アデノウイルス点状表層角膜炎
アデノウイルス点状表層角膜炎とは、アデノウイルスの感染によって引き起こされる目の炎症性疾患です。
複数の小さな濁りや点状の浸潤が角膜表面に現れる特徴があり、目の痛み、充血、流涙、視力低下などが起こります。
アデノウイルスは感染力が非常に強く、プールや公衆浴場などの共有設備を介して感染が拡大するケースが多いです。
本記事では、アデノウイルス点状表層角膜炎の症状や原因、治療方法などについて詳しく解説します。
この記事の著者
名前 / Name
高田 尚忠(たかだ なおただ)
高田眼科 院長|ひとみ眼科 / フラミンゴ美容クリニック 眼瞼手術担当医師
岡山大学医学部卒業後、郡山医療生活協同組合 桑野協立病院などの様々な医療機関を勤務し、現在は高田眼科の院長を務める。2022年3月より、名古屋市内の伏見駅近くのフラミンゴ眼瞼・美容クリニックを開院。
アデノウイルス点状表層角膜炎の特徴
アデノウイルス点状表層角膜炎は、流行性角結膜炎(はやり目, KEC)の発症後に現れる角膜の病変です1)。
アデノウイルスが原因の結膜疾患には、流行性角結膜炎(はやり目)と咽頭結膜熱(プール熱)があります。
それぞれに異なる症状が現れますが、眼症状が重症化しやすい、角膜病変の合併が起こりやすい特徴を持つのが流行性角結膜炎です。
7~14日の潜伏期間を経て、目の充血やまぶたの腫れ、目やにや涙の増加などの症状が現れます。
流行性角結膜炎の発症後に起こるアデノウイルス点状表層角膜炎
アデノウイルス点状表層角膜炎は、進行した流行性角結膜炎の特徴的な所見です。
通常は、アデノウイルスによる結膜炎(主に流行性角結膜炎)の発症から1~2週間後と、少し遅れて現れます2)。
角膜の表面が混濁している状態
アデノウイルス点状表層角膜炎は、黒目を覆う角膜の最も浅い層(角膜上皮)が点状に濁っている状態です。
眼科の専門的な検査機器(スリットランプ)で調べると、小円形の病変が角膜の表面に認められます。濁りの大きさは、通常5mm未満で比較的サイズが均一です3)。
※似たような名前ですが、角膜の最上層が多発的に欠損している状態の「点状表層角膜症(SPK)」とは区別されます。
進行するとさらに下の角膜実質にも影響を及ぼす可能性があり、感染症が治まったあとも数カ月から数年にわたって症状が持続したり、再発したりするケースが稀にみられるので注意が必要です3)。
アデノウイルス点状表層角膜炎の症状
アデノウイルス点状表層角膜炎の主な症状は、異物感や光に対するまぶしさ、涙の増加や視力の変化です。
ただし、アデノウイルス点状表層角膜炎の症状が現れる前に、流行性角結膜炎による充血や目の腫れ、水っぽい目やにの増加や前耳リンパ節腫脹などが認められます。
- 異物感
- 光に対するまぶしさ(羞明)
- 涙の増加(流涙)
- 視力の変化
異物感
アデノウイルス点状表層角膜炎の代表的な症状は、目の異物感です。
目に小さなゴミやほこりが入ったようなゴロゴロとした感覚があり、ひどい人では痛みを感じるケースもあります。
光に対するまぶしさ
専門的な言葉で羞明(しゅうめい)と呼び、光をまぶしく感じる症状もみられます。
普段は問題ないくらいの光の量であっても、異常にまぶしく不快に感じる、目を開けているのが辛い、といった症状です。
涙の増加
涙の量の増加もアデノウイルス点状表層角膜炎でよく認められる症状です(流涙, りゅうるいと呼びます)。
角膜上皮障害によって目の表面に存在する三叉神経(さんさしんけい)が刺激されて、反射的に涙があふれてくるような状態です。
視力の変化
角膜の混濁(濁り)が進行した場合、視界のぼやけや視力低下が認められます。
また、目に入る光の屈折が乱れるために、物が二重に見える場合(乱視)もあります。
眼科所見
アデノウイルス点状表層角膜炎は、「多発性角膜上皮下浸潤」や「点状角膜上皮下混濁」とも呼ばれ、眼科での所見では角膜上皮下浸潤が認められます。
角膜上皮下浸潤は、好酸球や好塩基球、好中球やT細胞といった炎症性細胞が角膜上皮下に入り込み、濁りが起きている状態です。
また、流行性角結膜炎に関連した濾胞性結膜炎※1や偽膜性結膜炎※2が認められる場合もあります。
※1濾胞性結膜炎(結膜濾胞):まぶたの裏に現れるボコボコとしたドーム型の隆起。
※2偽膜性結膜炎:炎症によって組織からにじみ出たものが、白色の膜になってまぶたの裏側に付着した状態。
アデノウイルス点状表層角膜炎の原因
アデノウイルス点状表層角膜炎は、その名前の通りアデノウイルスが原因で起こる感染症の一種です。
ただ、ウイルスが直接目の表面を攻撃して濁らせているわけではなく、遅延型の免疫反応が生じた病態と考えられています。
アデノウイルスによる眼感染症
7種(A~G)104型が存在するアデノウイルスのうち、D種に感染した316人中226人(72%)が角膜上皮下浸潤を発症したとされており、アデノウイルス点状表層角膜炎の発生率が高いのはD種への感染と考えられています4)。
また、アデノウイルスは乾燥に対して耐性があり、宿主から解離した後も最長1カ月間感染力を保っていたとの報告があります5)。
ウイルスが存在する目やにや涙への直接接触、ウイルスが付着した物を介した間接接触などで簡単に広がるため、感染対策が欠かせません。
