眼瞼下垂症こぼれ話(溶けない糸)
先ず、質問です!!
「手術において、溶ける糸と溶けない糸、どっちが体の負担が少ないと思いますか??」
たぶん、溶ける糸の方が体に優しいと考える方は多いと思います。
我々医師は、外科手術において、非常に様々な種類の糸を使用します。
絹糸、ナイロン糸、ポリプレピレン、PDS、バイクリル・・・・など様々ですが、
- 素材
- 編み糸 or 非編み糸(モノフィラメント)
- 吸収糸(溶ける糸) or 非吸収糸(溶けない糸)
などにより、分類されます。
当然、状況により使い分けを行っているわけですが、眼瞼下垂症手術においては、私はポリプロピレン糸を使用しております。
ポリプロピレン糸は、石油から合成されて作られる素材でできており、組織に吸収されることもなく、また、経年劣化が少ない糸であります。
一般の方には、吸収糸、つまり溶ける糸の方が体に優しいと考えがちですが、実は、非吸収糸(溶けない糸)の方が、体に優しい場合もあるのです。
つまり、普通、溶ける糸に対するイメージは、オブラートなどのように水に分解され跡形もなく消えるようなものだと思います。
しかしながら、吸収糸は、組織内においては、溶ける際に免疫反応、つまりは炎症反応を引き起こします。
炎症が起きると、皮膚に関連する手術の場合には、傷が腫れてしまったり、傷跡が瘢痕化しやすくなります。
また、眼瞼下垂症手術の場合には、瞼板軟骨と眼瞼挙筋腱膜を縫い合わせるのですが、糸が解(ほど)けたりすると、眼瞼下垂が再発することになりますので、永久的に組織の中で強度が保たれるような糸が求められます。
溶ける糸だと、縫い合わせた腱が外れ、眼瞼下垂症が再発してしまいます。
その結果として、ポリプロピレン糸が最適と考えております。
ナイロン糸も同様に、異物反応がほとんどなく、感染源になりにくいのですが、ポリプロピレン糸の方が、ナイロン糸よりも解(ほど)けにくくので、眼瞼下垂症の縫合糸に向いていると考えます。
また、同じポリプロピレン糸でも、製造している会社によって強度が僅かながら違いますし、針の切れ味も全く違っております。
最初は、切れ味が良いけど、すぐに切れ味が駄目になるもの。
最初から、切れ味が悪くて、使い物にならないもの。
「包丁と同じで、切れる針糸よりも切れない針糸の方が危ないのです。」
当然、切れ味の良い針の方が、瞼板軟骨にしっかり、糸をかけることができますので、
結んだ糸が外れることによる眼瞼下垂症の再発を予防することができます。
最終的には、当院では、試行錯誤の上、なんと・・・・脳外科の先生が使っている針糸を使っております。
この針糸は、針の切れもよく、もちろん、糸の強度もよく、本当に使いやすいものです。
手術というのは、研鑽を積んでいく、いろいろと発見がございます。
針糸、一つとっても、大事なものだったりします。