細菌性結膜炎
細菌性結膜炎(Bacterial conjunctivitis)とは、細菌の感染によって引き起こされる結膜炎の一種です。
白目の表面とまぶたの裏を覆う薄い膜(結膜)に炎症を引き起こし、充血や目やになどの症状が現れます。
子どもや高齢者に多く見られ、とくに65歳以上の高齢者には、慢性的に細菌性結膜炎を繰り返す方もいます。
細菌性結膜炎の原因となる細菌は多種多様ですが、インフルエンザ菌や黄色ブドウ球菌などの感染によるものが一般的です。
当ページでは、細菌性結膜炎の症状や原因、治療法について詳しく解説します。
この記事の著者
名前 / Name
高田 尚忠(たかだ なおただ)
高田眼科 院長|ひとみ眼科 / フラミンゴ美容クリニック 眼瞼手術担当医師
岡山大学医学部卒業後、郡山医療生活協同組合 桑野協立病院などの様々な医療機関を勤務し、現在は高田眼科の院長を務める。2022年3月より、名古屋市内の伏見駅近くのフラミンゴ眼瞼・美容クリニックを開院。
細菌性結膜炎の病型
細菌性結膜炎の病型には、急性細菌性結膜炎、慢性細菌性結膜炎、クラミジア結膜炎・淋菌性結膜炎、新生児細菌性結膜炎の4つの病型があります。
病型 | 特徴 |
---|---|
急性細菌性結膜炎 | 急激な発症。目の赤みや目やにが特徴。 |
慢性細菌性結膜炎 | 長期間にわたり徐々に進行。 |
クラミジア結膜炎・淋菌性結膜炎 | 性感染症の一種。 |
新生児細菌性結膜炎 | 出生時の細菌感染が原因。出生後数日以内に発症。 |
急性細菌性結膜炎
急性細菌性結膜炎は、一般的にみられる病型です。
突然発症して1~3日程度で急速に症状が悪化、目の赤みや目やにが多量に出るのが特徴です。
目の症状に加えて、発熱やのどの痛み、呼吸器系の症状を伴うケースがあります。
慢性細菌性結膜炎
慢性細菌性結膜炎は症状が長期間持続する特徴があり、高齢者に多くみられます。
数週間から数ヶ月にわたり、軽度から中等度の症状が続くのが一般的で、日常の衛生状況や他の目の疾患、免疫力の低下などが関連しているケースが多いです。
クラミジア結膜炎・淋菌性結膜炎
クラミジア結膜炎と淋菌性結膜炎は、性感染症としても知られています。
目のかゆみや赤み、涙や目やにの増加が特徴です。
新生児細菌性結膜炎
生後1カ月までの新生児にみられるのが、新生児細菌性結膜炎です。
クラミジアや淋病などの性感染症を有する母親から生まれた新生児に発症するリスクがあります。無治療の母親からの感染率は15~50%です1)。
細菌性結膜炎の症状
細菌性結膜炎の自覚症状には、目やにや充血があり、進行すると一時的に視界がぼやける場合もあります。
症状 | 詳細説明 |
---|---|
目やにの増加 | 黄色や緑色の目やにが多く出る。 |
目の充血 | 結膜の血管が拡張し、目が赤くなる。 |
まぶたの腫れ | まぶたの腫れがみられる。 |
異物感 | 目に異物感や不快感が生じる。 |
痛みやかゆみ | 結膜の炎症によって痛みやかゆみを感じる。 |
光が眩しい | 光に対する過敏反応。明るい光が不快に感じられる。 |
視覚のぼやけ | 目やにや涙の増加により、一時的に視界がぼやけるときがある。 |
目やにと充血が代表的
細菌性結膜炎の最も代表的な症状は、目やにの増加と目の充血です。
通常の目やには色が薄く、量も少ないですが、細菌性結膜炎では目やにが黄色や緑色のような濁った色になり、ドロッとした粘度の高いものが多量に出ます。
ただし、細菌性結膜炎の病型のなかでもクラミジア結膜炎は、色が薄く粘り気の少ない目やにが多量に出る場合があります。
また、細菌性結膜炎のどの病型であっても、共通してみられるのが白目やまぶた裏の充血です。
この他、異物感があったり、光を眩しく感じたりして、日常生活に支障をきたすケースもあります。
症状に関する注意点
細菌性結膜炎は片目のみから症状が現れる方も多く、進行すると両目に広がる、目をこすると悪化しやすいなどの特徴があるため、注意が必要です。
- 片目のみに症状が現れ、進行すると両目に広がる
