眼瞼下垂の基礎知識

前頭筋吊り上げ術とは|方法・素材の違い・リスクと、当院が行っていない理由

髙田 尚忠

前頭筋吊り上げ術は、まぶたを上げる筋肉の力が乏しい眼瞼下垂に対して、広く行われている手術です。当院では現在、この手術を行っていません。

このページで分かること
  • 前頭筋吊り上げ術の仕組みと、勧められるケース
  • 素材ごとの違い(再発、感染)
  • 前頭筋吊り上げ術の手術後に起こりうること
  • 当院が前頭筋吊り上げ術を行わず、挙筋前転で対応している理由

前頭筋吊り上げ術とは

前頭筋吊り上げ術は、眉を上げるおでこの筋肉(前頭筋)と、まぶたの土台(瞼板)を、ひも状の素材でつなぐ手術です。まぶた自身の筋肉ではなく、眉を上げる力を使ってまぶたを開けます。

前頭筋吊り上げ術は一般には、まぶたを上げる筋肉(眼瞼挙筋)の動きが4mm以下と乏しい場合に勧められます。重度の先天性眼瞼下垂が代表です。2025年の系統的レビューでも、挙筋機能が著しく悪い場合の第一選択とされています1)。

前頭筋吊り上げ術で使用する素材の種類と違い

前頭筋吊り上げ術では、まぶたと額の筋肉をつなぐために、さまざまな素材が使用されます。素材によって特徴や術後の経過が異なるため、それぞれの違いを見ていきます。

素材 特徴 論文での報告
自分の太ももの筋膜 自分の組織なので異物反応が少ない。太ももに傷ができる 再発が少なく、先天性眼瞼下垂では第一に選ばれる素材とされる2)
保存筋膜(他人の組織) 太ももの傷がない 再発35.3%3)
シリコン 伸び縮みする。後から調整や除去がしやすい 再発13%、感染・肉芽15.2%3)
ゴアテックス 人工素材。太ももの傷がない 成績は報告によって分かれる(下記)
ナイロンなどの糸 手術が簡単 一時的に上げる目的に向く2)

ゴアテックスの評価は分かれている

報告 結果
米国の比較研究2) ゴアテックスを使った11件のうち5件(45.5%)で、感染が疑われ素材を取り除いた
無作為化試験(55人ずつ)4) 良好以上は、自分の筋膜78.1%、ゴアテックス61.8%。再発は3人と6人
無作為化試験(15人ずつ)4) ゴアテックスで良好以上93%。感染・再発なし

「最良の素材」は決まっていない

信頼性の高い研究だけを集めて検証するコクラン・レビューは、3つの無作為化試験(合計160人)を調べたうえで、「最適な素材は特定できない」と結論しています4)。

前頭筋吊り上げ術の後に起こりうること

素材を問わず、102件の前頭筋吊り上げ術をまとめた報告では、次の頻度でした2)。

31.4%まぶたが再び下がった割合。およそ3件に1件
10.8%感染、または肉芽(しこり)ができた割合
目が閉じにくい
前頭筋吊り上げ術の手術後はほぼ全員に起こり、時間とともに軽くなる。自分の筋膜を使った場合は挙筋の手術と同じ程度(平均約2mm)、保存筋膜では少ない(平均0.6mm)5)8)
下を向いたときにまぶたが下がらない
まぶたがおでこにつながれているため
眉を上げないと開かない
眉の動きでまぶたを開ける手術のため。片目だけの場合、左右で動きが違って見える
傷
眉の上と、筋膜を採る場合は太ももにも残る
素材の露出、感染
人工素材では、取り除く手術が必要になることがある

当院が前頭筋吊り上げ術を行っていない理由

当院では以前、ゴアテックスによる前頭筋吊り上げ術を行っていました。現在は、重度の先天性眼瞼下垂を含めて、前頭筋吊り上げ術は原則行っていません。

01 まぶたの形

ひもで引き上げるため、まぶたのカーブを細かく整えにくい

02 まばたきの動き

眉の動きに連動するため、まばたきが不自然に見えやすい

03 素材によるトラブル

再発、感染、素材の露出が一定の頻度で起こる。ゴアテックスでは肉芽が11.8%にみられたという無作為化試験がある8)

04 片目だけの場合の上がり不足

吊り上げ術は眉を上げる動きが前提。片目だけの眼瞼下垂や弱視のある目では、その側の眉を自然に上げられず、上がり不足になりやすい9)

05 挙筋の手術でも対応できる

挙筋機能が乏しい例でも、挙筋を使う手術で吊り上げ術と同等の成績が報告されている5)6)

当院では、眼瞼挙筋を前に引き出して固定する「挙筋前転」を、筋肉の力が弱いほど大きく行う方法で対応しています。考え方、成績、リスクは先天性眼瞼下垂の手術で解説しています。

