眼瞼下垂症と眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)、ボトックスbotox注射での見極めが必要な理由
当院は、眼瞼に強みを持った眼科なので、眼瞼下垂症に限らず、様々な眼瞼疾患の患者さんが来られます。
特に、眼瞼下垂症ではないかと考えれて来られても、診察の結果、眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)と診断されることが多くあります。
また、似た疾患としては、片側顔面痙攣というのもあります。
それらの治療として、ボトックス注射治療というのが、第一選択となります。
眼瞼下垂症と眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)は、似てるけど・・・
眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)と眼瞼下垂症というのは、どちらも、瞼が開きづらくなるという意味では、同じ疾患となりますが、
実は、内容としては、全くのあべこべの疾患だったりします。
どういうことかいうと、車を運転していて、アクセルを踏んでも、車のスピードが出なくなった状況を想像してみていただけますか??
その際に、考えられる故障原因は、まず第一に、車のエンジンが壊れてしまった場合が想定されるでしょう。
次に想定されるのは、ブレーキの故障です。ブレーキの調子が悪くなり、ずっと、ブレーキが効きっぱなしになったとしたら、車のスピードは出なくなるからです。
話を戻しますと、眼瞼下垂症というのは、瞼を上げる筋肉、特に、眼瞼挙筋に異常が出てしまい上がらなくなってしまう・・・いわば、この例えで言うとアクセルの故障と言えます。
そして、眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)は、瞼を閉じる筋肉、眼輪筋が勝手に常に働くことで、常に閉じようとしてしまい、目が開きにくくなる状態・・・いわば、ブレーキの故障となるわけです。
したがって、眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)なのに、眼瞼下垂症手術を行ってしまうと、閉じようとする状態になのに、無理やり開けようとする状態となり、結果、筋肉同士の綱引きになり、無理が掛かって、非常に辛い状態となってしまいます。
ミュラー筋を傷つける手術は、行うべきではない理由
当院では、眼瞼下垂症手術において、ミュラー筋を傷つけない手術が一番だと考えているのは、眼瞼下垂症術後合併症の術後眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)があるからです。
つまり、ミュラー筋を傷つける手術は、術後眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)が発生しやすいと考えているからです。
術前から、眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)がある患者様に、不用意に眼瞼下垂症手術を行い、結果として、ミュラー筋を傷つけることになれば、高確率で術後眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)で悩まされることになります。
そこで、ポイントとなるのは、眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)と眼瞼下垂症の見極め方です。
眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)の見極めのポイント
正確に言えば、眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)と眼瞼下垂症は合併することが多いですので、眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)があるのか?ないのか?ということを見極めることです。
眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)の特徴的な症状は、実は、羞明(しゅうめい)です。
羞明とは、光を眩しく感じることです。
眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)を持つ方のほとんどのケースで、光の眩しさ(羞明)の訴えがあります。
眩しさを感じる代表的な疾患としては、白内障がありますが、白内障の眩しさというのは、光が急に視界に入った時に強く自覚する眩しさです。
白内障は、水晶体が濁る疾患で、光が入ることで、水晶体で乱反射を起こすことで眩しさを感じるからです。
ある意味、瞳孔が閉じれば、眩しさがかなり減るともいえ、一瞬眩しくても、すぐに順応できるイメージです。
そして、眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)は、光のセンサーである網膜・・・そして、その光情報を処理する脳が過敏になることで、光を感じ過ぎる状態ですので、
周囲の光が強いだけで、眩しく感じます。そして、光に順応することなく、周りが明るければ、ずーーっと眩しさが続く感じです。
ですので、日中、眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)の患者さんは、外を歩いていると、目を閉じているので、人にぶつかったり、看板や電柱などにぶつかるようなエピソードを持つ方が多いです。
当院では、眼瞼下垂症のご相談を来られたら、まずは、眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)の可能性を必ず検討します、そして、しなければなりません。
眼瞼下垂症手術の治療は、唯一、手術です。一旦手術をすると、元には戻せません。
手術は、言ってしまえば、必ず、成功を約束されたものではなく、あくまで、非常手段です。
100%にするためには、最大限近づける要素して、適応外のケースに手術を行わないことは、第一前提です。
当院でも、かなりの成功率を誇っておりますが、残念ながら100%ではありませんが、それに近づける努力、工夫、経験から得られた手法を大事にしてます。
眼瞼下垂症手術前に眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)が見つかった実際の事例
先日、当院に眼瞼下垂症で相談に来られた患者様がいらっしゃいました。
その方を診察してみて、光の眩しさは、もちろんのこと、瞬き(まばたき)の多さなどが気になり、眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)の可能性をお伝えしました。
しかしながら、「眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)で、今まで、7度もボトックス注射を別の病院で受けて来たけど、全く効かなかった。残された方法は眼瞼下垂症手術だと思って来ました。」とその患者様は答えられました。
眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)の第一選択の治療は、実は、ボトックス注射ですが、特効薬のように効くこともあるのですが、全く効かないこともあります。
そして、打ち方も、ある程度の指針がありますが、安定して効かせるにも工夫が必要だったります。
その時には、眼瞼下垂症手術を念頭において、一度だけ、ボトックス注射をお願いすることで、了承を得て、注射を行いました。
結果としては、打った瞬間から、「目が開きやすくなった・・・」そして、「今までの注射は、なんだったのか?」と。
眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)の診断については、速瞬テスト、ポンポコポンテストなどの瞬き(まばたき)を使った身体的検査がありますが、結局は、ボトックス注射が効くか?どうか?で見極める部分があります。
つまり、対応した治療が効果あれば、逆説的に、その疾患の診断が確定する。診断的治療ともいうべきやり方が医療にはありますが、ボトックス注射は、眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)において、診断的治療となります。
しかしながら、ボトックス注射は、非常に効き方に波があり、ちょっとしたコツがあります。
今回のケースでは、当院で行っているボトックス注射のやり方が、非常に効果的であったと言えます。
この患者様は、ボトックス注射の効果に大変満足されましたが、やはり、眼瞼下垂症の合併もあることから、手術を前向きに検討していただき、手術を受けてくださりました。
もちろん、手術方法は、ミュラー筋を傷つけないTKD切開・ファシアリリース法で行い、現在、経過良好にて様子をみております。
当院オリジナル眼瞼下垂手術方法:TKD切開・ファシアリリース法については、下記のリンクをご覧になってください。
逆に、眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)に気づかず、ミュラー筋に負担がかかるような眼瞼下垂症手術方法を行ったとしたら、術後眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)に、患者様本人は悩まされ、術者も対応に苦慮するはずです。
施設によっては、術後眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)と診断し、眼輪筋切除術を行うべく、今度は下眼瞼(したまぶた)の手術を提案され、追加手術をご提案されると思います。
しかしながら、眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)治療ガイドラインでも指摘されているように、眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)に対しての外科的手術は、一時的な効果しかなく、再発率が多く、結局は、ボトックス注射を行うしかないとなります。
しかしながら、術後眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)の場合、傷跡、瘢痕組織にボトックス注射を打つものですから、相当に痛みを伴うもになり・・・患者様本人は非常にツライものになります。
一旦手術をすると、後に戻ることは出来ません。
したがって、手術方法を選択する際には、ドクターとしては必ず、患者様のメリットとデメリットを考え、患者様が術後喜んでいただける、満足していただける期待値が高い場合を常に考えることが大事です。
手術という言葉は、万能のように聞こえる魔法の言葉ですが、その実、全く万能ではありません。
当院としては、そのことを常に考え、緊急性がない限りにおいて、極力、手術ではない治療法を模索するという診療スタイルが非常に大事だと考えております。