- 症状が急激に現れるケースが多い
- 目をこすると症状が悪化しやすい
- 12歳未満の小児や高齢者では重症化に注意が必要
高齢者に起こりやすい合併症
高齢者では、慢性化すると眼瞼炎、角膜潰瘍、点状表層角膜症などを稀に併発する可能性があります。
また、しつこい目やにを伴う場合は、慢性涙嚢炎や涙小管炎の合併に注意が必要です。
細菌性結膜炎の合併症
眼瞼炎 (がんけんえん) | 眼瞼(まぶた)の炎症。 |
角膜潰瘍 (かくまくかいよう) | 黒目表面にある角膜の組織が欠損した状態。 中~深い欠損が一般的。 |
点状表層角膜症 (てんじょうひょうそうかくまくしょう) | 角膜の最表層のみが欠損した状態。 欠損は点状で複数に及ぶ。 |
慢性涙嚢炎 (まんせいるいのうえん) | 目頭にある涙嚢(るいのう・涙が流れ込む小さな袋状の器官)の炎症。 |
涙小管炎 (るいしょうかんえん) | 涙嚢と涙点(目頭の内側にある穴・涙の排出口)をつなぐ管である「涙小管」が炎症した状態。 |
細菌性結膜炎の原因
細菌性結膜炎は、その名の通り、細菌によって引き起こされる結膜の感染症です。
- インフルエンザ菌(ヘモフィルス・インフルエンザ菌)
- 肺炎球菌
- レンサ球菌
- マイコプラズマ
- 黄色ブドウ球菌
- 表皮ブドウ球菌
- コリネバクテリウム属菌
- 緑膿菌(りょくのうきん)
- クラミジア・トラコマティス
- 淋菌(りんきん)
子どもから大人まで細菌性結膜炎を発症する可能性がありますが、年齢によって原因となりやすい菌に特徴があります。
新生児でみられるクラミジア・トラコマティスと淋菌による結膜炎
原因菌 | 疾患名 | 新生児における疾患名 |
---|---|---|
クラミジア・トラコマティス | クラミジア結膜炎 | 新生児封入体結膜炎 (しんせいじふうにゅうたいけつまくえん) |
淋菌 | 淋菌性結膜炎 | 新生児膿漏眼 (しんせいじのうろうがん) |
新生児細菌性結膜炎の原因としてよくみられるクラミジア・トラコマティスと淋菌は、どちらも出産時の母子感染によって起こります。
新生児のクラミジア・トラコマティスによる結膜炎を「新生児封入体結膜炎」と呼び、淋菌による結膜炎を「新生児膿漏眼」と呼びます。
クラミジア・トラコマティスは生後5~10日ほど、淋菌は生後1~3日ほどで症状が現れるのが特徴です。
この他、インフルエンザ菌や肺炎球菌による細菌性結膜炎がみられるケースもあります。
小児に多いインフルエンザ菌や肺炎球菌による結膜炎
小学校就学前までの乳幼児期には、インフルエンザ菌による細菌性結膜炎が多い傾向があります。
一方、6歳から12歳までの学童期には、肺炎球菌が原因の細菌性結膜炎が多くみられます。
成人でみられるクラミジア・トラコマティスと淋菌による結膜炎
原因菌 | 疾患名 |
---|---|
クラミジア・トラコマティス | クラミジア結膜炎 |
淋菌 | 淋菌性結膜炎 |
性感染症(STD)の原因であるクラミジア・トラコマティスが目に感染すると、細菌性結膜炎の一種である「クラミジア結膜炎」を発症します。
一方、淋菌が原因の細菌性結膜炎は「淋菌性結膜炎」と呼ばれ、進行すると角膜へ淋菌が侵入し、角膜の穿孔※1や壊死※2をきたして失明する恐れがあるため注意が必要です。
※1 角膜の穿孔(せんこう):角膜に穴が開く
※2 角膜の壊死(えし):角膜組織の一部が死に至る
潜伏期間はクラミジア結膜炎が1週間、淋菌性結膜炎が1~2日です2)。
どちらも再発防止のため、パートナーの診療が推奨されます。
また、クラミジア・トラコマティスと淋菌のどちらにも同時に感染する例があり、男性では尿道炎、女性では子宮頸管炎や尿道炎を併発する可能性があります。
高齢者に多い黄色ブドウ球菌による結膜炎
黄色ブドウ球菌が原因の細菌性結膜炎は、高齢者でとくに多く、慢性化しやすいのが特徴です。
黄色ブドウ球菌は、健康な人の皮膚や鼻腔、毛髪などに存在しています。
