先天性動眼神経麻痺とは|症状・弱視・脳の検査と、斜視とまぶたの手術の順番を眼形成外科医が解説

生まれつき片方のまぶたが重く下がっていて、その目が外や下を向いている。瞳孔の大きさも左右で違う。こうした特徴がそろうとき、まぶたの筋肉だけでなく、目を動かす神経そのものに原因がある「先天性動眼神経麻痺(せんてんせいどうがんしんけいまひ)」の可能性があります。このページでは、症状、必要な検査、視力への影響、手術の考え方までをまとめて解説します。
執筆:髙田 尚忠(高田眼科 院長/眼科医・眼形成外科) 最終更新:2026年10月
先天性動眼神経麻痺とは
動眼神経は、脳から目のまわりの筋肉へ指令を伝える神経の一つです。生まれつき、またはお産の前後にこの神経がうまく働かない状態を「先天性動眼神経麻痺」といいます。
動眼神経は、まぶたのほかにも多くの働きを受け持っています。そのため、まぶたが下がるだけでなく、次のような症状が組み合わさって現れます。
まぶたを上げる筋肉(上眼瞼挙筋)を動かします。働かないと眼瞼下垂になります。
内直筋・上直筋・下直筋・下斜筋を動かします。働かないと、目が外や下にずれる斜視になります。
光が当たったときに瞳孔を縮める筋肉も受け持ちます。左右で瞳孔の大きさが違うことがあります。
近くにピントを合わせる働きにも関わります。
ふつうの先天性眼瞼下垂との違い
生まれつきの眼瞼下垂の多くは、まぶたを上げる筋肉そのものの発育不良による「単純性眼瞼下垂」で、目の動きや瞳孔には異常がありません。先天性動眼神経麻痺は、目の動きと瞳孔にも症状が出る点で区別されます。
子どもの動眼神経麻痺の中では、生まれつきのものが最も多い原因です。米国の研究では、子どもの動眼神経麻痺のおよそ4割が先天性でした4,5。大人に多い、脳動脈瘤や糖尿病による後天性の動眼神経麻痺とは、原因も治療の進め方も異なります。
先天性動眼神経麻痺の症状
症状の出方は人によって大きく異なります。神経が完全に働かない「完全麻痺」は少なく、一部が働く「不完全麻痺」が多いことが分かっています。韓国のソウル大学の14人の研究では、13人(93%)が片目だけで、12人(86%)が不完全麻痺でした6。
まぶたを上げる力がほとんどないことが多く、瞳孔が隠れるほど下がることもあります。
また、麻痺した側の目には、強い乱視や、左右の度数の差(不同視)がほぼ全員にみられたという報告があります1。これは後で述べる弱視の原因になります。
MRIで分かること
専用の撮り方のMRIでは、動眼神経が細い、あるいは見つからない例があり、動眼神経が動かす筋肉がやせていることも確認できます6。
韓国・ソウル大学盆唐病院の14人の研究。動眼神経そのものが細い・ない例は5人(36%)でした6。
似た症状の病気
見た目が似ていても、原因が違えば治療の考え方も変わります。
脳の検査が必要な理由
かつて先天性動眼神経麻痺は、ほかに異常を伴わない病気と考えられていました。しかし、その後の研究で、脳や神経の発達の問題を合併していることが少なくないと分かっています。
カナダのブリティッシュコロンビア大学の研究では、子どもの動眼神経麻痺は大人と違い、瞳孔の所見だけでは脳の病気の有無を判断できないとして、全員に脳の画像検査が必要だとしています2。
「生まれつき」と思っていても、症状が進むときは必ず再検査を
原因不明の動眼神経麻痺と考えられていた乳幼児5人が、後に動眼神経の腫瘍と分かった報告があります。5人中4人は、平均13か月のうちに完全麻痺へ進みました10。まぶたの下がり方や目のずれが年々強くなる場合は、先天性と決めつけず、詳しいMRIを含めて再度検査を受けてください。
赤ちゃんの視力と弱視
視力は、生まれてから物をくっきり見ることで育ちます。まぶたが瞳孔をふさいでいたり、強い乱視や斜視があったりすると、その目の視力が育たない「弱視」になることがあります。米国眼科学会の診療指針でも、眼瞼下垂は弱視の原因の一つとして挙げられ、見つかった時点で目の詳しい検査を受けることがすすめられています11。
弱視は、早く見つけて治療を始めるほど改善しやすくなります11。米国の研究では、先天性の動眼神経麻痺の子どもは弱視治療への反応が最もよく、治療を受けた全員が正常な視力まで改善しました4。一方、別の研究では、弱視の治療で視力を伸ばすのは難しく、今ある視力を保つことが中心になったと報告されています5。いずれにしても、乳幼児期から定期的に眼科で診てもらうことが大切です。
- メガネで乱視・度数の差を矯正する
麻痺した側に多い強い乱視や不同視を、まずメガネで矯正します1,11。 - よいほうの目を隠す訓練
アイパッチなどで見えるほうの目を一定時間隠し、弱いほうの目を使わせます11。 - 瞳孔がふさがれていれば早めの手術
まぶたが瞳孔を完全にふさぎ、弱視の治療ができない場合は、乳幼児期でもまぶたを上げる手術が検討されます11。
