眼瞼裂狭小症候群(BPES)とは|原因・遺伝・弱視・手術を眼形成外科医が解説

生まれたときから両目が細く、まぶたが重そうで、目頭の形も独特。あごを上げて物を見る――。こうした特徴がそろうとき、眼瞼裂狭小症候群(瞼裂狭小症候群、英語の略称でBPES)が疑われます。このページでは、特徴、遺伝のしくみ、視力への影響、手術の考え方を、医学論文にもとづいて整理します。
執筆:髙田 尚忠(高田眼科 院長/眼科医・眼形成外科) 最終更新:2026年10月
眼瞼裂狭小症候群とは(4つの特徴)
眼瞼裂狭小症候群は、まぶたの形が生まれつき変わっている病気です。次の4つの特徴が、生まれたときから全員にみられます1。発症するのはおよそ5万人に1人と推定されていますが、気づかれていない方もいるため、実際はもう少し多いと考えられています1。
このほか、まぶたの縁がS字状に曲がる、二重のラインがない、涙の出口(涙点)が外側にずれて涙があふれやすい、といった特徴を伴うことがあります1。オーストラリアの28人の報告では、18%に涙の流れの問題がありました3。
眼瞼裂狭小症候群の原因と遺伝のしくみ
原因は、3番染色体にあるFOXL2という遺伝子の変化です。この遺伝子は、胎児のまぶたと卵巣が育つときに働きます1。日本人の家系でも、FOXL2の変化が確認されています4。
遺伝のしかたは常染色体顕性(優性)遺伝で、2本ある遺伝子のうち1本に変化があれば発症します。男女とも同じように受け継がれます1。
眼瞼下垂と遺伝の関係全般は、眼瞼下垂は遺伝するのかで詳しく説明しています。
眼瞼裂狭小症候群のI型・II型と、女性の卵巣の働き
この病気は従来、卵巣の働きが早く衰える(早発卵巣不全)のを伴う「I型」と、まぶたの特徴だけの「II型」に分けられてきました1。
ただ、同じ遺伝子の変化を持つ家族の中でも卵巣の状態はさまざまで、年齢とともに現れることもあります。そのため最新の専門家のまとめでは、2つの型に分けるより「一つの病気」として扱うほうが適切だとしています1。一方で、中国の研究では、遺伝子の変化の種類によってI型になりやすさに差があったと報告されており、見解は定まっていません6。
眼瞼裂狭小症候群の視力への影響:弱視・斜視・屈折異常
この病気で最も注意すべきなのは、子どもの視力の発達です。まぶたが瞳孔にかかることに加え、斜視や強い遠視・乱視を伴いやすいためです1。
英国ムーアフィールズ眼科病院の204人を振り返った研究。弱視は両目21%・片目20%の合計。「眼鏡が必要」は眼鏡が必要な遠視・近視・乱視2。インドの33人の研究では弱視が60%と、さらに高い報告もあります7。
オーストラリアの小児病院の28人の研究。斜視があると弱視の割合はおよそ2倍以上でした3。
眼瞼裂狭小症候群に似た病気との見分け方
目の横幅が狭い状態は、ほかの全身の病気の一部として現れることもあります。米国フィラデルフィア小児病院で目の横幅が狭い135人を調べた研究では、93%がまぶただけの眼瞼裂狭小症候群で、7%は全身の病気を伴う別の症候群でした8。
こうした場合は、小児科や遺伝の専門外来と連携して診断を進めます。生まれつきの眼瞼下垂全体については先天性眼瞼下垂とはをご覧ください。
眼瞼裂狭小症候群の手術の一般的な進め方
まぶたの形を治す方法は手術です。ただし、手術の時期・順番・方法について、世界的に統一された基準はありません。2026年に34の研究をまとめた分析でも、多くが小規模な症例の報告で、比べられる質の高い研究は少ないとされています10。
- 視力が危ないときは、まぶたを先に上げる
まぶたが瞳孔をふさぎ、弱視のおそれが強い場合は、3歳ごろまでにまぶたを上げる手術を先に行う考え方があります3,10。 - 目頭の形を整える
