若い人の眼瞼下垂(小学生・中学生・高校生)
眼瞼下垂の主な原因は加齢といわれており、中高年(40代以降)の方に多く見られる病気です。
しかし、小学生や中学生、高校生などの若い人に眼瞼下垂が発症するケースもあります。
眼瞼下垂は自然には改善しないため、症状に合わせた方法・タイミングでの治療が必要です。
放置していると症状が進行して、学業や性格形成に影響を与えるおそれがあります。
この記事では、若い人(小学生~高校生)の眼瞼下垂の原因や手術方法、保険適用の有無などについて詳しく解説します。
若い人の眼瞼下垂の原因
眼瞼下垂には、先天性と後天性のものがあります。
先天性眼瞼下垂は、生まれつきまぶたを上げる力が弱い状態です。
一方、後天性眼瞼下垂は、もともとは正常に開いていたまぶたが、大人になるにつれて徐々に、または急に下がってくる状態を指します。
小学生や中学生、高校生などの若い人で眼瞼下垂の症状が見られる場合は、先天性眼瞼下垂である可能性が高いと考えられます。
ただし、目を酷使したり強い刺激を与えたりすると、正常だったまぶたが下がって後天性眼瞼下垂になるおそれもあるため注意が必要です。
先天性眼瞼下垂の原因
出生時または生後1年以内に認められる先天性眼瞼下垂の約9割が、眼瞼挙筋の発育不全によるものといわれています。
また、眼球の運動にかかわる動眼神経の障害や、他の眼疾患、全身疾患などが原因で眼瞼下垂になる場合もあります。
眼瞼挙筋の発育不全
まぶたを引っ張り上げる主な筋肉である眼瞼挙筋が生まれつき機能しない、または力が弱いために先天性眼瞼下垂を引き起こします。
眼瞼挙筋の発育不全によって起こる眼瞼下垂を「単純性下垂」と呼び、約8割の人が、片目だけに症状が現れる「片眼性(へんがんせい)」です。
眼瞼挙筋の発育不全は、胎児期の発達の過程で起こる問題が関係しているといわれていますが、明確な原因は解明されていません。
動眼神経の発達異常
動眼神経とは、眼球の動きを操作する役割を持つ神経です。
目の中に外界の光を取り入れる瞳孔をコントロールする筋肉も支配しています。
動眼神経に障害が起こる動眼神経麻痺を発症すると、まぶたをうまく上げられません。
また、目を上下や左右に動かせなくなる場合もあります。
動眼神経麻痺の多くは、脳腫瘍(のうしゅよう)や頭部外傷などによって生じる後天性のものですが、生まれつき動眼神経に障害があるケースもあり、先天性の眼瞼下垂につながります。
他の疾患による影響
マーカスガン顎関節症やホルネル症候群など、他の疾患が原因で先天性眼瞼下垂を発症する場合もあります。
先天性眼瞼下垂と関連する疾患 | 特徴 |
---|---|
マーカスガン顎関節症 | 口を開くときにまぶたが勝手に上がる |
ホルネル症候群 | 顔の片側において、まぶたが下がって瞳孔が小さくなり、発汗が減少する |
重症筋無力症 | 全身の筋力が落ちて疲労感が生じる |
眼瞼裂狭小症候群(がんけんれつきょうしょうしょうこうぐん) | 上まぶたと下まぶたの間の水平径と垂直径が小さくなり、目が離れて見える |
先天性眼瞼下垂の症状
先天性眼瞼下垂では、まぶたがうまく開かない、視界が悪くなるなどの症状が現れます。
- まぶたが開きにくい
- まぶたを下げにくい
- 上まぶたで瞳孔が隠れる
- 視界が悪いため、眉を上げる動作をする
- ものを見るときに顎を上げる
まぶたが明らかに下がって瞳孔を覆っているなど、見た目で判断しやすい場合は症状をすぐに見つけられるでしょう。
しかし、症状が軽度だと眼瞼下垂に気付かない場合があり、特に軽度かつ両眼性の場合は判断が難しいとされています。
新生児期や幼児期の子どもの場合、自分では認識が難しいため、小学生以降になってはじめてまぶたや身体に違和感を覚え、先天性眼瞼下垂と気付くケースもあります。
後天性眼瞼下垂の原因
後天性の眼瞼下垂になる原因の大半は、加齢によるものです。
多くの場合、長い年月をかけて少しずつ挙筋腱膜がダメージを受けて眼瞼下垂を引き起こします。
女性では40歳以降、男性では50歳以降に発症しやすくなるのが特徴で、10代(小学生〜高校生)で発症するケースはほとんどありません。
ただし、スマートフォンの使いすぎや摩擦などの刺激によって目に大きな負担がかかると、発症リスクが高まり、若い人でも眼瞼下垂になるおそれがあります。
目に刺激をできるだけ与えないよう、生活習慣を見直しましょう。
スマートフォンの使いすぎ
若い人が眼瞼下垂になる原因としてもっとも多いのが、スマートフォンの長時間利用による目の酷使です。
10代の若い人のスマートフォン利用率は年々増加傾向にあります。
