マーカスガン現象とは|あごを動かすとまぶたが上がる原因・弱視との関係・手術を眼形成外科医が解説

「授乳のたびに、赤ちゃんの片方のまぶたがピクピク上がる」「ガムを噛むと片目だけ大きく開くと言われた」。口やあごの動きに合わせてまぶたが動くこの症状を、マーカスガン現象(Marcus Gunn jaw-winking phenomenon)と呼びます。このページでは、原因、目の発達への影響、経過観察でよい場合と手術を考える場合を、論文をもとに解説します。
執筆:髙田 尚忠(高田眼科 院長/眼科医・眼形成外科) 最終更新:2026年10月
マーカスガン現象とは
マーカスガン現象とは、口を開ける・噛む・あごを左右に動かすといった動きに連動して、上まぶたがピクッと持ち上がる現象です。多くは先天性眼瞼下垂に合併し、ふだんは片方のまぶたが下がっていて、あごを動かしたときだけそのまぶたが上がります。
1883年にイギリスの眼科医マーカス・ガンが初めて報告しました3。医学的には「三叉神経・動眼神経の異常連合運動」と呼ばれ、「ジョーウィンク現象」「Marcus Gunn jaw-winking ptosis」と書かれることもあります。

英語名のほうが症状を覚えやすい
日本語の「マーカスガン現象」では症状が想像しにくいのですが、英語名は jaw-winking、つまり「あご(jaw)を動かすとウィンクする」という意味です。名前がそのまま症状を表しています。
どのような症状がみられるのか

新生児期から乳児期に目立ちやすく、授乳中にお母さんが気づくことが多い症状です。無意識のあごの動きで起こるため、成長してからも本人は気づきにくく、周囲に指摘されて分かることがあります。
動きの大きさには幅があります
ごく軽くて目立たない方から、あごを動かすたびにはっきりまぶたが動く方までさまざまです。動きの幅が2mm未満を軽度、2〜4mmを中等度、5mm以上を重度と分けるのが一般的です5。
アメリカ・ミシガン大学を受診した48人の研究5
中国・浙江大学の42人の研究では、動きが大きい人ほど眼瞼下垂が強く、まぶたを上げる筋肉の力も弱い傾向がありました6。
なぜ起こるのか(原因)
あごを動かす筋肉は三叉神経、まぶたを上げる筋肉(眼瞼挙筋)は動眼神経が担当しています。マーカスガン現象では、あごを動かす信号がまぶたを上げる筋肉にも伝わります。なぜ伝わるのかについては、大きく2つの考え方があります3,7。
生まれつき、三叉神経の枝が誤って眼瞼挙筋につながっているとする説です。本来は別々の2本の線が、発生の途中で混線したと考えます。
あごとまぶたの結びつきは、進化の過程で誰もが受け継いでいる古い反射で、ふつうは抑えられているとする説です(解放説)。その抑えが外れて、強く現れたと考えます。
健康な人にも、弱い形で同じ連動があります
マスカラを塗るとき、目薬をさすとき、コンタクトレンズを入れるとき。目を大きく開けようとすると、つい口も開いてしまう方は少なくありません。この身近な現象を調べた研究があります。
同じ研究では、マーカスガン現象も眼瞼下垂もない方6人の手術中に三叉神経の運動の枝を電気で刺激したところ、2人で眼瞼挙筋が収縮しました。著者は、三叉神経から眼瞼挙筋への信号の通り道が、一般の人の一部にもともと存在する可能性があると推測しています1。
動物でも、口を大きく開けたまま獲物に目を向け続けるカエルの仲間で、あごと目の動きを結ぶ反射が確かめられています3。ラットでは、あごの筋肉の感覚を伝える神経から、まぶたと眼球を上に動かす神経の中枢へ向かう経路が見つかっています8。
信号は「あご → まぶた」の一方通行です
逆向き、つまりまぶたを上げようとするとあごが動く、という連動は、マーカスガン現象の症状としては知られていません。動物実験で見つかっている経路も、あごからまぶたへ向かう一方向だけです8。日本からも、口を開ける・あごをずらす・吸うといった動きで連動が起こる子ども2人が報告され、噛む筋肉が引き伸ばされる刺激が引き金になると考察されています9。
ただ、患者さんは無意識にあごを動かして、下がったまぶたを持ち上げる習慣を身につけていることがあります10。「目を開けたいからあごを動かす」という流れは、配線ではなく、身についた動作として存在します。
しつけや本人の努力で止められるものではありません。「悪いクセ」と注意する必要はありません。
成長とともに自然に治るのか
乳児期にいちばん目立ち、成長とともに気にならなくなる方がいることは以前から知られています。そのため、すぐに手術をせず経過をみる方針がとられます。
ただし、動きそのものが消えるとは限りません。アメリカの71人の研究では、長期の経過観察で年齢とともに改善した例は確認されませんでした2。インドの研究でも、眼瞼下垂のない14人を平均2.3年みたところ、動きの大きさは変わりませんでした3。
「消える」というより「目立たなくなることがある」と考えるのが実際に近い見方です。
