角膜ジストロフィ

角膜ジストロフィとは、角膜を構成する細胞や組織に異常が生じ、角膜に特徴的な混濁や沈着、構造の変化などをきたす疾患群です。
多くの角膜ジストロフィには遺伝的な背景がありますが、病型によって原因遺伝子、遺伝形式、症状が現れる年齢、進行速度は異なります。
代表的な症状には、かすみや視力低下、まぶしさ、異物感、繰り返す角膜びらんによる目の痛みなどがあります。一方、病型によっては自覚症状がほとんどなく、眼科検診などで偶然発見されることもあります。
角膜ジストロフィには、顆粒状角膜ジストロフィ、格子状角膜ジストロフィ、斑状角膜ジストロフィ、膠様滴状角膜ジストロフィ、フックス角膜内皮ジストロフィなど、多くの種類があります。
現在は、角膜のどの部分に主な異常が生じるのかという解剖学的な分類に加えて、原因遺伝子などの情報も組み合わせて分類されています。
この記事では、角膜ジストロフィの種類、症状、原因と遺伝、検査方法、治療方法について、眼科医ができるだけわかりやすく解説します。
この記事の著者

名前 / Name
高田 尚忠(たかだ なおただ)
高田眼科 院長|ひとみ眼科 / フラミンゴ美容クリニック 眼瞼手術担当医師
岡山大学医学部卒業後、郡山医療生活協同組合 桑野協立病院などの様々な医療機関を勤務し、現在は高田眼科の院長を務める。2022年3月より、名古屋市内の伏見駅近くのフラミンゴ眼瞼・美容クリニックを開院。
角膜ジストロフィの種類・分類
角膜ジストロフィには多くの病型があり、現在は異常が生じる角膜の層や原因遺伝子などをもとに分類されています。
国際的な分類であるIC3D Classification第3版では、大きく「上皮・上皮下ジストロフィ」「上皮‐実質TGFBIジストロフィ」「実質ジストロフィ」「内皮ジストロフィ」に整理されています。
※ 2005年の作成から複数回の改訂を経て、最新のものは2024年に発表となった「角膜ジストロフィの分類 – 第3版」です。

| 分類 | 代表的な角膜ジストロフィ | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 上皮・上皮下 |
|
角膜の上皮および上皮直下を主な病変部位とする角膜ジストロフィです。 微小嚢胞、上皮の不整、角膜びらん、上皮下沈着などを生じ、 病型によっては痛みや異物感、視力低下を伴います。 |
|
上皮‐実質 TGFBI関連 |
|
TGFBI遺伝子の病的変化に関連する角膜ジストロフィです。 角膜上皮から実質にかけて特徴的な沈着や混濁を生じます。 病型によっては反復性角膜びらんや、徐々に進行する視力低下を認めます。 |
| 実質 |
|
角膜の厚みの大部分を占める角膜実質を主な病変部位とします。 病型によって、びまん性混濁、脂質沈着、斑点状病変などが生じ、 進行すると角膜の透明性が低下して視力に影響することがあります。 |
| 内皮 |
|
角膜内皮細胞およびデスメ膜を中心に異常が生じる角膜ジストロフィです。 内皮機能が低下すると角膜内に水分がたまり、 角膜浮腫や透明性の低下、視力低下を生じることがあります。 |
代表的な角膜ジストロフィ
顆粒状角膜ジストロフィ
顆粒状角膜ジストロフィは、TGFBI遺伝子の病的変異に関連する 角膜ジストロフィです。 角膜に境界の比較的明瞭な白色の顆粒状混濁が生じます。
1型と2型があり、2型はGranular Corneal Dystrophy Type 2(GCD2)、 旧称Avellino角膜ジストロフィとも呼ばれます。 GCD2では顆粒状の沈着に加えて、進行すると格子状の線状病変や びまん性の混濁を認めることがあります。