赤ちゃんがあごを上げたり眉を持ち上げたりして、下がったまぶたの下から物を見ようとしている場合は、まぶたの下から光が入っているサインです。それでも自己判断せず、小児の眼科で視力の発達を確認してもらいましょう。
治療:斜視の手術とまぶたの手術
先天性動眼神経麻痺の治療は、弱視の治療に加えて、斜視の手術とまぶたの手術を組み合わせて行います。英国ムーアフィールズ眼科病院の報告では、斜視とまぶたの手術によって、多くの人が見た目の面で納得できる結果を得ていました7。
斜視の手術を先に行う理由
斜視の手術が必要な場合は、まぶたの手術より先に行います。
まぶたの高さは瞳孔の中心を基準に決めるため、目が大きくずれたままでは左右差を正しく合わせられません。また、斜視の手術では「開瞼器(かいけんき)」でまぶたを大きく開くため、先にまぶたを手術すると、その影響で眼瞼下垂が再発するおそれがあります。
動眼神経麻痺の斜視は、1回の手術で整わないことが少なくありません。米国ピッツバーグ大学の研究では、不完全麻痺で平均1.5回、完全麻痺で平均2.3回の斜視手術が行われていました。目の位置は大きく改善しますが、両目で立体的に見る力を取り戻すのは難しいとされています5。
まぶたの手術で特に注意すること:角膜を守る
動眼神経麻痺では、目を上に動かす筋肉も弱いことが多く、眠るときやまばたきのときに黒目が上に逃げる反射(ベル現象)が弱くなります。そのため、まぶたを上げすぎると角膜が乾いて傷つきやすくなります。
韓国の研究では、手術後に角膜の小さな傷が24眼中8眼でみられましたが、目薬と眼軟膏で管理できました3。米国アイオワ大学の研究では、まぶたを瞳孔の上まで上げて見えにくさを改善できたのは12人中10人(83%)でした12。見た目と角膜の安全の両方のバランスを取ることが、この病気の手術の要点です。

まぶたを上げる力がほとんどないケースが多い病気です
先天性の動眼神経麻痺では、まぶたを上げる筋肉がほとんど働いていないことが多く、手術では挙筋を大きく前に出して固定します。同時に、ベル現象が弱い方が多いため、角膜を守れる高さを見極めることを大切にしています。
手術の方法
まぶたを上げる力がとても弱い眼瞼下垂では、世界的には額の筋肉の力でまぶたを吊り上げる「前頭筋吊り上げ術」が多く行われています3。ただし、吊り上げに使う材料のどれが最もよいかについて、複数の臨床試験をまとめた分析(コクランレビュー)では、3つの試験・160人の結果からは結論が出せないとされています13。
高田眼科では、先天性動眼神経麻痺による眼瞼下垂も、基本的に「眼瞼挙筋前転法」で治療しています。まぶたを上げる力が弱いほど挙筋を大きく前に出し、固定する点を増やして自然なカーブの形に整えます。目が閉じにくくなるのを防ぐため、皮膚を大きく切り取らず、まぶたを閉じる筋肉をできるだけ残します。
子どもの動眼神経麻痺では、まぶたの位置を保つために複数回の手術が必要になることがあります14。成長に伴う変化も含めて、長い目で経過をみていくことが大切です。
手術を受ける時期
手術の時期は、弱視の心配があるかどうかで大きく変わります。
よくある質問
成長とともに自然に治りますか?
完全に治ることは多くありません。不完全麻痺の一部で自然に軽くなった例はありますが5、生まれつきの麻痺の多くは残ります。逆に年々悪くなる場合は、別の原因を調べる必要があります10。
まぶたの手術だけで、目のずれ(斜視)も治りますか?
治りません。斜視は目を動かす筋肉の手術で治療します。必要な場合は、斜視の手術を先に行います。
手術で二重まぶたになりますか?
二重を作る手術ではありません。生まれつきの眼瞼下垂の方は、もともと二重の線がないことが多く、手術は見え方とまぶたの高さを整えるためのものです。
保険は使えますか?
高田眼科では自費診療です。当院では、先天性眼瞼下垂と、それに準ずる挙筋の働きの大きな低下は自費診療としています。手術費用は片眼35万円(税込・麻酔代込み)で、詳しくは手術費用のページをご覧ください。
高田眼科の考え方
先天性動眼神経麻痺は、まぶただけでなく、目の動き・瞳孔・視力の発達まで関わる病気です。乳幼児期は小児眼科での弱視の管理と脳の検査を優先し、まぶたの手術は斜視の治療を済ませてから行います。当院では、まぶたを上げる力がほとんどない場合も眼瞼挙筋前転法を基本とし、角膜を守ることと自然なまぶたの形の両立を目指します。生まれつきの眼瞼下垂全体については先天性眼瞼下垂のページで解説しています。
生まれつきのまぶたの下がりと目のずれでお悩みの方へ
斜視の治療歴や、これまでの検査結果があればお持ちください。手術の順番と時期を一緒に考えます。
参考文献
PubMed・Cochrane Libraryに収載された論文と米国眼科学会(AAO)の診療指針をもとに作成しています。文献3・11は全文、それ以外は抄録を確認しています。
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