眼瞼下垂手術のタッキング法とは – 保険適用・ダウンタイムを解説
眼瞼下垂のタッキング法とは、まぶたを持ち上げる筋肉を糸で縫い縮める手法です。
一般的には、皮膚を切らずに糸で固定させる埋没式の手術を指すケースが多いですが、挙筋前転法もタッキングと呼ばれることがあります。
また、ミュラー筋と挙筋腱膜の間を剥離し、ミュラー筋のみをたぐりよせて瞼板に固定させるミュラー筋タッキング法(ミュラータック法)と呼ばれる術式もあります。
クリニックにより「タッキング法」の解釈が異なるため、治療を受ける前に手術内容をよく確認するようにしてください。
この記事では、眼瞼下垂手術のタッキング法について、保険適用やダウンタイムなどを詳しく解説していきます。
眼瞼下垂とは
眼瞼下垂とは、まぶたが垂れ下がってものが見えにくい状態となる疾患です。
まぶたを上げる筋肉である眼瞼挙筋の衰えや、付着部である挙筋腱膜の緩みが原因で起こります。
眼瞼下垂になるとまぶたが重くなって視界が狭くなるほか、眠たそうな印象になったり、肩こりや頭痛を引き起こしたりと、さまざまな悪影響を及ぼします。
程度にもよりますが、基本的に自力では改善できず、治療するには眼瞼下垂手術が必要です。
また、眼瞼下垂には生まれつきまぶたを上げる力が弱い「先天性眼瞼下垂」と、正常だったまぶたが加齢や生活習慣により徐々に垂れ下がってくる「後天性眼瞼下垂」があります。
眼瞼下垂の重症度分類
眼瞼下垂の程度は人によってさまざまで、まぶたの被さり具合によって、大きく「軽度」「中等度」「重度」に分けられます。
分類 | 特徴 | MRD |
---|---|---|
正常 | ・正常な状態 ・まぶたがほとんどかかっておらず、黒目の上に白目が見える | 3.0mm〜 |
軽度 | ・まぶたが黒目のわずか上にかかっている ・目がやや小さくなり、眠たそうに見える | 1.5mm前後 |
中等度 | ・まぶたが黒目の3分の1程度にかかっている ・まぶたが重く感じる ・ものが見えにくくなる | 0.5mm前後 |
重度 | ・まぶたが黒目の半分以上にかかっている ・目の奥の痛み、肩こり、頭痛などを引き起こす | -0.5mm前後 |
眼瞼下垂の程度を判定する基準としてよく用いられるのがMRD(Margin Reflex Distance)です。
MRDは角膜反射(黒目の中央部)と上まぶたの縁の距離を指し、MRDの数値が少ないほど眼瞼下垂の症状が重いと判断できます。
眼瞼下垂手術の「タッキング法」とは
タッキング法とは、糸を用いて皮膚や筋肉を縫い縮める手法です。
一般的には、まぶたの裏側(結膜側)から糸を通して、眼瞼挙筋を短縮し、瞼板に固定させる埋没式の眼瞼下垂手術(経結膜法)をタッキング法と呼びます。
(「切らない眼瞼下垂の手術」とも言われます。)
皮膚の表面を傷つけずに、目を開きやすくして視界の悪さを改善します。
メリット
- 腫れ・内出血が少ない
- ダウンタイムが少ない
- 傷跡が残りにくい
眼瞼下垂手術は皮膚の切開を伴う方法が主流ですが、切らない手術※1の意味で呼ばれる「タッキング法」は、腫れや内出血を抑えられる点がメリットです。
ダウンタイムを短縮できるほか、傷跡が残る心配もありません。
仕上がりが気に入らなければ、糸を外すだけで元に戻せます。
※1 糸の結び目を入れ込むため、わずかに切り込みを入れる必要があります。
デメリット
- 中等度以上の眼瞼下垂には効果があまり期待できない
- ケースによっては不自然な見た目になる可能性も
- 元に戻りやすい
- 自由診療
皮膚を切らないため、切開式の手術と比べて改善できる症状に限界があり、中等度以上の眼瞼下垂には効果があまり期待できません。
軽度の眼瞼下垂で、眼窩脂肪や皮膚の余剰が少ないケースに向いている手術です。
脂肪が多くまぶたが厚い方やたるみが目立つ方の場合、タッキング法をおこなうと不自然な見た目になるおそれがあります。
また、糸で留めているだけであるため、将来的に元の状態に戻ってしまう可能性があります。
さらに、切らない眼瞼下垂手術は自由診療となり、保険が適用されない点もデメリットです。
切らない眼瞼下垂手術について、詳しくは下記の記事も参考にしてください。
眼瞼挙筋前転法(タッキング)
眼瞼挙筋前転法(挙筋腱膜前転法)は、日本でもっとも広くおこなわれている眼瞼下垂手術です。この眼瞼挙筋前転法も、タッキング法と呼ばれる場合があります。
上まぶたを切開したあと、瞼板から挙筋腱膜を剥離して引き出し、前転(タック)させて瞼板に再固定します。
眼瞼挙筋前転法はゆるんだ挙筋腱膜を縫い縮めるタッキングの手法を用いるため、切らない眼瞼下垂の手術と混同しやすいですが、眼瞼挙筋前転法は皮膚の切開を伴う点が大きく異なります。
軽度から重度まで幅広い眼瞼下垂の症状に対応できるほか、埋没法と比べて効果が持続しやすい点がメリットです。
