかと思い、この度、メーカーさんにお願いをして作っていただきました。
当院の手術は、マイクロサージェリー(顕微鏡下手術)ですので、抜糸においても顕微鏡を使って、しっかりと糸を確認すれば、ほぼ、糸が残ることはないと考えております・・・。
もちろん、ご本人の同意を得た上で試験的に使用してみて、いくつか?抜糸出来てないことがありましたが、残っていたら残っていたらで、改めて抜糸をすれば良いと考え、今回、正式に採用することと致しました。
※ ただ、顕微鏡で見ても非常に見えないような糸ですので、縫うのにも時間と手間がかかります。透明な糸を使用させて頂くのは、自由診療での手術に限らさせて頂いておりますので、ご理解ください。
ちなみに、溶けない通常のナイロン製の糸でも、吸収糸でも、透明な糸でも、物理刺激により免疫反応がおこります。
糸が太ければ太いほど、物理刺激が強くなり、免疫反応が強く出てしまいます。
次に、考えたのが、究極的に細い糸で縫うことです。
以前あまで、高田眼科では、6-0(直径 約0.085mm)の糸でした。つまり、その糸で、眼瞼挙筋腱膜の固定、皮膚縫合を全て行っておりました。自由診療の場合には、皮膚縫合については、より傷を綺麗にするために、7-0(直径 約0.065mm)の糸を使用して縫うこととしておりました。
そして、去年からは、自由診療の方に対して、より細い糸の採用を始めました。その太さは、直径 約0.045mmの8-0の糸となります。
(※保険診療でも、7-0の糸で縫うことに変更し、バージョンアップさせております。)
ここまで、細い糸となると、縫っていても、7-0の透明クリアな糸と遜色がありませんし、当然、細い分、創部への機械刺激が減るため、傷の治りが非常に早いと確信しました。
透明クリアの縫合糸にあった抜糸残しがないため、安心できます。
こうして、2023年の初頭には、さらに、細い9-0(直径 約0.035mm)の糸の試作をメーカーさんにお願いして、使用してみようと考えております。
当院は全国でも飛び抜けて針糸の消費量が多いため、私の要望に応じて、針糸をカスタムして下さり、バックアップして頂いており、皮膚縫合用の9−0の針糸を作って頂けました。
ただ、細ければ、細いだけ、縫合の際に、糸が引っ掛かったりすると、切れてしまったり、ちょっとした空気の流れや静電気で、なびいたりするので、縫うのが非常に難しくなりますので、より高度な縫合技術が必要となりますが・・・。
眼瞼下垂症手術は、どうしても、すべての人に対して結果を保証できるものではありませんが、残念ながらクレームを頂くことがございます。
ただ、そういった声に耳を傾けることが非常に大事だと考えております。
当院のブログをご覧になられて、私のことを名医だと仰って受診される方がいらっしゃいますが、私は自分のことを名医だとは思ってはおらず、むしろ、「迷医」だとも思っております。
眼瞼下垂症手術の最適解を探して、いつも迷いながらも手術を行い続けているからです。
このように、当院では、手術内容について、日々、見直しを重ねて、よりトラブルの少ない手術を探し求めております。