格子状角膜ジストロフィ
格子状角膜ジストロフィは、角膜にアミロイドが沈着する TGFBI関連角膜ジストロフィです。 細い線状の混濁が枝分かれしながら格子状にみえることが特徴です。
病型によっては反復性角膜びらんを生じ、 突然の眼痛、異物感、流涙などを繰り返すことがあります。
斑状角膜ジストロフィ
斑状角膜ジストロフィ(Macular corneal dystrophy)は、 CHST6遺伝子の病的変異に関連する常染色体劣性遺伝の疾患です。 角膜実質に異常なケラタン硫酸関連物質が蓄積し、 びまん性の混濁の中に境界不明瞭な斑状混濁がみられます。
進行すると角膜の広い範囲が混濁し、視力低下の原因となります。 病変は角膜実質だけでなく、Descemet膜や角膜内皮に影響することもあります。
膠様滴状角膜ジストロフィ
膠様滴状角膜ジストロフィ (Gelatinous Drop-Like Corneal Dystrophy:GDLD)は、 TACSTD2遺伝子の病的変異に関連する 常染色体劣性遺伝の角膜ジストロフィです。
主として角膜上皮下にアミロイドが蓄積し、 乳白色から黄白色の隆起した膠様病変を形成します。 進行すると角膜混濁が強くなり、視力低下やまぶしさ、 異物感などを生じます。
日本で比較的多く報告されており、 日本における頻度は約30万人に1人と推定されています。
角膜内皮ジストロフィ
| 病型 | 遺伝学的特徴 | 主な関連遺伝子 | 角膜所見の特徴 |
|---|---|---|---|
| Fuchs(フックス)角膜内皮ジストロフィ | 遺伝的背景は複雑で、病型によって異なる | TCF4、COL8A2、SLC4A11、ZEB1など | 角膜グッタ、内皮細胞減少、進行すると角膜浮腫 |
| 後部多形性角膜ジストロフィ(PPCD) | 主に常染色体優性遺伝 | OVOL2、ZEB1、GRHL2 | Descemet膜・角膜内皮の小水疱状、帯状、地図状病変など |
角膜内皮ジストロフィは、角膜の一番下の層である角膜内皮に異常が起こるタイプです。沈着物は基本的にありません。
主な病型として、フックス角膜内皮ジストロフィと後部多形性角膜ジストロフィが挙げられます。
Fuchs(フックス)角膜内皮ジストロフィでは、角膜内皮細胞が徐々に減少し、 角膜から余分な水分を排出する機能が低下します。 特徴的な所見として、Descemet膜に角膜グッタ(corneal guttae) と呼ばれる滴状の隆起がみられます。
病気が進行すると角膜浮腫が生じ、かすみや視力低下、 まぶしさなどが現れます。 角膜浮腫は睡眠中に増加しやすいため、 比較的進行した症例では朝起きたときに見えにくく、 日中になると少し改善するという症状がみられることがあります。
遺伝的背景は一様ではありません。 早期発症型ではCOL8A2遺伝子、 一般的な晩期発症型ではTCF4遺伝子内のCTG反復配列伸長などとの関連が知られています。
後部多形性角膜ジストロフィ(PPCD)では、内皮細胞の形態異常が特徴で、小水疱性の病変(ベクシル)や帯状の病変が認められます。
角膜内皮細胞やDescemet膜に特徴的な変化がみられ、 小水疱状、帯状、あるいは地図状の病変を認めることがあります。
多くは比較的軽症ですが、病型によっては角膜浮腫、 虹彩と角膜の癒着、眼圧上昇などを合併することがあります。 また、一部の症例では角膜形状異常や円錐角膜※2との関連も報告されています。
※2 円錐角膜:角膜の真ん中が薄くなり、円錐状に突出する病気。通常は均一なドーム状の眼球を横から見ると、中央部が張り出しているのが分かる。
角膜ジストロフィの症状
角膜ジストロフィは無症状の場合もありますが、症状が進むと、見えにくさや目の痛みなどの症状が現れてきます。
通常は、ゆっくりと症状が進行していきます。
角膜ジストロフィでは通常、角膜血管新生※3を伴わない病型が多いですが、 反復する角膜びらんや慢性的な角膜表面障害などを合併すると、 病型によっては角膜内へ血管が侵入することがあります。
※3 血管新生:本来は血管のない角膜に血管が侵入してくる現象。
| 症状 | どのような状態か |
|---|---|
| 見えにくさ | 物がぼやける、かすんで見える |
| 目の痛み | 軽い痛みから強い痛みまでさまざま |
| 異物感 | 目に何かが入ったようなゴロゴロ感 |
| まぶしさ | 通常の光でも異常にまぶしく感じる |
角膜ジストロフィの代表的な症状

