眼瞼下垂の手術「前頭筋吊り上げ術」
眼瞼下垂の手術について
「眼瞼下垂症(がんけんかすいしょう)」の手術治療法は、大きく分けて「眼瞼挙筋(がんけんきょきん)」の機能が残されている場合に行われる「眼瞼挙筋短縮術」「眼瞼挙筋腱膜前転術」と、眼瞼挙筋がほとんど機能していない際に実施される「前頭筋吊り上げ術」に分けられます。
眼瞼挙筋短縮は「眼瞼挙筋(がんけんきょきん)」を短く切断して「瞼板(けんばん)」に縫合する手術、そして、眼瞼挙筋腱膜前転法術は眼瞼挙筋を切断することなく折りたたむようにして瞼板に縫合する手術ですが、ここでは後者の前頭筋吊り上げ術についてご紹介します。
瞼を引き上げられる筋肉には、3つの筋肉があります。
- 眼瞼挙筋
- ミュラー筋
- 前頭筋
です。
①眼瞼挙筋は、読んで字の如く、瞼を挙げる筋肉で主役となる筋肉になります。動眼神経という脳神経によりコントロールされております。
②ミュラー筋は、交感神経という自律神経に支配されている筋肉で、どちらかと言えば、眼瞼挙筋を補佐する筋肉です。交感神経は、感情と関わりがある神経で、精神的に興奮した際に活発になる神経です。
例えば、怒ったり、びっくりしたときに、目をパッと見開くと思うのですが、その僅かに瞼を持ち上げているのがミュラー筋となります。
③前頭筋は、前頭、つまり額(オデコ)の筋肉で、額にシワを作る筋肉ですが、眉を上に挙上する役割があります。
人は眉を持ち上げると、繋がっている(連なっているとも言えますが)瞼も上がります。
人は歳をとると、オデコにシワが出来る人が多いと思いますが、歳をとることで、瞼が上がりにくくなる、つまり眼瞼下垂症を発症することで、上がりにくくなった瞼をなんとかして上げようとするために働くためだと言えます。
眼瞼下垂症手術を受けると、オデコのシワが消えたりするのは、その代償が必要なくなったためだと言えます。
先に述べたように、眼瞼挙筋は、まぶたを上げる(開ける)ときにメインとなる大きな力になる筋肉ですが、その機能がほとんど機能していないか、極端に少ない場合に、前頭筋つまり眉毛を上げるおでこの筋肉によってまぶたが上がるようにする手術が前頭筋吊り上げ術です。
太ももの外側にある (だいたいきんまく)か、こめかみ辺りにある側頭(そくとう)筋膜を使用するため、「筋膜吊り上げ術」とも呼ばれます。最近では、人工素材:ゴアテックスなどを使用しているケースが増えております。
前頭筋吊り上げ術の実際は?
前頭筋吊り上げ術は、眉毛や額を上げる前頭筋とまぶたをつないで、眉毛の動きによってまぶたを上げる方法です。
前頭筋とは、目や口、鼻、アゴなどを動かす眼輪筋(がんりんきん)、頬筋(きょうきん)、口輪筋(こうりんきん)、頤筋(おとがいきん)を主な筋肉として構成される表情筋の中の一つです。
主に、眉を挙げる筋肉で、緊張するとオデコに何本も横じわが出来ます。
前頭筋とまぶたをつなぐ際に筋膜を移植して使うため「筋膜吊り上げ術」とも呼ばれるのは前述のとおりですが、筋膜の代わりにゴアテックスやナイロン糸、シリコーンのような人工糸を使用する場合もあります。
人工糸を使用する場合は、(大腿筋膜を使う場合に起こる)太ももの傷が残らない、動きが制限されることがないなどのメリットがあります。
一見、自分の体の筋膜を使用した方が拒絶反応が起こらず、良いように思われるかもしれませんが、長期間で見ると、周囲と癒着したり、拘縮(こうしゅく)して短くなり、瞼に歪みや兎眼、過矯正になったりし、問題を起こすことがあります。
当院では、可能な限り人工ゴアテックスを使用した吊り上げ術を行っております。
具体的な手術方法は、まつ毛の上のまぶた部分と眉毛の上の部分をそれぞれ切開し、その間に筋膜、ゴアテックス、人工糸を通すためのトンネルを開けます。
その後、一方をまぶたの先端部分にある「瞼板(けんばん)」に掛け、もう一方は骨膜上の前頭筋に固定し、まぶたの開き具合を調節します。
切開した後の傷は、丁寧に縫合しますが施術直後に腫れの症状が現れます。
ただ、眼瞼挙筋の機能がほとんど機能していないか極端に少ない場合でも、まぶたを開けることができるようになる点は、大きなメリットです。
しかしながら、メリットだけでなく、デメリットも多い手術です。
まず、目を開けた際には自然ではありますが、動的な要素を含めての審美面では、言い換えれば、まばたきを含めた見た目では圧倒的に劣っている手術だと思います。
見た目上、目は開くようになるのですが、瞬き(まばたき)という動的な動きでは、パチクリパチクリするような大袈裟な動きの不自然な状態となります。
加えて、目が閉じなくなる兎眼は、かなりの割合で起こる合併症です。つまり、目が閉じないことで、目の表面(角膜)に傷が出来たり、大きくなると角膜潰瘍になってしまい、角膜に白色の濁りを引き起こす可能性があります。
前頭筋吊り上げ術に対しての当院の考え方
ここからは、当院の見解ですが、挙筋機能が不足しているから・・・と吊り上げ術は行わずに、その他の手術をしっかり検討した方が良いと思います。
実は、挙筋機能のない先天性眼瞼下垂症において、眼瞼挙筋腱膜の繊維化が過剰になっており、そのことが引っ掛かることで、眼瞼下垂症手術を困難にしているケースが多いです。
当院では、この繊維化している挙筋腱膜を外し、眼瞼挙筋腱膜前転を行うことで、吊り上げ術よりも自然な状態に持っていけております。
結果、当院では、めっきり吊り上げ術を行うケースがなくなってしまいました。
当院で吊り上げ術を行うのは、専ら、他院の修正おいて行うのみとなっております。