緑内障治療薬におけるプロスタグランジン関連眼窩周囲症について
概要
緑内障治療薬におけるプロスタグランジン関連眼窩周囲症(Prostaglandin-associated periorbitopathy, PAP)は、プロスタグランジン関連薬(PG製剤)、特に、の使用によって引き起こされる眼瞼周囲の異常を指します。
PG製剤には、FP2受容体作動薬とEP2受容体作動薬の2種類があり、PAPを引き起こすのは、主にFP2作動薬の方で、EP2作動薬で起きることは少ないと言えます。

PAPが気になる場合には、EP2受容体作動薬(エイベリス)に変更、もしくは、FP2受容体作動薬でもキサラタン®を試してみることを主治医と相談すると良いと言えます。
PG製剤は緑内障治療において最も効果的な薬剤の一つですが、約15~20%の患者に眼瞼色素沈着、睫毛増長、眼窩脂肪萎縮などの副作用が現れます。
これらの副作用は通常軽度で可逆的ですが、稀に重症化することもあります。
症状
- 眼瞼色素沈着:眼瞼皮膚が褐色に色素沈着します。上眼瞼よりも下眼瞼で多く見られます。
- 睫毛増長:睫毛が濃く、長く、太くなります。
- 眼窩脂肪萎縮:眼窩内の脂肪が減少することにより、眼窩が陥没し、目がくぼんだように見えます。
- 眼瞼下垂:眼瞼挙筋の機能が弱くなり、まぶたが下垂します。
- 眼球突出:眼窩内の脂肪が減少することにより、眼球が前に押し出されます。
- 虹彩色素沈着:虹彩が褐色に色素沈着します。

最近、緑内障治療をされてる方の眼瞼下垂症手術をおこなうことが増えております。

原因
PG製剤は、眼圧を下げるために房水の流出を促進する作用があります。しかし、PG製剤は眼瞼周囲の組織にも作用し、色素沈着、毛包の活性化、脂肪組織の減少などの副作用を引き起こす可能性があります。
PAPを引き起こしやすいPG製剤:FP2受容体作動薬

PAPを引き起こしにくいPG製剤:EP2受容体作動薬

治療
副作用への対応
充血、結膜刺激症状(点眼時にしみる など):
充血や刺激作用に関しては点眼開始直後に強く出ることがありますが、徐々に充血や刺激感は和らいでいく場合があります。
睫毛増長:
睫毛の異常な伸長に関して、女性にとっては一見喜ばしいように思われますが、睫毛長くなるというより、多く、太く乱生するという感覚です。基本的には夜点眼1回で、“寝る前”に点眼するように言われます。点眼後、皮膚に付着した液成分を拭き取ることが必要です。
眼窩脂肪萎縮、上眼瞼溝深化(Deepening of Upper Eyelid Sulcus: DUES)
DUESに関しては中止、変更すれば元に戻る可逆性の副作用と言われています。
しかしながら、眼圧上昇のリスクを考慮すると中止できず、PAPが出現するのは仕方がないとして、PG製剤の使用を継続する必要が場合も多くあります。
また、PG製剤は、緑内障治療薬の中で第一選択と言っていいほど、眼圧を下げる効果が一番強いと考えられているからです。
- 眼瞼色素沈着:レーザー治療や光治療
- 睫毛増長:睫毛切除や電気脱毛
- 眼窩脂肪萎縮:ヒアルロン酸注射や脂肪注入
- 眼瞼下垂:眼瞼挙筋手術
- 眼球突出:眼窩減圧術
予防
PAPは同じPG関連薬でもこれらの副作用が出やすいものと出にくいものがあります。
また、可逆的で点眼の中止によって改善するので、PAPが気になる場合には他の種類の点眼薬に変更するこで対応できます。
女性の方で、そういったPAPが気になるようであれば、はじめから副作用が出にくい種類を選ぶことも大事です。
基本的なことですが、点眼後に顔を洗って眼の周りについた点眼液をしっかり洗い流すことで副作用は出にくくなります。
PG関連薬は、基本的には1日1回点眼なので、朝点眼するなら洗顔前に、夜なら入浴前に点眼することが良いと考えます。
一般的に誤解されていることが多いですが、必ず寝る前だけというのではなく、1日1回同じぐらいの時間で点眼することが大事になります。
PAPの予防には、以下の方法があります。
- はじめから副作用が出にくい種類の薬剤を選ぶ
- PG製剤の使用量を最小限に抑える
- PG製剤の種類を変える
- 眼瞼保護剤を使用する
- 選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)などの緑内障レーザー治療を行ってみる

緑内障治療薬は、どんなお薬でも、①薬理作用の強いこと、②長期に使用すこと、③複数の薬剤を使用することが多いことなどから、PAPに限らず、様々な副作用が出やすいと言えます。
したがって、緑内障治療薬の副作用全般が気になる場合には、当院では選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)という新しい緑内障レーザー治療をお勧めしております

注意事項
PAPは、PG製剤の使用によって引き起こされる比較的新しい副作用です。長期的な影響は完全には明らかになっていません。
PAPの症状が現れた場合は、安易に自己判断で薬剤の中止をせず、必ず、主治医の眼科医に相談してください。
参考文献
- Tsai, J. C., & Katz, A. M. (2017). Prostaglandin-associated periorbitopathy: A review of the literature. Journal of Glaucoma, 26(1), 18-24.
- Noecker, R. P. (2016). Pigmentation associated with glaucoma medications. Current Opinion in Ophthalmology, 27(2), 107-111.
- Allingham, S. R., & Katz, A. M. (2015). Prostaglandin-associated periorbitopathy. Seminars in Ophthalmology, 30(5), 383-388.