眼瞼下垂症こぼれ話:動眼神経麻痺

眼瞼下垂症の原因として、あまり知られていないものに神経障害に伴う眼瞼下垂症があります。
- 動眼神経麻痺
- horner症候群(ホルネル症候群):交感神経系の障害
- 外傷、手術による障害
など・・・があります。
今回は、動眼神経麻痺についての自験例をお話したいと思います。
当院は、平素から、沢山の眼瞼下垂症を取り扱い、手術をおこなっておりますが、手術で治るのは、腱膜性眼瞼下垂、皮膚弛緩性眼瞼下垂、先天性眼瞼下垂です。
これらは、筋肉や皮膚に構造異常が生じていますから、それを手術によって解剖学的に修復することができます。
一方で、神経系の異常・・・いわゆる神経障害(麻痺)による眼瞼下垂症においては、手術による改善は一筋縄ではいきません。
術前の検査において、一番大事なことは、ご相談に来られた患者様の眼瞼下垂症が手術で治せるのか?治せないのか? をきちんと判断をすることです。
さて、前日、片眼の眼瞼下垂症で、他院(形成外科)で何度も手術を行ったものの、改善しないということで、当院に相談来られた患者様がいらっしゃいました。
恥ずかしながら、当初は、他院での手術によって、上手くいかなかったのを自分で治すつもりで手術を引き受けるつもりでおりました。
普段から、術前の検査では、対光反射、斜視をチェックするのですが、この方の場合、僅かに上下斜視を認めるものの、その他については一見問題がないように考えておりました。
手術についての説明をし、手術の予約についてお話をしているところで、ふと、ご本人から、「他の病気の可能性はないのですか?」という質問を受けました。
この質問で、再び、頭の中の医学書を開いてみました・・・・。
動眼神経麻痺の場合、対光反射の消失(瞳孔の散大)、外斜視、複視(物が二重に見える)というのが特徴です。
この方に、当てはまるものは、一見ないのですが、動眼神経麻痺による外斜視というのは、まれに、上下斜視で出現することがあることに気付きました。
そこで、視能訓練士(ORT)に斜視の検査をオーダーし、確認しましたところ、遠見では、わずかな上下斜視でしたが、近見では、外斜視。輻輳も減弱しており、上方に向くと、複視が出るとの結果でした。
この結果から、動眼神経麻痺の可能性が強いと判断し、高次病院でCT,MRIを撮っていただくことと致しました。
もし仮に、動眼神経麻痺ということならば、他院での手術で眼瞼下垂症が改善しなかったというのは当然であり、当院で通常の眼瞼挙筋前転法、眼瞼挙筋短縮法による修正手術を行ったとしても、良い結果が出たとは言い難いと思います。(腱膜移植、ゴアテックスによる吊り上げ術の適応だと考えます。)
しかも、動眼神経麻痺の原因は、脳動脈瘤などの脳疾患に起因することが多いので、見逃すと重大な結果を招く場合もあり、きちんと確認をすることが大事です。
加えて、今回の患者様は、形成外科でしか、受診しておらず、眼科で眼瞼下垂症を相談したのが、当院が初めてでした。
恐らく、形成外科では動眼神経麻痺に気付かなかった可能性が高いです。(恥ずかしながら、眼科医である小生でも見逃しかけました。)
医師という仕事の上で大事なことは、思い込みをしないことです。
思い込めば、疾患を見逃すことになります。それを身にしみて、実感した経験例でした。