角膜ジストロフィの症状は病型ごとに違いがありますが、黒目の表面にある透明な膜(角膜)に異常な変化が生じるため、見えにくさ、目の痛み、異物感、まぶしさなどが現れるケースが多いです。
見えにくさ
角膜ジストロフィでは、病型や進行度によって、 かすみや視力低下が現れることがあります。 角膜の透明性が低下したり、角膜表面が不整になったりすると、 物がぼやけたり、かすんで見えたりします。
また、角膜の混濁や表面の不整によって光が散乱すると、 コントラストが低下したり、光がにじんで見えたりすることがあります。 夜間には街灯や自動車のライトの周囲に光のにじみやまぶしさを感じることもあります。
Fuchs角膜内皮ジストロフィが進行して角膜浮腫を生じると、 睡眠中は閉眼によって角膜からの水分蒸発が減少するため、 起床時に角膜浮腫が強くなり、かすみや視力低下を感じることがあります。
その後、日中に目を開けていることで角膜の水分が減少し、 見え方が徐々に改善することがあります。 この「朝にかすみが強く、日中になると改善する」という症状は、 進行したFuchs角膜内皮ジストロフィにみられる特徴の一つです。
目の痛み
目の痛みも角膜ジストロフィの代表的な症状です。痛みの程度は人によって異なり、軽い違和感程度の人もいれば強い痛みを感じる人もいます。
角膜の表面の一部が剥がれてしまったときには、急に強い痛みが起こります。
角膜上皮が病巣となっている病型では、夜間の目の乾燥が原因で角膜上皮の一部が剥がれかけ、朝に目を開けると完全に剥がれ落ちて急に強い痛みとなるのが一般的です3)(この角膜の表面が剥がれる状態を、「角膜びらん」と呼びます)。
異物感
目に何かが入ったような異物感は、角膜の表面がでこぼこになったり一部がはがれかけたりして起こる症状です。
ゴロゴロとした感覚があるとつい目をこすりたくなりますが、症状が悪化する可能性があるため、こすらず我慢することが大切です。
まぶしさ