感染力が弱いため通常は問題となりませんが、免疫力が低下したり、目をこすって小さな傷ができたりすると感染リスクが高まります。
細菌性結膜炎の発症リスクを高める原因
コンタクトレンズの不適切な使用や免疫力の低下などが、細菌性結膜炎の発症リスクを高める原因になります。
コンタクトレンズを着用している人は、レンズの不適切な洗浄や長時間の着用により、細菌性結膜炎を発症するリスクが高まります。
ストレスや生活習慣、特定の病気(糖尿病など)が免疫力に影響を及ぼし、細菌性結膜炎のリスクを高めます。
他の眼疾患や目の手術によって、細菌に対する抵抗力が弱まり、結果として細菌性結膜炎を発症する場合があります。
細菌性結膜炎の検査・チェック方法
細菌性結膜炎の診断には、主に症状の確認と目の詳細な検査が行われます。
- 症状の確認
- 目の外観をチェック
- 分泌物を採取しての検査
- その他の検査
症状の確認
最初に、充血や目やに、痛みや異物感などの自覚症状を詳しく教えていただきます。
いつから症状が出始めたのか、目以外の症状はあるか、コンタクトレンズの使用の有無なども細菌性結膜炎を診断する際の重要なポイントです。
目の外観のチェック
スリットランプ(細隙灯顕微鏡)といった特殊な機器を用いて、目の外観を診ていきます。
スリットランプは眼球の前面部分を観察できる機器で、結膜の赤みや腫れなどを検査します。
結膜の分泌物を採取しての検査
細菌性結膜炎が疑われる場合、結膜から涙や目やになどの分泌物を採取し、細菌の種類を特定するための培養検査や塗抹検査を行います。
- 綿棒を用いて結膜から分泌物を採取
- 分泌物を培養し、感染している細菌の特定
- 耐性テストを行い、抗菌剤の効きを確認
- 綿棒を用いて結膜から分泌物を採取
- 分泌物をスライドガラスに塗り、染色する
- 顕微鏡で観察して、細菌の形や量などを調べる
その他の検査
その他、必要に応じて視力検査や眼圧測定などの検査を行っていただく場合があります。
- 視力検査:視力の変化がないか確認
- 眼圧測定:眼圧の異常をチェック
- 眼底検査:網膜や視神経の状態を観察
細菌性結膜炎の治療方法と治療薬について
細菌性結膜炎の治療には、抗菌点眼薬や眼軟膏を使用します。
抗菌薬の種類と特徴
抗菌薬には、フルオロキノロン系やアミノグリコシド系など、さまざまな種類があります。
抗菌薬の種類 | 具体的な薬剤名 | 特徴 |
---|---|---|
フルオロキノロン系 | レボフロキサシン、オフロキサシン | 広範囲の細菌に効果 |
アミノグリコシド系 | トブラマイシン、ジェンタマイシン | インフルエンザ菌などのグラム陰性菌※3に効果 |
セフェム系 | セフメノキシム | 黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌※4に効果 |
マクロライド系 | エリスロマイシン、アジスロマイシン | クラミジア、マイコプラズマに効果 |
スルホンアミド系 (サルファ剤) | スルファセタミド | 軽度の感染に使用 |
※3 グラム陰性菌:グラム染色法で赤色に染まる細菌の総称。インフルエンザ菌、緑膿菌、淋菌など。
※4 グラム陽性菌:グラム染色法により紺青色や紫色に染まる細菌の総称。肺炎球菌、レンサ菌、黄色ブドウ球菌など。
感染の原因となる細菌の種類に応じて薬を選択しますが、症状が強い方では2種類の抗菌薬を併用する場合があります。
炎症を抑える働きのあるステロイド点眼薬は、免疫抑制作用によって細菌が増殖してしまう可能性があるため、基本的には使用しません。
ただし、細菌が産生する毒素に対してアレルギーを引き起こして細菌性結膜炎が重症化した際には、ステロイド点眼薬を使っていただく場合があります3)。
クラミジア結膜炎・淋菌性結膜炎への治療
成人のクラミジア結膜炎や淋菌性結膜炎では、点眼薬や点眼軟膏の他に、筋肉注射や内服薬による全身の治療が必要です。
- ニューキノロン系薬の点眼薬を日中1~2時間ごと
- テトラサイクリン系薬またはマクロライド系の内服
- セフェム系の点眼薬を日中1~2時間ごと