必ず自然に治るという保証はありません。経過をみている間も、次の章の視力の確認は続けてください。
視力の発達への影響:弱視と斜視
マーカスガン現象を伴う眼瞼下垂では、弱視、斜視、左右の度数の差(不同視)を合併する頻度が高いことが知られています。見た目の動きよりも、こちらの確認が優先です。
アメリカの71人の研究2。両上転筋麻痺は、片方の目を上に向けられない状態です。
弱視:治療できる年齢に限りがあります
弱視は、視力が育つ時期に目をうまく使えなかったために、眼鏡をかけても視力が出にくくなった状態です。原因は主に2つあります。
乱視や遠視に左右差があると、見えにくいほうの目を使わなくなります。まず眼鏡で度数を合わせ、それでも足りなければ、良いほうの目をアイパッチで隠して弱視の目を使う訓練をします11。
まぶたが瞳孔を覆って光が目の奥に届かないと、視力が育ちません(視性刺激遮断弱視)。米国眼科学会の診療指針では、眼瞼下垂が弱視治療の妨げになるほど強い場合に手術が勧められています11。
アイパッチの効果は臨床試験で確かめられています。複数の臨床試験をまとめた分析(コクランレビュー、7試験・1,177眼)では、アイパッチと、良いほうの目をぼやけさせる目薬(アトロピン)は、どちらも弱視の目の視力を改善し、効果は同じ程度でした。根拠の確かさは中程度と評価されています12。一方、まぶたなどが光をさえぎるタイプの弱視については、アイパッチの効果を調べた比較試験がまだ1つもありません13。このタイプは早く見つけて原因を取り除くことが、いっそう重要です。
弱視の治療は、早く始めるほど効果が出やすくなります
米国眼科学会の診療指針によると、治療の成功率は年齢が上がるにつれて下がります。7歳未満で治療を始めた中等度の弱視では、約4人に3人が半年後に視力0.6〜0.7相当以上に改善しました11。
ただし、年長のお子さんや10代でも改善は期待でき、特に治療を受けたことがない場合は年齢にかかわらず治療が勧められています11。「もう遅い」とあきらめる必要はありません。手術をしない場合でも、生後6か月ごろから眼科で弱視と斜視の診察を定期的に受けてください。
米国の診療指針であり、アトロピンによる治療など、日本での扱いが異なる部分があります。治療の方法は担当の眼科医とご相談ください。
斜視:目を上に向けにくいタイプが多い
合併する斜視でもっとも多いのは、片方の目を上に向けられない「両上転筋麻痺(Double elevator palsy、単眼性上転障害)」です。上直筋と下斜筋という、眼球を上に向ける2つの筋肉がうまく働きません。報告では、マーカスガン現象の25〜48%にみられます14。
まぶたを上げる筋肉と上直筋は、同じ神経の枝で動いています。そのため、眼瞼下垂・上転障害・マーカスガン現象は、同じ神経の発達の問題が別の形で現れたものと考えられています14。
診断はどのように行うのか
特別な検査機器は必要ありません。あごを動かしてもらいながらまぶたを観察すれば診断できます。赤ちゃんは哺乳中の様子を、年長のお子さんはガムを噛む、口を開ける、あごを左右にずらす動作を確認します15。ご自宅で撮った動画があると診察の助けになります。
- 連動の有無と大きさ
あごのどの動きで、まぶたが何mm動くかを測ります。 - 眼瞼下垂の程度
瞳孔の中心からまぶたの縁までの距離(MRD)と、まぶたを上げる筋肉の力を測ります。あごを止めた状態で測ることが大切です。 - 視力・屈折・弱視
視力と、乱視・遠視の左右差を調べます。 - 斜視と目の動き
目が上を向けるか、目の位置にずれがないかを確認します。
オーストラリアの31人の研究では、ほとんどの方があごの動きを使って、まぶたの下がりを小さく見せていました10。本来の下垂は見た目より強いことがあるため、あごを止めた状態での測定が欠かせません。
治療は必要か:経過観察・弱視治療・手術の順に考えます
マーカスガン現象を止める薬や訓練はありません。治療は次の順で考えます。
手術の時期
先天性眼瞼下垂の手術時期には、できるだけ早く、3〜4歳以降、小学校入学前、思春期前など、さまざまな考え方があります。
軽度から中等度の下垂であれば、下を向いたときは目が開いており、ふだんはあごを上げて見ているため、視力は正常に育つことが多いです。そのため急ぐ必要はありません。まぶたが瞳孔を覆って弱視が疑われる重い下垂だけは、早期の手術が必要です。
手術の時期を考えるうえで参考になる日本の報告があります。鹿児島の今給黎総合病院形成外科は、6歳の女の子に全身麻酔で挙筋の切除と吊り上げ術を行ったところ、術後に下垂が再発し、高さの調整のために全身麻酔を2回追加したと報告しています。著者は、局所麻酔での修正が必要になる可能性を考えて手術時期を決めるべきだと述べています17。
高田眼科の手術時期の考え方