専門的な用語で羞明(しゅうめい)と呼び、光を異常にまぶしく感じるようになります。
角膜の変化によって光が目の中で乱反射してしまうために起こる症状で、明るい場所での活動が困難になるだけでなく、夜間は車のライトが異常にまぶしく見え、目の前が真っ白になる人もいます。
症状の個人差
角膜ジストロフィの症状は、人によってかなり違いがあります。
少し見えにくくなった程度で済む人もいる一方で、強い痛みや著しい見えにくさに悩まされるような場合もあります。
視力への影響は病型によって大きく異なります。 ほとんど自覚症状を認めない病型がある一方、 角膜混濁や角膜表面の不整が進行し、 視力が大きく低下する病型もあります。
症状が現れる年齢の違い
- 先天性角膜ジストロフィ:出生時や乳児期に症状が現れる
- 若年性角膜ジストロフィ:小児期から思春期にかけて発症する
- 成人発症型角膜ジストロフィ:20代以降に徐々に症状が進行する
日本を含む東アジアで比較的多くみられる 顆粒状角膜ジストロフィ2型(GCD2)では、 若年期から角膜に沈着物が認められることがあります。
初期には自覚症状が乏しく、 眼科検診や屈折矯正手術前の検査などで偶然発見されることもあります。 加齢とともに沈着物が増加し、 視力や見え方に影響することがあります。
対して、格子状角膜ジストロフィには、幼少期に発症するものと30~50歳から発症するものがあります4)。
角膜ジストロフィは遺伝する?
角膜ジストロフィの多くには遺伝的な背景がありますが、遺伝形式は病型によって異なります。
例えば、顆粒状角膜ジストロフィや代表的なTGFBI関連角膜ジストロフィでは常染色体優性遺伝を示すものがあります。一方、斑状角膜ジストロフィや膠様滴状角膜ジストロフィは常染色体劣性遺伝です。
また、同じ遺伝子の変化を持っていても、症状の程度や発症年齢が家族内で異なる場合があります。
そのため、家族に角膜ジストロフィと診断された方がいる場合や、両眼に特徴的な角膜混濁が認められる場合には、病型に応じて家族歴の確認や遺伝子検査を検討することがあります。
なお、すべての角膜ジストロフィで遺伝子検査が必要になるわけではありません。細隙灯顕微鏡検査などの臨床所見から診断できるケースも多く、必要性は病型や状況によって判断します。
角膜ジストロフィで失明することはある?
角膜ジストロフィの経過は病型によって大きく異なります。
自覚症状がほとんどないまま経過する病型もあれば、角膜の混濁や浮腫が進行して視力が大きく低下する病型もあります。
ただし、角膜ジストロフィと診断されたからといって、必ず高度な視力障害に進行するわけではありません。
視力への影響が大きくなった場合でも、病変の位置や深さ、病型に応じて、治療的表層角膜切除術(PTK)、角膜層状移植、角膜内皮移植、全層角膜移植などが検討されます。
大切なのは、病型を正確に診断し、角膜の状態と視力への影響を定期的に確認することです。
角膜ジストロフィの治療
角膜ジストロフィの治療方法は、病型、角膜のどの層に病変があるか、視力への影響、角膜びらんや痛みの有無などによって異なります。
症状がなく視力への影響が小さい場合には、治療を行わず定期的に経過観察することもあります。
一方、繰り返す角膜びらんや痛みがある場合には、人工涙液や眼軟膏、治療用コンタクトレンズなどによる対症療法を行うことがあります。
角膜表層の混濁が視力に影響している場合には、エキシマレーザーを用いた治療的表層角膜切除術(PTK)が選択肢となります。
病変が角膜実質の深い部分まで及ぶ場合には、角膜層状移植や全層角膜移植が検討されることがあります。
フックス角膜内皮ジストロフィなど、角膜内皮の機能低下が主体となる疾患では、進行例に対してDMEKやDSAEKなどの角膜内皮移植が行われます。
治療方法は「角膜ジストロフィ」という病名だけで決まるものではなく、病型と重症度を評価したうえで選択します。
視力低下、反復する角膜びらん、角膜浮腫などが日常生活に影響する場合には、保存的治療や手術を検討します。
現在の治療は、原因となる遺伝子異常そのものを修復する治療ではなく、 角膜びらんや角膜浮腫などの症状を軽減したり、 視力に影響する混濁・沈着物を取り除いたりすることが中心です。
病型によってはPTKや角膜移植などで視機能の改善が期待できますが、 治療後に角膜ジストロフィが再発することもあるため、 長期的な経過観察が必要になる場合があります。
| 治療方法 | 内容 |
|---|---|
| 点眼薬 | 角膜の保湿や保護などが目的です。 |
| 治療用コンタクトレンズ | 膠様滴状角膜ジストロフィで使用されるときがあります。 |
| 角膜電気分解術 | 角膜表層の特定の混濁・沈着に対して電気的処置を行う治療です。 適応となる病型・症例は限られます。 |
| 治療的表層角膜切除術 | エキシマレーザーで角膜表層の混濁や不整を除去します。 |
| 角膜移植 | 角膜を移植する手術です。 |
点眼薬と治療用コンタクトレンズ(保存的治療)

