眼瞼下垂の手術「眼瞼挙筋短縮術」
眼瞼下垂の手術について
「眼瞼下垂(がんけんかすい)」の治療法にはさまざまなアプローチがありますが、「眼瞼挙筋(がんけんきょきん)」の機能が残されている場合に、この筋肉を短くして「瞼板(けんばん)」に縫合する「挙筋短縮術」、眼瞼挙筋がほとんど機能していない際に、「前頭筋(ぜんとうきん)」と瞼板の間に腱を移植する「前頭筋吊り上げ術」の2つに代表的な手術を分ける考え方があります。
この2つの方法に、ゆるんだ眼瞼挙筋腱膜を折りたたんで瞼板に再固定する「挙筋前転法」を加えた3つが、主な手術の方法です。
改めて、これらの手術の違いについて、ご理解いただきたいと思います。
眼瞼挙筋はまぶたを上げる(開ける)ときに、主役となって、大きな力になる筋肉です。
瞼板は、まぶたの先端に付いてまぶたを引き上げる役割を担う板状の軟骨です。
そして、挙筋腱膜は、この瞼板につながる組織を指します。
つまり、体の骨格の基本である、筋肉→腱→骨と繋がって動いているイメージと同様です。
このほか、まぶたを上げる(開ける)際に補佐的に働くミュラー筋や、挙筋腱膜を縫い縮める「ミュラー筋タッキング術」を行う場合もあります。
眼瞼挙筋短縮術とは?
「眼瞼挙筋短縮術」は、眼瞼挙筋の機能が残されている場合に行われますが、延びてしまった眼瞼挙筋を短くして瞼板に縫合する方法です。
この眼瞼挙筋短縮法には「経皮法(けいひほう)」と「結膜法(けつまくほう)」があります。
経皮法は、まぶたの表側つまり皮膚側から眼瞼挙筋を切除し瞼板と重ね合わせて縫い付ける方法で、結膜法は、まぶたの裏側つまり(まぶたの内側を覆う薄い膜である)結膜側から同様の方法で処置する手術です。
手術方法の流れについて、イラストを用いて、説明をさせていただきます。
当院では、このように、最初に眼瞼挙筋腱膜を綺麗に露出させます。
その際に、眼輪筋切除、眼窩脂肪の処理、瞼板前脂肪(ROOF)の処理も行いますが、行わずに、いきなりStep02に進む行う施設もあります。
次に、Step02で露出した瞼板と眼瞼挙筋腱膜との付着部位を基準に、ミュラー筋を露出させるようにして眼瞼挙筋腱膜をめくっていきます。
図のように、眼瞼挙筋腱膜を瞼板に縫合して、固定いたします。
緩み(ゆるみ)が出にくいので、強力に瞼を上げることができると考えられております。
ただし、どちらにしても、ミュラー筋への負担が大きいため、通常の「眼瞼挙筋腱膜前転術」では改善が見込めないような、重症の眼瞼下垂を治療する場合に一般的に用いられます。
古くから行われている手術方法で臨床データも豊富なので、もちろん重症の眼瞼下垂の改善には有効です。
ただ、交感神経に支配され体全体とつながっているミュラー筋を傷つけてしまうと、さまざまな障害が発生するリスクも想定しなければならないため、医師に十分に相談することが必要です。
当院の見解
ミュラー筋は、眼瞼挙筋よりも非常に薄い筋肉で脆い筋肉ですので、安易に手術操作を加えると壊れてしまうので、触らない方向で考えております。
ミュラー筋の過緊張が、さまざまな眼や体の不調の原因となるということで、 ミュラー筋を操作する手術をメインで行っている施設もあります。
ミュラー筋への操作というのは、眼瞼挙筋とミュラー筋との間の結合織を剥がすことで、眼瞼挙筋とミュラー筋を分離する操作のことです。
血流が豊富な筋肉への操作となりますので、術中の出血も多く、また、術後の創傷治癒の過程で瘢痕組織が出来てしまい、逆に、ミュラー筋の拘縮が起こることで、
術後眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)の原因となったり、瞼のヒキツレ、ビックリ目になったりすると考えております。
その理由として、他院でミュラー筋への操作を加えられた方の修正手術を多く手掛ける中で、そのような考え方になった背景があります。
そういう他院修正のケースでは、ミュラー筋どころか、眼瞼挙筋の瘢痕化も著しく、修正手術後においても、満足のいく結果にならないこともありますことから、
当院としては、可能な限り、ミュラー筋を操作しない眼瞼挙筋前転法を可能な限り選択するようになりました。
当然、眼瞼挙筋前転法では、重度の眼瞼下垂症への対応が問題となることが予想されております。
しかしながら、眼瞼下垂症が重度で、挙筋機能がないとされる症例でも、実は、眼窩脂肪、眼輪筋などの組織量の多さ(言うなれば、瞼の厚み)、当院が提唱するファシアの癒着による眼瞼挙筋の運動制限により過小評価されている場合が多いと考えております。
結果として、それらへの対処により、眼瞼挙筋前転法で殆どの眼瞼下垂症の症例において対応が出来るようになっております。
詳しくは、当院眼瞼下垂症ブログ「ファシアリリース法」をご覧になってください。