当院では、手術の内容をご本人が理解でき、局所麻酔で受けられる年齢(小学校高学年以降が目安)になってからの手術をご相談しています。局所麻酔であれば、手術中に目を開けてもらい、まぶたの高さを確認しながら調整できます。
手術でできること、できないこと
「まぶたの高さを整える手術」と「連動する動きを止める手術」は別のものです。
連動は、まぶたを上げる筋肉(眼瞼挙筋)にあごからの信号が届くことで起こります。挙筋を使ってまぶたを上げる手術では、高さは整いますが連動は残ります。連動を止めるには、挙筋の働きそのものを止める必要があります。
挙筋を前に引き出して固定し、まぶたを上げます。中等度の下垂で連動がごく軽い方では高さの改善が得られましたが、術後に連動がかえって目立つようになったと報告されています16。
眼瞼挙筋前転法について連動を止める手術の成績と代償
成績は良好ですが、代償もあります。なお、マーカスガン現象の手術には方法どうしを比べた大規模な比較試験がなく、ここで紹介する数字はいずれも数十人規模の報告です18。
- まぶたが自分の力で動かなくなる:下を向いてもまぶたが下がらず、目が閉じにくくなります。浙江大学の34人の研究では12人に術後の閉じにくさが出て、多くは半年ほどで改善しましたが、5人(約15%)には軽く残りました6。
- まぶたの形の変化:ミシガン大学の研究では、まつ毛の下がりと二重の線の消失がそれぞれ10%、逆さまつ毛(眼瞼内反)が3%にみられました5。
- 正常な側の手術:左右をそろえるために、症状のない側にも吊り上げ術を行う方法が多くとられてきました2,18。
- 動きが大きいほど残りやすい:重度の連動は、中等度に比べて術後に残りやすいことが示されています(関係の強さを示す値〔オッズ比〕は18.05)6。
高田眼科の考え方:ふだんのまぶたの高さの左右差を少なくする
当院の手術は、連動する動きを消すためのものではありません。あごを動かしていないときのまぶたの高さ(目の大きさ)の左右差を少なくすることが目的です。先天性眼瞼下垂と同じく、挙筋を前転して固定する方法を基本としています。
挙筋を残すため、あごに連動する動きは術後も残ります。高さがそろうことで、かえって動きに気づきやすくなる場合もあります。この点をご理解いただいたうえで、連動が「許容できる範囲かどうか」を診察で一緒に見極めます。
上げすぎると目が閉じなくなる(兎眼)ため、過矯正と低矯正のどちらにもならないよう高さを調整します。手術時間は両目で1〜2時間ほどです。
両目に症状がある場合
両目のマーカスガン現象はまれです。両方を手術する場合と、重いほうだけを手術して軽いほうの高さに合わせる場合があります。
費用
当院では、先天性眼瞼下垂の手術は自費診療で、片目350,000円(税込、麻酔代を含む)です。このほかに検査・術後の診察・お薬で約15,000円がかかります。詳しくは眼瞼下垂手術の費用のページをご覧ください。
主なリスク:左右差、低矯正・過矯正、目の閉じにくさ(兎眼)とそれに伴う目の乾き、腫れ・内出血、再手術の可能性。効果には個人差があります。
よくある質問
マーカスガン現象は成長とともに治りますか。
完全に消えることは少ないです。成長とともに目立たなくなる方はいますが、71人の研究では年齢とともに改善した例は確認されませんでした2。
放置しても問題ありませんか。
軽度で視力に問題がなければ、経過観察で構いません。ただしお子さんは弱視と斜視の確認が欠かせません。手術をしない場合も、眼科の定期受診は続けてください。
手術をすれば、あごに合わせた動きはなくなりますか。
手術の方法によります。まぶたの高さを整える手術では動きは残ります。動きを止めるには挙筋の働きを止める手術が必要で、まぶたが自力で動かなくなるなどの代償があります5。
大人になってから手術できますか。
できます。日本でも順天堂大学から33歳の男性の手術例が報告されています20。見た目や生活上の支障を考えて判断します。
目薬をさすときに口が開くのは、マーカスガン現象ですか。
いいえ、健康な方にもよくある動きです。コンタクトレンズの着け外しでは5人に1人で口が開きました1。マーカスガン現象は、あごを動かすとまぶたが上がる向きの連動で、多くは眼瞼下垂を伴います。
子どもに遺伝しますか。
ほとんどは遺伝しません。多くは家族に同じ症状がなく、偶然に起こります。家族内の例は少数です3。
マーカスガン現象のまぶたの左右差でお悩みの方へ
珍しい症状ですが、状態を正しく知れば、経過をみるか手術をするかを落ち着いて選べます。まぶたの高さと動きを診察で確認し、できること・できないことをご説明します。
参考文献
PubMed・Cochrane Library・J-STAGEに収載された論文と米国眼科学会(AAO)の診療指針をもとに作成しています。文献3・6・11・14・18は全文、それ以外は抄録を確認しています。
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