| 点眼薬の種類 | 効果 |
|---|---|
| 人工涙液 | 角膜の保湿、不快感の軽減 |
| ヒアルロン酸ナトリウム | 角膜の保護、傷の治りを促進 |
初期の角膜ジストロフィでは、点眼薬を使いながら経過観察をすることもあります。
具体的には、目の乾燥を防いだり、角膜表面の傷の治りを促したりする効果のある点眼薬(人工涙液やヒアルロン酸ナトリウムなど)を使用します。
また、膠様滴状角膜ジストロフィでは、 角膜表面を保護する目的で治療用コンタクトレンズが用いられることがあります。 長期装用によって角膜表面への機械的刺激を軽減し、 アミロイド沈着や術後再発の進行を抑える可能性が報告されています。
ただし、適応や装用方法については角膜の状態を確認しながら 眼科医が判断する必要があります。
普段の生活での工夫
角膜ジストロフィの人はまぶしさを感じやすいため、サングラスや偏光レンズの眼鏡などを上手く活用していきましょう。
スマートフォンはダークモード(画面を黒基調にするモード)の設定をすると、光量が抑えられ、角膜ジストロフィの人でも見やすくなります。
角膜電気分解術
角膜電気分解術は、角膜表層や手術後の角膜内に生じた 特定の混濁・沈着に対して、電気的処置を加えることで 混濁を減少させることを目的とした治療法です。
顆粒状角膜ジストロフィやReis-Bücklers角膜ジストロフィ、 角膜移植後あるいはLASIK後に再発・増悪した 顆粒状角膜ジストロフィ2型などに対する治療報告があります。
一方で、すべての角膜ジストロフィに一般的に行われる治療ではなく、 病変の位置や深さ、これまでに受けた手術などを考慮して、 限られた症例で検討されます。 また、治療後に再び沈着物が出現することがあります。
治療的表層角膜切除術

治療的表層角膜切除術 (Phototherapeutic Keratectomy:PTK)は、 エキシマレーザーを用いて角膜表層を少量ずつ蒸散し、 視力低下の原因となっている表層の混濁や沈着物を除去する治療です。
比較的浅い位置に病変がある角膜ジストロフィでは、 視力改善や角膜表面の不整の改善が期待できます。 一方、病変が深い場合には十分な効果が得られないことがあります。
術後は角膜が薄くなりますので、治療用のコンタクトレンズを装着して角膜上皮の再生を待ちます。
顆粒状角膜ジストロフィ、格子状角膜ジストロフィ、 Reis-Bücklers角膜ジストロフィなど、 病変が比較的表層に存在する角膜ジストロフィで検討されます。
角膜移植術
角膜移植は、病型や濁りの深さ、視力への影響によって角膜移植が検討されます。
角膜移植には全層角膜移植(PKP)や深層角膜移植(LKP)などの種類があり、濁りの深さによって手術方法を決定します。
フックス角膜内皮ジストロフィなど、角膜内皮の機能低下が主体の場合には、DMEKやDSAEKなどの角膜内皮移植が検討されます。

