先天性眼瞼下垂症に対する吊り上げ手術(筋膜移植)について
実は、当院は、開業医では珍しく吊り上げ術を日帰り手術で行っております。
吊り上げ術というのは、通常の眼瞼挙筋前転法などでは上がらないような先天性眼瞼下垂症において適応されます。
つまり、眼瞼挙筋機能が無い、または、極端に少ない場合に、眼瞼挙筋の代わりに、オデコ(前頭筋)の筋肉で代用する方法です。
吊り上げ術は、別名、筋膜移植術と言いますが、国際医療福祉大学三田病院の形成外科教授の酒井 成身先生が非常に得意とされており、国内有数の症例数を手掛けておられます。
酒井先生は、乳癌の手術後の乳房再建術では、非常に有名な先生でおられますが、眼瞼手術でも沢山の論文を書かれたり、また、多数の手術を行っておられます。
私の恩師の故 二木 裕 先生の長年のご友人という御縁もあり、酒井先生の手術を何度も見学させて頂いております。
酒井先生は、人工素材のGORETEXよりも、患者本人の太ももの筋肉から採取した筋膜を使った手術を推奨されております。
確かに、筋膜移植を使った方が拒絶反応を起こさないという意味では優れているのですが、手術手技が悪いと、移植された筋膜が拘縮(こうしゅく)し、瞼が引きつってしまうこと、加えて、太ももに傷が残ってしますことが問題だと私は考えております。
私自身、他院で筋膜移植を行い、その後、拘縮し、瞼が引きつってしまった症例を多数経験しておりますが、酒井先生自身は、手術が上手なのかもしれませんが、ご自身では拘縮した経験はないと仰られておりました。
それでは、GORETEXを使った吊り上げ術だと、先ず、拒絶反応を起こしにくい素材だということとに加え、太ももに傷が残らないこと、さらには、拘縮することが絶対にないということから、当院ではGORETEXによる吊り上げ術を行っております。
筋膜移植の場合、全身麻酔が必要な手術でもあるので、個人開業医では対応が難しく、また、全身麻酔では術中に調整するのが難しいので、低矯正、過矯正となりえるからです。
また、入院が必要となるため、入院費も馬鹿にならず、時間的な制約が強くなります。
ここで、当院の実際の症例について、ご説明を致します。
この方は、中国の方です。中国で二度眼瞼下垂症手術を受けられましたが、納得のいく結果が出なかったということで、わざわざ、当院を選んで来院くださいました。
当院でも、眼瞼挙筋前転法での手術を検討しましたが、眼瞼挙筋機能が弱いことを考え、また、中国に帰国することなどを考え、日帰りでの吊り上げ術をご提案しました。
そして、術後の写真がこちらになります。
まだ、抜糸直後・・・つまり、1週間後ですが、創部の内出血や腫れも少なく、満足のいく結果だと思います。術前と比べ、眉の位置も下がっております。
さらに、時間が経ち、傷が落ち着けば、さらに、自然な結果になります。
(当院の症例写真は、基本的に、まだ、腫れが残っている1週間後、もしくは、1か月後を術後の写真として掲示します。それは、過剰に、美化した写真は、手術の結果を誤解されることを危惧してのことです。)
さて、吊り上げ術は、眉を挙げる力を使って、瞼を上がるようにする手術ですので、意識的に、眉を挙げると、もっと挙げることはできますが、自然の状態で、左右差がなく、吊り上げ術の結果としては、良い結果だと思います。
今後は、時々、日本に来日されるということなので、時々、経過を見ることとなりますが、中国では、このような手術を行うことは出来ない・・・と言われ、大変喜んで頂いたのが印象的な患者さんでした。