総務省が公表した令和4年版情報通信白書によると、2021年における10代のインターネット平均利用時間は平日で191.5時間、休日で253.8時間となっており、全年代の平均を大きく上回っています。
なかでも、スマートフォンによるインターネット利用がもっとも多い状況です。
画面や文字が小さいスマートフォンは、長時間の利用によって目の周辺の筋肉や神経に大きな負担をかけるおそれがあります。
また、スマートフォンやタブレット、ゲーム機器などが発するブルーライトは、ドライアイを招く原因の一つです。
ドライアイになると、眼球とまぶたの間に摩擦が生じてしまい、眼瞼挙筋やまぶたの皮膚を傷つけかねません。
こうしたダメージの蓄積により、若い人でも眼瞼下垂の症状が現れるケースがあります。
花粉症やアトピー性皮膚炎
花粉症やアトピー性皮膚炎などによってかゆみが生じ、目のまわりをかいたり擦ったりしていると、まぶたに負担がかかり、眼瞼下垂になりやすくなります。
小学生~高校生の若い人は、無意識のうちに目をこすってしまう場合が多いでしょう。
しかし、眼瞼下垂の発症リスクを下げるためにも、日頃からまぶたへの刺激を避けることが大切です。
コンタクトレンズの長期装着
コンタクトレンズ(とくにハードコンタクトレンズ)を長期的に使用していると、挙筋腱膜が薄くなり、眼瞼下垂になりやすくなります。
1日に約2万回するといわれている「まばたき」によって、挙筋腱膜がこすれてしまうためです。
コンタクトレンズを装着する際は、正しいケアと使用方法を守りましょう。
- コンタクトレンズを外すときは優しく丁寧におこなう
- 家ではメガネを使用するなど、装着時間をできるだけ短くする
- コンタクトレンズを装着しない日をつくる
- ハードコンタクトレンズは専用スポイトを使って外す
アイプチやアイメイクのしすぎ
簡単に二重まぶたを作れるアイプチやアイテープは、若い人に人気のアイテムです。
しかし、アイプチやアイテープを長期的に使用していると、眼瞼挙筋が疲労して眼瞼下垂の原因となる場合があります。
粘着部分の成分がまぶたの皮膚に刺激を与え、かぶれを引き起こして眼瞼下垂を誘発するリスクも考えられます。
また、アイメイクやつけまつげによる肌へのダメージにも注意が必要です。
まぶたを強くこすったり、無理につけまつげを引っ張ったりすると、まぶたに大きな負担がかかります。
まぶたは皮膚が薄くデリケートな部分であるため、若いころから頻繁にアイプチを使用したり、過度のアイメイクをしたりするのはおすすめできません。
眼瞼下垂手術の時期
先天性眼瞼下垂の場合、一般的には早期の手術が推奨されます。
視力に影響を及ぼすおそれのある場合は3歳以降が一般的
症状が軽度であれば経過観察をおこないますが、視力に影響を及ぼすおそれがある場合や、成長とともに改善が見られない場合は手術の検討が必要です。
子どもの目の機能は、6~7歳頃までに完成するため、それまでに手術をおこなわなければ弱視になるリスクが高まります。
視力の発達を観察しながら、3歳以降に手術を受けるのが一般的といえるでしょう。
軽度や後天性の場合は14歳頃~を推奨
軽度の先天性眼瞼下垂や、後天性眼瞼下垂の場合は、審美的な観点でいうと顔の成長が落ち着く思春期(14歳頃)まで待つのがよいとされています。
※当院では、瞼の状態を診察した上で、本人・両親の手術への理解などを総合的に判断した上で、小学校高学年で行う場合もあります。
成長途中である子どもの眼瞼下垂手術ではデザインが非常に難しく、早い時期に手術をおこなうと、大人になってから顔つきが変化して再び手術が必要になる可能性があるためです。
また、幼児の眼瞼下垂手術では全身麻酔が必要である点も、思春期以降の手術が推奨される理由です。
全身麻酔下ではデザインの確認ができないデメリットがあるほか、麻酔を専門におこなう医師が手術に関与する必要があり、大きな医療機関でなければ手術を受けられません。
そのため、局所麻酔が可能で、本人が手術についてある程度理解できる年齢まで(小学校高学年以降)まで待ったほうが安心です。
眼瞼下垂手術の方法
眼瞼下垂手術にはいくつかの方法があり、まぶたを挙げる眼瞼挙筋の機能が残っている場合と、残っていない場合で手術方法が異なります。
まぶたを上げる力が残っている場合、眼瞼挙筋を縫い縮めて瞼板に再固定する「挙筋前転法」をおこなうのが一般的です。
一方、まぶたを上げる力が非常に弱いか、まったくない場合は「前頭筋吊り上げ術」が選択されます。
前頭筋吊り上げ術は、眉毛や額を持ち上げる前頭筋の力を利用してまぶたの開きを良くする方法です。
ただし、当院では前頭筋吊り上げ術による手術は問題が多いと考えており、現在はおこなっていません。
当院独自の挙筋前転法である「TKD切開法」により、負担を抑えながら自然な仕上がりを目指しています。
