後天性眼瞼下垂の症状「カーンズ・セイヤー (Kearns-Sayre)症候群」
英語表記の「Kearns-Sayre Syndrome」の頭文字を取って「KSS」とも呼ばれる「カーンズ・セイヤー症候群」は、「ミトコンドリア病」の一疾病です。
ミトコンドリアの働きが低下することが原因で起こる病気を総称しミトコンドリア病と呼び、カーンズ・セイヤー症候群もその中の疾患のひとつとなります。
ミトコンドリアはほとんど全ての細胞に存在する細胞内小器官であり、その最大の役割はエネルギー(ATP)の生合成である。
ミトコンドリアの働きが低下すると、細胞そのものの働きがエネルギー(ATP)不足により低下します。筋肉であれば筋力低下、神経であれば麻痺、肝細胞であれば肝不全となるわけです。
病気の主座がどこであるかによりミトコンドリア脳筋症(のうきんしょう)・肝症・心筋症などに分けられますが、全てのミトコンドリア病で全身の症状が発現する場合があります。
カーンズ・セイヤー(Kearns-Sayre)症候群の場合は、ミトコンドリアが異常によって筋肉の働きが低下して発症するもので、眼瞼挙筋に症状が出て、「眼瞼下垂(がんけんかすい)」が出現します。
先に述べたように、ミトコンドリア病は、特に脳や脊髄にあたる中枢神経系や骨格筋にも影響度が大きいことから、それらの部位を示す「ミトコンドリア脳筋症」という病名でも呼ばれます。
眼瞼下垂をはじめとする症状を引き起こす「慢性進行性外眼麻痺(まんせいしんこうせいがいがんまひ)症候群/CPEO=Chronic Progressive External Ophthalmoplegia)」は、このミトコンドリア脳筋症に属する三大病型の一つで、さらに重症になった際にカーンズ・セイヤー症候群となります。
生物の授業で思い出される方もいらっしゃるかもしれませんが、そもそもミトコンドリアとは、動植物や菌類などほとんどすべての生物の細胞に広く含まれています。
私たちの体は、たくさんの細胞でできていますが、人間のミトコンドリアは、全身の真核細胞(核膜で囲まれた核をもつ)に存在する細胞小器官で、細胞の一つ一つにあり、一つの細胞には数百個も入っていて、生命維持活動のためのエネルギーをつくる重要な役割を担っています。
それがミトコンドリアを、人間にとってのエネルギー工場やエンジン、あるいは発電所と表現する理由で、最近はアンチエイジングの視点からも注目を集め話題になっています。
人間が食事で取り入れた糖質(炭水化物)を消化酵素によって分解してできるブドウ糖と、呼吸によって取り入れた酸素。この2つを用いて二酸化炭素と水とエネルギーに変える働きをするのがミトコンドリアなのです。
こうして生み出されたエネルギーによって私たちは、体温を維持したり、心臓から全身に血液を送ったり、筋肉を収縮させるなどの基本的な活動を行っています。
したがって、ひとたびミトコンドリアに異常が発生すると、特に大量のエネルギーを必要とする脳や脊髄、骨格筋を中心に症状が生まれます。
こうして引き起こされる多くの症状のなかで、4本の直筋(内直筋、外直筋、上直筋 、下直筋)と、2本の斜筋(上斜筋、下斜筋)で構成される外眼筋の麻痺につながった場合に、眼瞼下垂を発症するようです。