薬の副作用や治療のデメリットについて

角膜ジストロフィの治療には、治療方法ごとに副作用やデメリットがあります。
また、どの治療方法を選んだとしても長い治療期間がかかり、再発リスクがあるため、生涯にわたってこの病気と付き合っていく必要があります。
| 治療方法 | 副作用・デメリット |
|---|---|
| 点眼薬 | 目の刺激感、過敏症状など |
| 角膜電気分解術 | 角膜の濁りの残存 |
| 治療的表層角膜切除術 | 術後の見えづらさや痛み、裸眼視力の低下 |
| 角膜移植 | 出血、感染、乱視、遷延性角膜上皮欠損、拒絶反応 |
点眼薬の副作用
- 人工涙液:過敏症状
- ヒアルロン酸ナトリウム:過敏症状、目の刺激感、目やにの増加、まぶたの炎症
人工涙液は涙に近い成分であるため、点眼薬のなかでも副作用が少ないです。ただし、稀にまぶたの腫れや充血、かゆみといった過敏症状が現れることがあります。
また、角膜の傷を治す作用があるヒアルロン酸ナトリウムには、目の刺激感(しみる感覚)や、目やにの増加などの副作用があります。
ほとんどの副作用は一時的なもので、点眼してからしばらくすると落ち着きます。万が一まぶたの腫れやかゆみなどが長引いた際は、医師に相談するようにしてください。
角膜電気分解術のデメリット
角膜電気分解術は、顆粒状角膜ジストロフィなどの 特定の角膜混濁に対して検討されることがあります。 ただし、すべての角膜ジストロフィに一般的に行われる治療ではありません。
治療後も混濁が残存したり、時間の経過とともに再び沈着が生じたりすることがあり、 症例によっては追加治療や他の治療法を検討する必要があります。
治療的表層角膜切除術のリスク・デメリット
治療的表層角膜切除術(PTK)では、 エキシマレーザーによって角膜表層を少量ずつ蒸散するため、 術後には一時的な眼痛、異物感、流涙、見えにくさなどが生じます。
また、切除量や治療範囲によっては屈折状態が変化し、 特に遠視方向へ変化することがあります。 そのため、術後に眼鏡やコンタクトレンズの度数が変わる場合があります。
言い換えれば、角膜の厚みが変わり、遠視化しやすいとされています。裸眼の視力が低下する可能性があり、今までの眼鏡の度数が合わなくなる可能性もあります。
角膜移植の合併症
| 合併症 | 内容 |
|---|---|
| 出血 | 手術による出血 |
| 感染 | 術後は感染症を引き起こしやすくなる |
| 乱視 | 角膜の歪みによる乱視 |
| 遷延性角膜上皮欠損 | 角膜上皮の傷がなかなか治らない状態 |
| 拒絶反応 | 移植角膜を身体が異物と判断して排除しようとする働き |
角膜移植でとくに注意したい合併症は、拒絶反応です。
拒絶反応には程度があり、軽度のものはステロイドの点眼薬で治療できますが、重度になると視力低下や充血、角膜の濁りなどが現れます。
拒絶反応を予防するためには、術後に処方されたステロイド点眼薬を正しく使用する、術後の検査を怠らない、違和感があればすぐに受診することなどが大切です。
角膜ジストロフィの原因

角膜ジストロフィの多くには遺伝的な背景があり、病型によって特定の遺伝子異常が明らかになっています。
一方、すべての病型が単一の遺伝子異常だけで説明できるわけではありません。
遺伝子の変異はDNA配列に変化が生じて起こりますが、原因となる遺伝子は病型ごとに異なります。
角膜ジストロフィと遺伝子異常
| 遺伝子 | 関連するジストロフィ | 特徴 |
|---|---|---|
| TGFBI | 顆粒状・格子状角膜ジストロフィ | ヒアリンやアミロイド沈着 |
| CHST6 | 斑状角膜ジストロフィ | 異常なケラタン硫酸関連物質の蓄積 |
| TACSTD2(M1S1) | 膠様滴状角膜ジストロフィ | アミロイド沈着 |
| KRT3/KRT12 | Meesmann(ミースマン)角膜上皮ジストロフィ | 角膜上皮のケラチン異常、上皮内微小嚢胞 |
角膜ジストロフィは、角膜の構造や機能を制御する遺伝子に異常が生じて発症します。
具体的には、角膜の透明性や形状を保つのに欠かせないタンパク質の生成や代謝に支障をきたし、結果として角膜の濁りや変形といった症状が現れます。
家族歴がない場合もあります
角膜ジストロフィの多くには遺伝的背景がありますが、 必ずしも家族内に同じ病気の方がいるとは限りません。
常染色体劣性遺伝では両親に症状がないことがあります。 また、新たに生じた遺伝子変異や、症状の程度の違い、 家族がまだ診断されていないことなどによって、 明らかな家族歴が認められない場合もあります。
角膜ジストロフィの検査・チェック方法

角膜ジストロフィの検査では、問診やスリットランプ検査、遺伝子検査などを実施します。
ここで挙げるすべての検査を行うわけではありませんが、基本的には複数の検査を実施します。
- 問診:自覚症状や家族歴の確認
- スリットランプ検査:角膜の状態を確認
- 角膜の細かな検査:内皮細胞や角膜の断面などを調べる
- 遺伝子検査:遺伝子の異常を特定
問診
まずは問診を行い、見えにくさや目の痛みなどの自覚症状、それが現れ始めた時期、症状がとくに強くなるタイミングなどを確認します。
親族に同じような症状を持つ人や、角膜ジストロフィと診断された人がいるかどうかも確認していきます。
スリットランプ検査
スリットランプ検査(細隙灯顕微鏡検査)は、角膜を調べるための一般的な検査です。
目に光を当てて、特殊な顕微鏡で角膜の濁りの位置や形などを観察します。
痛みを伴う検査ではありませんが、まぶしさを感じやすくなっている場合は、検査の間少し我慢していただく必要があります。