前頭筋吊り上げ術が選ばれる場面もあります

乳幼児期に、視力の発達を守るために早くまぶたを上げる必要がある場合などは、基幹病院で前頭筋吊り上げ術が選ばれることがあります。前頭筋吊り上げ術そのものが劣った手術ということではありません。

前頭筋吊り上げ術後にまぶたが下がってきた方へ

シリコンによる吊り上げ術がうまくいかなかった20眼に、素材を取り除いて挙筋の手術を行った報告では、まぶたの高さが有意に改善しています7)。

当院でも、前頭筋吊り上げ術後の再手術のご相談をお受けしています。

前頭筋吊り上げ術についてよくある質問

他院で前頭筋吊り上げ術を勧められました。受けないほうがよいですか?
前頭筋吊り上げ術は、重度の眼瞼下垂に対する標準的な手術のひとつです。当院は別の方法(挙筋前転)で対応しているため、比較したうえで決めたい方はご相談ください。
吊り上げ術で入れた素材は、取り除けますか?
取り除くことは可能です。癒着の程度によって難しさが変わるため、診察で判断します。
吊り上げ術と挙筋前転では、目の閉じにくさは違いますか?
素材によって異なります。152のまぶたを比べた研究では、自分の筋膜を使った吊り上げ術と挙筋の手術は同じ程度で、保存筋膜を使った吊り上げ術はより少ない結果でした5)。ゴアテックスと比べた無作為化試験では、術後1か月は挙筋の手術のほうが閉じにくく、6か月以降は差がなくなっています。黒目の表面の傷は挙筋の手術のほうが多く報告されています(21.6% 対 5.9%)8)。

まとめ

  • 前頭筋吊り上げ術は、眉を上げる力でまぶたを開ける手術です。
  • 素材には筋膜、シリコン、ゴアテックスなどがあり、最良の素材は決まっていません。
  • 再発はおよそ3件に1件、感染や肉芽は約1割と報告されています。
  • 当院では現在、前頭筋吊り上げ術を行わず、挙筋前転で対応しています。

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参考文献

  1. Surgical Management of Severe Congenital Ptosis: A Systematic Review. J Craniofac Surg. 2025. doi:10.1097/SCS.0000000000012324
  2. Wasserman BN, Sprunger DT, Helveston EM. Comparison of materials used in frontalis suspension. Arch Ophthalmol. 2001;119(5):687-91. doi:10.1001/archopht.119.5.687
  3. Hersh D, Martin FJ, Rowe N. Comparison of silastic and banked fascia lata in pediatric frontalis suspension. J Pediatr Ophthalmol Strabismus. 2006;43(4):212-8. doi:10.3928/01913913-20060701-02
  4. Rosenberg JB, Andersen J, Barmettler A. Types of materials for frontalis sling surgery for congenital ptosis. Cochrane Database Syst Rev. 2019;4(4):CD012725. doi:10.1002/14651858.CD012725.pub2
  5. Lagophthalmos after congenital ptosis surgery: comparison between maximal levator resection and frontalis sling operation. Eye (Lond). 2020. doi:10.1038/s41433-020-1081-z
  6. Surgical outcomes of tarsofrontalis sling surgery using silicon rod versus supramaximal levator resection in unilateral congenital ptosis with poor levator function. Int Ophthalmol. 2022. doi:10.1007/s10792-022-02497-x
  7. Maximal levator resection as a revision strategy following failed silicone frontalis sling. BMC Ophthalmol. 2026. doi:10.1186/s12886-026-04889-4
  8. Maximal levator resection versus Gore-Tex sling for congenital blepharoptosis with poor levator function. Oman J Ophthalmol. 2021. doi:10.4103/ojo.ojo_127_21
  9. Surgical treatment of unilateral severe simple congenital ptosis. Taiwan J Ophthalmol. 2018. doi:10.4103/tjo.tjo_70_17

このブログの執筆者
髙田尚忠
髙田尚忠
高田眼科 院長|フラミンゴ美容クリニック/銀座Jクリニック/あさ美皮フ科 眼瞼手術担当
岡山大学医学部卒業後、郡山医療生活協同組合 桑野協立病院などの様々な医療機関を勤務し、現在は高田眼科の院長を務めつつ、関連クリニックの名古屋のフラミンゴ眼瞼・美容クリニック、銀座のJ clinic、亀戸のあさ美皮フ科においても、眼瞼下垂手術を中心に年間2,000件以上の眼瞼手術に携わっています 「見え方(視機能)」と「日常の快適さ」を回復することを第一に、診察では原因(加齢・コンタクト・体質・既往手術など)を丁寧に整理し、必要な治療を分かりやすく説明すること心がけています。 このブログでは、眼瞼下垂の症状、治療選択、術後経過で不安になりやすいポイントなどを、専門医の立場からできるだけ具体的に発信しています。
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