TKD切開法について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
保険適用について
眼科や形成外科の診察で眼瞼下垂症と認められれば、保険診療により手術を受けられます。
手術方法 | 料金(3割負担) |
---|---|
挙筋前転法 | 21,600円(片目) |
前頭筋吊り上げ術 | 55,590円(片目) |
保険適用により費用を大幅に抑えられますが、保険診療ではまぶたの機能回復のみを目的としているため、審美目的の施術はおこなえません。
眼瞼下垂の費用や保険適用については、下記の記事で詳しく解説しています。
審美性にこだわるなら自由診療を推奨
見た目にこだわりたい方や、切らない眼瞼下垂手術を受けたい方は、自由診療による手術を検討しましょう。
料金は保険診療よりも高くなりますが、「左右差を整えたい」「目をより大きく見せたい」などの審美的な希望にも応えてもらえます。
10代の若い人の場合、機能改善だけではなく、術後の見た目も重視したいと考える方は少なくありません。
本人と保護者の方、医師でよく相談し、希望する仕上がりのイメージに合う方法を選択してください。
まとめ
今回は、若い人の眼瞼下垂(小学生・中学生・高校生)の原因や治療法、費用について解説しました。
若い人で眼瞼下垂の症状が見られる場合、生まれつきまぶたが上がりにくい先天性眼瞼下垂である可能性が高いといえます。
しかし、スマートフォンの長時間使用やまぶたへの摩擦などによって、正常なまぶたに負担がかかり、眼瞼下垂を引き起こすケースもあるため注意が必要です。
若い人(小学生・中学生・高校生)の眼瞼下垂でよくある質問
- 若い人の眼瞼下垂はなぜ発生しますか?原因は?
-
眼瞼下垂には先天性と後天性があり、小学生や中学生、高校生などの若い人で眼瞼下垂の症状が見られる場合は、先天性眼瞼下垂である可能性が高いと考えられます。
出生時または生後1年以内に認められる先天性眼瞼下垂の約9割が、眼瞼挙筋の発育不全によるものです。
後天性の場合で、中高生のような若い世代での眼瞼下垂は稀ですが、スマートフォンの使いすぎ、花粉症やアトピー性皮膚炎で目をこする、コンタクトレンズの長期装着、アイプチやアイメイクのしすぎなどが眼瞼下垂の原因となります。
- 若い人の眼瞼下垂の典型的な症状は何ですか?
-
眼瞼下垂の症状は、まぶたが重い、開きにくい、まぶたを下げにくい、上まぶたで瞳孔が隠れる、視界が悪く眉を上げてものを見る、顎を上げてものを見る、いつも眠たそうに見える、などが挙げられます。これらの症状が頭痛や肩こりの原因となる場合もあります。
- 学業や日常生活への影響はありますか?
-
視界の制限により読書や板書の見えにくさ、集中力の低下が起こる可能性があります。
- 治療や手術はいつ行えば良いですか?
-
症状の程度と影響によりますが、早期の診断と治療が推奨されます。視力に影響を及ぼすおそれがある場合や、成長とともに改善が見られない場合、視力の発達を観察しながら、3歳以降に手術を受けるのが一般的です。
軽度の眼瞼下垂や後天性眼瞼下垂の場合、顔の成長が落ち着く思春期(14歳頃)まで待つのがよいとされています。
- 手術以外の治療法はありますか?
-
マッサージやテープが紹介される場合もありますが、基本的に眼瞼下垂は手術以外に有効な治療法はありません。
- 手術のリスクはありますか?
-
感染やまぶたの位置の不均一など、一般的な手術リスクがあります。
- 保険は適用されますか?
-
眼科や形成外科の診察で眼瞼下垂症と認められれば、保険診療により手術を受けられます。
- 手術を受けた後、学校にはいつから通えますか?
-
個人差がありますが、まぶたの腫れや内出血は翌日がピークとなり、その後も1~2週間程度続くとお考えください。夏休みなどの長期休暇に計画していただくと良いでしょう。
- 手術後、部活・スポーツはいつから再開できますか?
-
眼瞼下垂の手術後は、瞼に力を入れると傷口が開いてしまう可能性があります。運動は抜糸から1週間以降、徐々に再開しましょう。約1ヵ月後には、特に問題なく激しい運動ができるようになります。
- 眼瞼下垂は成長と共に改善することはありますか?
-
先天的な眼瞼下垂の場合、成長に伴う自然な改善は期待できません。
- 家族に眼瞼下垂の人がいる場合、遺伝の可能性はありますか?
-
先天的な眼瞼下垂の場合、遺伝的要因が関与することがあります。
- 手術後の再発のリスクはありますか?
-
再発の可能性は低いですが、成長に伴う変化により再発することもあります。
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