角膜の細かな検査
濁りの位置や程度、角膜の形や厚み、角膜内皮の状態などを詳しく調べるために、スペキュラーマイクロスコピーや前眼部OCT検査といった検査を実施する場合があります。
| 検査方法 | 特徴・検査の目的 |
|---|---|
| スペキュラーマイクロスコピー(角膜内皮細胞顕微鏡検査) | 角膜内皮細胞の密度や大きさのバラつき、形などを記録する検査。角膜内皮ジストロフィが疑われる際に実施する。 |
| 前眼部OCT(光干渉断層計)検査 | 近赤外線を照射して角膜の断層画像を得る検査。角膜の厚みやカーブ、濁りの位置などを確認できる。 |
| IVCM(生体共焦点顕微鏡)検査 | 角膜の構造や細胞の状態をリアルタイムで画像化する検査。角膜の細胞や、沈着物の状態を観察するために実施する。 |
| 角膜トポグラフィ検査 | 角膜の形状を測定するための検査。後部多形性角膜ジストロフィでみられる、円錐角膜のような形状異常を検出できる。 |
遺伝子検査
角膜ジストロフィでは、病型や臨床所見に応じて 遺伝子検査を行うことがあります。
例えば、TGFBI遺伝子、CHST6遺伝子、TACSTD2遺伝子、 KRT3・KRT12遺伝子など、疑われる病型に応じて 原因遺伝子を調べることで診断を補助できる場合があります。
ただし、角膜ジストロフィの診断ですべての患者さんに 遺伝子検査が必要になるわけではありません。 特徴的な細隙灯顕微鏡所見や家族歴などから診断できることも多いため、 検査の必要性は個々の症例ごとに判断します。
どちらも遺伝子の異変を検出し、角膜ジストロフィの病型を特定するための検査です。
また、TGFBI関連角膜ジストロフィなどを対象とした 民間の遺伝子検査が利用される場合もあります。
検査対象となる遺伝子や費用、保険適用の有無は 検査方法や医療機関によって異なります。
保険適用の有無と治療費の目安について

角膜ジストロフィの治療は、ほとんどの場合が健康保険の適用対象となり、自己負担額は1~3割となります(年齢や所得により異なります)。
外来診療にかかる費用の目安
| 診療内容 | 保険適用 | 概算費用(3割負担) |
|---|---|---|
| 初診料 | 〇 | 約900~1,200円 |
| 再診料 | 〇 | 約300~700円 |
| 角膜の検査 | 〇 | 約1,000~3,000円(検査の種類、数による) |
| 角膜ジストロフィ遺伝子検査 | 〇 | 約3,600円~(検査料のみの目安。別途診察料などが必要) |
| アベリーノ検査 | × | 約10,000~30,000円(医療機関により異なる) |
角膜ジストロフィの検査のうち、アベリーノ検査(アベリーノユニバーサルテスト)は保険適用外となり、医療機関によって約10,000~30,000円と幅があります。
検査の種類や数、初診か再診かなどによって違いはあるものの、保険適用の場合は1回の通院で10,000円以内に収まる場合がほとんどです。
手術費用の目安
| 手術内容 | 概算費用 |
|---|---|
| 治療的表層角膜切除術(エキシマレーザーによるもの) | 約32,000円 |
| 角膜移植 | 約160,000~200,000円 |
上記の費用には入院費や手術前の検査費用、術後の点眼薬費用などは含まれていないため、実際にはこれよりも高額になります。
1カ月の医療費が高額になってしまったときには、高額療養費制度※4が利用でき、医療費を抑えることができます。
※4 高額療養費制度:病院や薬局などでの医療費の総額が1カ月あたりの上限を超えた際に、申請により超過分が払い戻される制度。上限額は年齢や収入により異なる。
膠様滴状角膜ジストロフィの難病指定と助成制度