- アミノグリコシド系やセフェム系の筋肉注射や点滴
- マクロライド系の内服
治療中の注意点
細菌性結膜炎の治療中は、点眼薬を指示通りに使用する、目をこすらない、コンタクトレンズの使用を控えるなどの点に注意してください。
- 点眼薬は指示された通りの頻度で使用する
- 目をこすらない
- 他人とタオルや洗面用具などを共有しない
- コンタクトレンズの使用を控える
治療の効果を高め、感染の拡大を防ぐためにも注意点を守るようにしてください。
また、症状が治まっても、自己判断で治療薬を中断しないようにしましょう。
細菌性結膜炎の治療期間
細菌性結膜炎の治療期間は、1~2週間程度です。
ただし、慢性細菌性結膜炎や合併症が起きているときには、さらに治療期間が長くなります。
症状の程度 | 治療開始からの期間 |
---|---|
軽度から中等度 | 約1週間 |
重度 | 2週間以上 |
初期治療とその期間
細菌性結膜炎の治療は、症状が現れた後すぐに開始するのが望ましいです。
多くの方では、治療を開始してから24~48時間以内に症状の改善がみられます。
しかし、完全に回復するまでには、通常7日から10日程度かかるのが一般的です。
再発予防
完全に治癒した後も、感染の再発を防ぐために、目を触る前には手を洗う、個人用品の共有を避けるなどの予防策が有効です。
また、じゅうぶんな睡眠や栄養バランスのとれた食事に気をつける、ストレスを溜めないなど、免疫力が低下しないような工夫も行っていきましょう。
薬の副作用や治療のデメリットについて
細菌性結膜炎の治療薬には、目の刺激感(しみる)や乾燥、かゆみや充血などの副作用があります。
抗菌薬の副作用
抗菌薬の副作用 | 詳細 |
---|---|
目の刺激感 | 点眼薬が目にしみる |
目の乾燥 | 目が乾燥する |
かゆみや充血 | 目のかゆみや白目の充血が起こる |
アナフィラキシーショック | ごく稀に発疹、腫れ、呼吸困難などが起こる |
抗菌点眼薬や軟膏を使用する際の副作用には、目の刺激感や乾燥がありますが、薬剤が目に触れるのが原因なので、通常は一時的なものです。
また、ごく稀ですが、発疹、腫れ、呼吸困難を引き起こす「アナフィラキシーショック」の可能性もあります。
抗菌薬を使用した際にアナフィラキシーショックが疑われる場合は、速やかに医師の診察を受けてください。
抗菌点眼薬治療のデメリット
抗菌点眼薬による治療には、薬剤耐性※5が起こる可能性があります。
※5 薬剤耐性(AMR):抗菌薬に対して耐性を持つ菌が繁殖し、抗菌薬が効かなくなる現象。
指示された用法・用量を守らず治療を中断すると、薬剤耐性のデメリットが発生しやすくなります。
保険適用について
細菌性結膜炎の診察や検査、抗菌薬には、健康保険が適用されます。
自己負担額は保険の種類によって異なりますが、一般的には診療費の1割から3割です。
ただし、症状が重い方に使用していただく一部のステロイド点眼薬は、保険適用外のものがあります。
1か月あたりの治療費の目安
一般的な抗菌点眼薬の治療であれば、保険適用の場合の自己負担額は数百円から数千円程度が目安です。
一方、保険適用外の薬剤や特殊な治療が必要な場合は、費用が大幅に増加する可能性があります。
また、症状の重症度や治療の経過によっては、追加の治療が必要になるケースもあり、その都度費用が発生します。
治療内容 | 保険適用 | 自己負担の目安(1か月) |
---|---|---|
抗菌点眼薬 | 〇 | 数百円〜数千円 |
ステロイド点眼薬 | 〇 (一部を除く) | 数百円〜数千円 (保険適用外は全額自己負担) |
特殊な治療 | × | 全額自己負担 (費用は治療内容による) |
参考文献
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2) 眼と性感染症/日本性感染症学会
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