免疫反応
アデノウイルス点状表層角膜炎は、角膜でアデノウイルスが増殖しているわけではなく、アデノウイルス抗原に対する免疫学的反応によって、角膜内に細胞浸潤が生じていると考えられています6)。
その結果、角膜に細かな点状の濁りができて、異物感や光に対するまぶしさなどの症状が現れます。
アデノウイルス点状表層角膜炎の検査・チェック方法
アデノウイルス点状表層角膜炎の検査では、問診やスリットランプ検査を経て、必要に応じてアデノウイルス迅速検査を行います。
検査方法 | 内容 |
---|---|
問診 | 自覚症状のチェック |
スリットランプ検査 | 目の詳細な観察、蛍光色素染色検査による角膜表面の確認 |
アデノウイルス迅速検査 | 結膜ふき取り検査 |
問診
目の異物感や異常なまぶしさ、涙の増加や目のかすみなどの症状があれば、アデノウイルス点状表層角膜炎の可能性があります。
すでに流行性角結膜炎と診断されていて治療中の人は、今までの症状の変化も詳しくお聞かせください。
スリットランプ検査
スリットランプ(細隙灯顕微鏡)は眼科の基本的な検査機器で、目に光を当てて特殊な顕微鏡で観察します。アデノウイルス点状表層角膜炎を診断するために欠かせない検査です。
目の表面から観察するだけでなく、網膜からの反射光を利用して角膜の混濁を調べる徹光法も有用です。
蛍光色素染色検査
スリットランプだけでは明確にならない角膜上皮の障害を確認するために、蛍光色素染色検査が行われる場合があります。
具体的には、フルオレセインという染料で目の表面を染色して、スリットランプで青い光を当てながら観察する検査方法です。
アデノウイルス迅速検査
アデノウイルスの存在を確認するために、必要に応じてアデノウイルス迅速検査を行います。
綿棒で結膜や角膜をふき取とって行う検査で、5分程度で結果が出ます。
また、クリニックによっては、PCR法によるウイルスの遺伝子検出や中和法によるウイルスの分離などが用いられるケースもあります。
アデノウイルス点状表層角膜炎の治療方法と治療薬について
アデノウイルス点状表層角膜炎の治療には、ステロイド点眼薬や抗菌点眼薬、角膜治療薬を使用します。
治療薬 | 例 |
---|---|
ステロイド点眼薬 | フルオロメトロン、ベタメタゾン、プレドニゾロン |
抗菌点眼薬 | オフロキサシン、ノルフロキサシン、アジマイシン |
角膜治療薬 | ヒアルロン酸ナトリウム、レバミピド、人工涙液 |
ステロイド点眼薬
一般名 | 商品名(例) |
---|---|
フルオロメトロン | フルメトロン |
ベタメタゾン | リンデロン |
プレドニゾロン | プレドニン |
ステロイド点眼薬は炎症を抑える働きのある治療薬です。角膜の炎症に効果がある一方で、感染症を悪化させる恐れがありますので、抗菌薬との併用が一般的です。
抗菌点眼薬
一般名 | 商品名(例) |
---|---|
オフロキサシン | タリビット |
ノルフロキサシン | バクシダール、ノフロ |
レボフロキサシン | クラビット |
アジスロマイシン | アジマイシン |
抗菌点眼薬は、感染拡大の予防や、細菌への混合感染の防止が目的です。
アデノウイルスによる角結膜炎にはクラミジア結膜炎との合併例があるため、クラミジアに有効なキノロン系、またはマクロライド系の抗菌点眼薬が使用されます。
角膜治療薬
一般名 | 商品名(例) |
---|---|
ヒアルロン酸ナトリウム | ヒアレイン |
レバミピド | ムコスタ |
人工涙液 | マイティア |
目の乾燥緩和や角膜の修復を促進するため、角膜治療薬が処方されるケースもあります。
アデノウイルス点状表層角膜炎の治療期間
アデノウイルス点状表層角膜炎は、ほとんどの場合、5~6週間以内に治癒します3)。
一般的な治療期間
症状の重症度 | 治療機関の目安 |
---|---|
軽度 | 2~3週間 |
中等度 | 3~4週間 |
重度 | 5~6週間 |
アデノウイルス点状表層角膜炎の治療にかかる期間は2~6週間が目安で、症状が重くなれば重くなるほど治療期間が長くなる傾向です。
予後は基本的に良好です。ただし、ごく稀に視力低下の後遺症が残る可能性がありますので、治療中は医師の指示に従って自己判断で治療を中断しないようにしましょう。
再発や悪化の可能性
アデノウイルスによる結膜炎自体が完全に鎮静化した数カ月後に、アデノウイルス点状表層角膜炎が悪化し、視力低下や光に対するまぶしさを訴えるケースが稀にあります。
ステロイド点眼薬の投与で症状が良くなりますが、投与中止に伴って再び悪化する可能性もあるため注意が必要です6)。
治療期間中の注意点
- 手洗いを徹底する
- タオルや枕などの共有を避ける
- 症状が改善するまではコンタクトレンズの使用を控える
- 点眼薬は指示された方法で正しく使用する
ご自身の治療と同時に、アデノウイルスを他の人に感染させない対策も大切です。
また、複数の点眼薬を使用するときは5分以上の間隔をあける、清潔な手で点眼するなど、医師の指示に従いましょう。
アデノウイルス点状表層角膜炎の薬の副作用について