皮膚の眼窩脂肪や皮膚の余剰も同時に除去できるため、まぶたが腫れぼったい方や、加齢によるたるみが気になる方にも適しています。
また、ミュラー筋を傷つけるリスクが低く、切開法のなかでも安全性の高い手術とされています。
ミュラー筋タッキング法(ミュラータック法)
ミュラー筋とは、結膜のうしろ側にある、眼瞼挙筋と瞼板をつないでいる筋組織です。
交感神経に支配されており、まぶたの開き具合を調節する役割をもちます。
このミュラー筋と挙筋腱膜の間を剥離し、ミュラー筋のみをたぐりよせて瞼板に固定させる手術がミュラー筋タッキング法(ミュラータック法)です。
軽度から中等度までの眼瞼下垂の治療に用いられ、より自然な二重を形成しやすい特徴があります。
しかし、ミュラー筋が傷つくと自律神経に影響を与えたり、眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)を引き起こしたりするリスクがあるため、当院では基本的にミュラー筋タッキング法はおこなっていません。
眼瞼下垂タッキング法のダウンタイムはどのくらい?
タッキング法のダウンタイムは、切らない眼瞼下垂手術と、切開法の眼瞼下垂手術で大きく異なります。
手術方法 | ダウンタイム |
---|---|
切らない眼瞼下垂手術 | 約3〜7日 |
眼瞼挙筋前転法 | 約2週間〜3か月 |
切らない眼瞼下垂手術では、手術直後〜3日目ほどは腫れが生じる可能性があります。
個人差はあるものの、適切なアフターケアをおこなっていれば、1週間ほどでほぼ目立たなくなるでしょう。
まぶたの表面に傷が残らないほか、シャワーやメイクも翌日から可能なため、仕事や学校に復帰するまでの期間も短縮できます。
切開を伴う眼瞼挙筋前転法の場合は、強い腫れや内出血が2〜3週間ほど続きます。
とくに、術後1週間目におこなう抜糸までは、糸がついている状態のため傷跡が目立ちやすい点に注意してください。
費用・保険適用について
眼瞼下垂手術で保険適用となるのは、基本的にまぶたを切る手術のみです。
切らない眼瞼下垂手術は自費診療(全額自己負担)となり、クリニックによって費用が大きく異なります。
手術方法 | 保険適用の有無 | 費用目安(両眼) |
---|---|---|
切らない眼瞼下垂手術 | なし | 約20万〜30万円 |
眼瞼挙筋前転法 | あり | 43,200円(3割負担) |
ミュラー筋タッキング法 | あり | 43,200円(3割負担) |
ただし、切開法であっても審美目的の場合や、症状が軽度の場合には保険がきかない可能性もあるため、事前に医師とよく相談しましょう。
眼瞼下垂手術の費用について、詳しくは下記の記事をご覧ください。
まとめ
一般的にタッキング法とは、まぶたの皮膚を切開しない埋没法の眼瞼下垂手術です。
まぶたの裏側から糸を通し、眼瞼挙筋を短縮させたあと瞼板に固定して、目の開きにくさを改善します。
ただし、切開式である眼瞼挙筋前転法やミュラータック法も、挙筋腱膜を縫い縮める手法を用いるため、タッキング法と呼ばれるケースがあります。
クリニックごとにタッキング法の解釈が異なるため、治療を受ける際は手術内容をよく確認しましょう。
切らない眼瞼下垂手術は副作用やダウンタイムを抑えられる点がメリットですが、重度の症状を改善する効果は期待できません。
一方、眼瞼挙筋前転法は、軽度から重度までの眼瞼下垂の治療に有効で、保険診療により治療できる手術方法です。
それぞれのメリット・デメリットを把握し、症状に合った手術方法を選択するようにしてください。
名古屋のフラミンゴ眼瞼・美容クリニックでは、よりナチュラルな二重の仕上がりになるオリジナルの眼瞼挙筋前転法「TKD切開法」をおこなっております。
まぶたの縁の線を基準に皮膚を切るため、切開式の眼瞼下垂手術でありながら傷跡が目立ちません。
「まぶたが重い」「視界が狭くなった」など、眼瞼下垂の症状にお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
参考文献
LEE, Edward Ilho; AHN, Tae Joo. Mild ptosis correction with the stitch method during incisional double fold formation. Archives of plastic surgery, 2014, 41.01: 71-76.
SHIMIZU, Yusuke; NAGASAO, Tomohisa; ASOU, Toru. A new non-incisional correction method for blepharoptosis. Journal of plastic, reconstructive & aesthetic surgery, 2010, 63.12: 2004-2012.