角膜ジストロフィのうち、膠様滴状角膜ジストロフィは2019年から指定難病として認定されています。
上限を超えた医療費の自己負担額は全額助成となり、1カ月の上限額は所得によって0~30,000円です。
自己負担上限額(月額)
| 階層区分 | 一般 | 高額かつ長期 |
|---|---|---|
| 生活保護受給者 | 0 | 0 |
| 市町村民税(所得割・均等割)非課税(世帯) 本人年収80万円以下 | 2,500円 | 2,500円 |
| 市町村民税(所得割・均等割)非課税(世帯) 本人年収80万円超 | 5,000円 | 5,000円 |
| 市町村民税(所得割・均等割)課税以上 市町村民税(所得割)7.1万円未満 | 10,000円 | 5,000円 |
| 市町村民税(所得割)7.1万円以上25.1万円未満 | 20,000円 | 10,000円 |
| 市町村民税(所得割)25.1万円以上 | 30,000円 | 20,000円 |
| 入院時食事療養費 | 全額自己負担 | 全額自己負担 |
詳しくは、難病情報センターのホームページをご確認ください。
膠様滴状角膜ジストロフィー(指定難病332) ー 難病情報センター
角膜ジストロフィについてよくある質問
角膜ジストロフィについて、診療時によくいただくご質問をまとめました。 病型によって症状や治療方針が異なるため、実際の診断・治療については眼科での診察が必要です。
Q 角膜ジストロフィは治りますか?
病型によって異なります。軽症で治療を必要としないものもありますが、 遺伝的な背景を持つ病型では、治療によって濁りを取り除いた後に 再発することもあります。
そのため、病型を確認したうえで長期的に経過をみていくことが大切です。
Q 角膜ジストロフィは遺伝しますか?
多くの角膜ジストロフィには遺伝的な背景があります。
ただし、常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝など、 病型によって遺伝形式は異なり、明確な家族歴がない場合もあります。
Q 角膜ジストロフィは失明しますか?
すべての角膜ジストロフィが高度な視力障害を起こすわけではありません。 視力への影響は、病型や進行度によって大きく異なります。
進行例でも、病型や角膜の状態によっては PTK(治療的角膜切除術)や角膜移植などの 治療が選択できる場合があります。
Q 角膜ジストロフィではどのような症状が出ますか?
かすみ、視力低下、まぶしさ、異物感、目の痛みなどが 代表的な症状です。
再発性角膜びらんによって突然強い痛みが生じる病型もあります。 一方で、自覚症状がほとんどない病型もあります。
Q 角膜ジストロフィは両目に起こりますか?
多くの角膜ジストロフィは両眼性ですが、 左右で症状の強さや進行の程度が同じとは限りません。
Q 角膜ジストロフィはコンタクトレンズを使用できますか?
病型や角膜表面の状態によります。 通常の視力矯正目的でコンタクトレンズを使用できる場合もあります。
一方で、角膜びらんや角膜上皮障害がある場合には 使用できないことがあります。 また、治療目的でバンデージコンタクトレンズを 使用することもあります。
Q 角膜ジストロフィはどのような検査で診断しますか?
基本となるのは細隙灯顕微鏡検査です。
必要に応じて、角膜形状解析、前眼部OCT、 スペキュラーマイクロスコピー、生体共焦点顕微鏡などを組み合わせます。 病型によっては、遺伝子検査が診断の補助になることもあります。
Q 角膜ジストロフィと角膜変性症は同じものですか?
同じものではありません。
角膜ジストロフィは一般に遺伝的背景を持ち、 特徴的な角膜所見を示す疾患群です。
一方、角膜変性症は、加齢、炎症、外傷、全身疾患など、 後天的な要因に関連して生じるものがあります。 ただし、疾患によって分類や病態は異なるため、 角膜の濁りだけで両者を区別することはできません。
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