アデノウイルス点状表層角膜炎に使用される点眼薬には、下記のような副作用が報告されています。
治療薬 | 副作用 |
---|---|
ステロイド点眼薬 | 目の刺激感、充血、感染症のリスク、眼圧上昇、緑内障、白内障 |
抗菌点眼薬 | 目の刺激感、かゆみ、まぶたの腫れ、ごく稀にアナフィラキシーショック |
角膜治療薬 | 目の刺激感、苦味、目のかゆみ、かすみ目 |
ステロイド点眼薬の副作用
ステロイド点眼薬には、一時的な目の刺激感や充血、感染症のリスク増加などの副作用があります。
また、長期使用によって眼圧が上昇したり緑内障や白内障を引き起こしたりする可能性もありますので、治療中は定期的な受診が大切です。
抗菌点眼薬の副作用
抗菌点眼薬は、点眼時の刺激感(目にしみる感覚)が強い治療薬です。
また、ごく稀ではありますがアナフィラキシーショックが起こる例もあります。
使用中は蕁麻疹や息苦しさ、嘔吐などがないか気を付けながら点眼してください。
角膜治療薬
角膜治療薬は比較的副作用の少ない点眼薬ですが、目の刺激感や苦味、目のかゆみやかすみ目といった一時的な副作用が存在します。
点眼薬に含まれる防腐剤の副作用として現れる場合もありますので、万が一目のかゆみやかすみ目が長引く場合は使用を中止し、早急に医師に相談するようにしましょう。
アデノウイルス点状表層角膜炎の治療費・保険適用について
アデノウイルス点状表層角膜炎の治療は、基本的に健康保険の適用です。保険適用の治療には、検査や治療薬が含まれます。
一般的な治療費の目安
治療方法 | 保険適用 | 治療費の目安(3割負担の場合)7) |
---|---|---|
診察 | あり | 1,500~4,000円程度 |
アデノウイルス抗原検査 | あり | 約1,000円(検査料のみ) |
ステロイド点眼薬 | あり | 数百円~2,000円程度 |
抗菌点眼薬 | あり | 数百円~2,000円程度 |
角膜治療薬 | あり | 数百円~1,000円 |
治療費は治療薬や治療期間、受診の回数によって上下しますが、診察や検査、治療薬を含めても1万円以内で収まるケースがほとんどです。
詳しい治療費については各医療機関にお問い合わせください。
参考文献
1) 岡庭豊:病気がみえるvol.12眼科 第1版,メディックメディア,2019,pp70.
2) ウイルス性結膜炎/日本眼科学会
3) Jonas R.A., Ung L., Rajaiya J., Chodosh J. Mystery eye: Human adenovirus and the enigma of epidemic keratoconjunctivitis. Prog. Retin. Eye Res. 2020;76:100826.
4) Lee C.S., Lee A.Y., Akileswaran L., Stroman D., Najafi-Tagol K., Kleiboeker S., Chodosh J., Magaret A., Wald A., Van Gelder R.N., et al. Determinants of Outcomes of Adenoviral Keratoconjunctivitis. Ophthalmology. 2018;125:1344–1353.
5) Nauheim RC, Romanowski EG, Araullo-Cruz T, Kowalski RP, Turgeon PW, Stopak SS, Gordon YJ, 1990. Prolonged recoverability of desiccated adenovirus type 19 from various surfaces. Ophthalmology 97, 1450–1453. 10.1016/sO161-6420(90)32389-8.
6) ウイルス性結膜炎ガイドライン/日本眼科学会
7) 眼科点数早見表/日本眼科学会
JONES, Barrie R. Differential diagnosis of punctate keratitis. International ophthalmology clinics, 1962, 2.3: 591-611.
PETTIT, THOMAS H.; MEYER, KENNETH T. The differential diagnosis of superficial punctate keratitis. International Ophthalmology Clinics, 1984, 24.2: 79-92.
GARCIA-ZALISNAK, Debora, et al. Adenovirus ocular infections: prevalence, pathology, pitfalls, and practical pointers. Eye & contact lens, 2018, 44: S1-S7.
HOFFMAN, Jeremy. Adenovirus: ocular manifestations. Community Eye Health, 2020, 33.108: 73.