後天性眼瞼下垂の症状「カーンズ・セイヤー (Kearns-Sayre)症候群」

10代のころから両目のまぶたが少しずつ下がり、目の動きも悪くなってきた。背が低い、耳が聞こえにくい、といったこともある。こうした場合に調べる病気の一つが「カーンズ・セイヤー症候群」です。まぶたの症状から始まることが多い一方で、命に関わるのは心臓です。眼形成外科医の立場から、見落としてはいけない点を解説します。
- 20歳までに発症する、ミトコンドリアの病気:目の動きの制限と網膜の変化に加えて、心臓・小脳・髄液のいずれかに異常を伴うものを指します。患者数は10万人に1人程度と推定されています。
- 最も大切なのは心臓の検査:半数に心臓の合併症が起こり、突然の失神や心停止の原因になります。まぶたや目の症状が、心臓の症状より先に出ることがほとんどです。
- まぶたは手術で上げられる:ただし、目を閉じる力も弱くなる病気のため、角膜を守れる高さに控えめに上げます。
執筆:髙田 尚忠(高田眼科 院長/眼科医・眼形成外科) 最終更新:2026年10月
カーンズ・セイヤー症候群とは
ミトコンドリアは、細胞の中でエネルギーを作る小さな器官です。その働きが落ちると、エネルギーを多く使う筋肉、神経、心臓、網膜などに症状が出ます。カーンズ・セイヤー症候群は、次の条件がそろったものを指します1。
- 20歳までに発症する
- 目の動きが少しずつ悪くなる(進行性外眼筋麻痺)
まぶたの下がりを伴います。 - 網膜に色素の変化がある(網膜色素変性)
- 次のいずれかを伴う
心臓の電気の伝わり方の障害、小脳の症状(ふらつき)、髄液のたんぱくの増加。
患者数は10万人に1人程度と推定されています2。
進行性外眼筋麻痺との関係
まぶたと目の動きの症状は、「慢性進行性外眼筋麻痺」と共通です。目の症状だけの人から、全身に症状が出る人まで、ひと続きの病気と考えられています。
原因として最も多かったのは、ミトコンドリアDNAの一部が大きく欠けたもので、全体の63%でした3
目と全身の症状
ミトコンドリアDNAの大きな欠失があり、16歳未満で発症した人の研究。半数がカーンズ・セイヤー症候群とその近縁、29%が進行性外眼筋麻痺、21%が乳児期に貧血で発症するタイプでした。最後の診察時の年齢は平均31歳です4
最も大切なのは、心臓の検査
心臓を動かす電気の信号が伝わりにくくなり、ときに急速に、信号が完全に途切れる状態(完全房室ブロック)へ進みます。最初の症状が失神であることが多く、突然死が最初の症状になることもあります6。
埼玉医科大学のグループが、不整脈を伴った112人の報告をまとめました。約半数が完全房室ブロックに進み、10人が亡くなっていました。うち6人は、ペースメーカーを入れたあとの突然死でした7。
若いころからまぶたが下がり、目の動きも悪い方は、心電図の検査を
慢性進行性外眼筋麻痺の方は全員、心臓の検査を検討すべきとされています8。失神、めまい、動悸がなくても受けてください。カーンズ・セイヤー症候群と診断された方は、循環器内科で定期的に検査を続けます。
まぶたの手術
手術でまぶたを上げることはできます。ただし、上げすぎないことが大切です。
この病気では、目を閉じる筋肉や、目を閉じたときに眼球が上を向く反射、涙の量も落ちていることが多く、角膜を守る働きが弱くなっています8。視界を確保できる高さに、控えめに上げます9。
52歳の男性が、腱(すじ)を固定し直す手術を受けた1年後に、はっきりと再発しました。詳しく調べて、この病気と分かりました。その後、額の筋肉でまぶたを上げる手術を受け、1年後も良好でした10。
院長コメント:手術の前に、心臓の状態を確認します
カーンズ・セイヤー症候群やその疑いがある方は、手術の前に心電図などで心臓の状態を確認し、循環器内科・脳神経内科と連携します。手術は眼瞼挙筋前転法を基本とし、目を閉じる力と目の乾きを確認したうえで、角膜を守れる高さに調整します。
よくある質問
どうやって診断しますか。
脳神経内科で、筋肉の検査と遺伝子の検査を行います。スペインの89人の研究では、筋肉の検査で95%にミトコンドリアの変化が見つかり、96%で遺伝子の診断がつきました3。
重症筋無力症と言われたことがあります。
まぶたの下がりと目の動きの悪さが共通するため、間違われることがあります。重症筋無力症の検査の薬(エドロホニウム)は、この病気の方では心臓の伝導障害を起こすおそれがあると報告されています8。診断に迷うときは、脳神経内科で詳しく調べます。
視力は落ちますか。
網膜に変化があっても、多くの人で視力は保たれます5。見えにくさの原因は、まぶたの下がりや目の乾きであることが多く、眼科で定期的に確認します。
手術は保険が使えますか。
基準を満たす後天性の眼瞼下垂は、保険診療の対象です。まぶたを上げる力が、生まれつきの眼瞼下垂と同じくらい大きく失われている場合は、自費診療になります。詳しくは「眼瞼下垂手術の費用」をご覧ください。
高田眼科の考え方
若いころからのまぶたの下がりに、目の動きの悪さを伴う方では、まぶたの手術より先に、心臓を含む全身の確認をおすすめしています。筋肉の病気による眼瞼下垂の全体像は「筋肉の病気による眼瞼下垂」をご覧ください。
若いころからのまぶたの下がりと、目の動きの悪さが気になる方へ
まぶたの下がりの原因を見きわめ、全身の状態に合わせた治療方針をご提案します。
参考文献
PubMed収載論文をもとに作成しています。文献8・9・10は全文、それ以外は抄録を確認しています。
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- Richmond C, Powell L, Brittingham ZD, Mancuso A. Kearns-Sayre syndrome: two case reports and a review for the primary care physician. J Family Med Prim Care. 2023;12(4):792-795. doi:10.4103/jfmpc.jfmpc_1790_22
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- Park RB, Akella SS, Aakalu VK. A review of surgical management of progressive myogenic ptosis. Orbit. 2023;42(1):11-24. doi:10.1080/01676830.2022.2122514
- Weitgasser L, Wechselberger G, Ensat F, et al. Treatment of eyelid ptosis due to Kearns-Sayre syndrome using frontalis suspension. Arch Plast Surg. 2015;42(2):214-217. doi:10.5999/aps.2015.42.2.214