急ぎでない場合は、3〜5歳ごろに目頭のひだと目頭の離れを整える手術(内眼角形成術)を行うのが従来の進め方です1。 - まぶたを上げる手術
その約1年後に、まぶたの下がりを治します。海外では、眉の上の筋肉(前頭筋)とまぶたをつなぐ「吊り上げ術」が多く選ばれています1,10。
目頭とまぶたを1回で同時に治す方法もあります。エジプトの3歳未満の24人の比較では、1回で行った場合と2回に分けた場合で、結果に大きな差はありませんでした11。目頭の手術の方法については、大阪市立総合医療センターの日本人20人の研究で、方法によって見た目の評価に差があったと報告されています12。
まぶたを上げる方法:吊り上げ術か、挙筋の手術か
この病気のまぶたを上げる筋肉(眼瞼挙筋)は育ちが悪いとされ、海外では吊り上げ術が中心です10。一方で、筋肉そのものを短くしたり前に出したりする手術の報告もあります。
吊り上げ術に使う材料(自分の太ももの筋膜、人工の糸やシリコンなど)について、複数の比較試験をまとめた分析(コクランレビュー)では、どの材料が最もよいかは結論が出ていません17。手術の方法の違いは眼瞼挙筋前転法と前頭筋吊り上げ術で説明しています。
手術の前に確かめること:涙の量
ブラジルとポルトガルの21人の研究では、9人(43%)で両目の涙腺がCTで見つからず、涙の量が少ない方が多くいました18。研究者は、まぶたの手術を予定する場合は特に、事前に涙の量をしっかり調べることをすすめています18。まぶたを上げると目の表面が乾きやすくなるためです。

眼瞼裂狭小症候群でも、挙筋を前に出す手術を基本にしています
当院では、生まれつきの眼瞼下垂はまぶたを上げる力がほとんどないものとして、挙筋を大きく前に出して固定します。まぶたが三角に尖らないよう固定する点を増やし、自然なカーブに整えます。奥に筋肉が残っているという研究13も、この考え方の裏づけになると考えています。
この病気の方はもともと二重のラインがないことが多く、手術で二重を作ったり、そろえたりするものではありません。目を閉じにくくなるのを防ぐため、皮膚を大きく切り取らず、まぶたを閉じる筋肉をできるだけ残します。
眼瞼裂狭小症候群のよくある質問
成長すれば自然に治りますか?
まぶたの下がりと目の横幅の狭さは、自然には治りません。目頭のひだは成長とともに目立たなくなることがあります3。
子どもに遺伝しますか?
お子さん1人あたり50%の確率で受け継ぎます。男女に関係なく、父親・母親のどちらからも伝わります1。
男性にもまぶた以外の症状がありますか?
卵巣の働きの問題は女性に起こるもので、男性にはありません。ただし遺伝子の周辺を含む大きな欠けがある場合は、男女とも発達の遅れなどを伴うことがあります1。
大人になってからでも手術できますか?
できます。報告の多くは子どもですが、大人の手術や、子どものころの手術後の修正の報告もあります10。
高田眼科の考え方
乳幼児期の視力の管理は、小児眼科で続けていただくことを前提にしています。当院でのまぶたの手術は、小学校高学年以降の方と大人の方が対象です。生まれつきの眼瞼下垂として、挙筋を前に出す手術を基本に、他院へ紹介せず当院で対応します。費用は自費診療で片眼35万円(税込)です。詳しくは手術費用をご覧ください。
生まれつきのまぶたの形と下がりにお悩みの方へ
お子さんの年齢や視力の状態、ご家族の経過をうかがったうえで、手術の時期と方法をご説明します。
参考文献
PubMed・Cochrane Libraryに収載された論文をもとに作成しています。文献1・10は全文、それ以外は抄録を確認しています。
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