目の前にある浮遊物―飛蚊症の症状と原因について紹介
視界に小さなゴミや糸くずのようなものが見えるとき、飛蚊症の可能性があります。飛蚊症にはいくつかの原因があり、中には失明のリスクとなるものもあります。この記事では、飛蚊症にみられる症状や原因、治療法について紹介します。
飛蚊症とはー症状や見え方について
飛蚊症は名前の通り、目の前に蚊が飛んでいるような状態になる症状をいいます。飛蚊症でみられる症状には個人差があり、黒い粒や糸くずのようなものが視界にみられるようになります。個数もさまざまで、1つの時もあれば、複数個みられることもあります。
飛蚊症が起こるメカニズム
飛蚊症は、目のレンズにあたる水晶体と網膜の間にある硝子体(しょうしたい)の濁りによって起こります(医学用語で硝子体混濁といいます)。硝子体はゲル状の組織で、眼球の4分の3もの容積を占めています。
硝子体に濁りがあると、その部分は網膜の影となるため、目の前に何か浮遊しているように見えます。そのため、暗めの所よりも明るい場所の方が、飛蚊症が強く現れます。混濁物は硝子体を浮遊しているので、目の前に見える異物も動くように見えます。
飛蚊症が起こる原因は3つ
飛蚊症の原因は大きく分けて、加齢、生まれつきの体質、目の病気の3つがあります。ここではそれぞれの原因についてみていきます。
1.加齢によるもの
飛蚊症の原因で最も多くみられるのが、加齢による目の老化です。ゲル状の組織である硝子体は、加齢とともに少しずつ水っぽくなります。硝子体が液化すると、網膜から剥がれやすくなり、すき間ができるようになります(医学用語で後部硝子体剥離といいます)。
後部硝子体剥離が起こると、飛蚊症の症状が急激に現れるため、不安になって眼科に駆け付ける人も少なくありません。ただ加齢による飛蚊症は、ありふれた症状です。たとえば、目の老化で後部硝子体剥離が起こるのは、およそ50代後半くらいからが多いです(早い方だと40代に発症する患者さんもいます)。日々の診療の実感としては、60歳代で半分くらい、70歳代になると8割以上の人に飛蚊症がみられています。
後部硝子体剥離による飛蚊症は目の老化現象なので、特に問題ありません。時間経過とともに、影も薄くなっていくこともあります。硝子体の剥がれた部分が前方へ移動するので、網膜と距離ができるためです。
2.生まれつきの体質によるもの
加齢でみられやすい飛蚊症ですが、40歳以下の若い世代にもみられることがあります。このような飛蚊症の多くは「生理的飛蚊症」で、自然な現象です。
もともと硝子体には、透明な繊維やわずかな細胞成分があり、光の加減により、これらの物質が網膜に影を作ることがあります。
病的なものではないので、特に心配することはありません。特に、生理的飛蚊症がみられやすいのが強い近視の人です。近視の人は眼球が横に長く、硝子体にすき間ができやすく、硝子体の物質が引っかかりやすくなります。
3.目の病気によるもの
珍しいケースですが、目の病気が原因で飛蚊症になることがあります。具体的な目の病気には網膜剥離や眼内出血(硝子体出血)、目の感染症などがあります。目の病気により飛蚊症がみられている場合、医療機関ですみやかに治療を受けることが大切です。以降では、飛蚊症が現れる目の病気について詳しくみていきます。
飛蚊症を引き起こす目の病気について
飛蚊症の自覚は、目の重大な病気を知らせるサインとなることがあります。これらの病気の中には、放置すると失明する危険があるものもあり、注意が必要です。飛蚊症がみられる主な目の病気には以下のものがあります。
網膜剥離
眼球の内側にある網膜が剥がれて、視力が下がる病気です。網膜は、カメラのフィルムの働きがあり、目に入った光の情報を視神経に伝える働きがあります。破れたフィルムでは写真が撮れないように、網膜剥離になると視力が低下します。網膜剥離の前段階として、網膜に裂け目が起こります(網膜裂孔)。
実際に網膜剥離が起きても、痛みは起こりませんが、飛蚊症が現れることがあります。網膜の裂け目が影になったり、網膜が剥がれることにより、網膜の細胞が眼球に浮遊したりするためです。また、網膜剥離によって出血が起こると、煙のような物が見えることもあります。
網膜剥離が進行して、網膜の中心にある黄斑まで剥がれると、極端に視力が下がります。怖い印象がありますが、早い段階で治療(レーザー治療や手術)を受ければ、視力を回復することが可能です。
硝子体出血
眼球内の網膜の出血が硝子体にまで流れると、飛蚊症として感じられることがあります。硝子体出血は目の打撲などの外傷だけでなく、高血圧や糖尿病などにより出血が生じることがあります。
硝子体出血では黒い影のようなものが見えるようになります。軽いものでれば、時間の経過とともに少しずつ吸収されていきます。出血量の多い重症例や、網膜剥離により硝子体出血が生じている場合は手術などの治療が必要となります。
目の感染症
珍しいケースではありますが、目の感染症が原因で飛蚊症になることがあります。目の外傷や全身の感染症、目の手術後の感染などによって、細菌が眼球内で増殖することで起こります。
目が感染すると炎症を起こすので、飛蚊症以外に目の痛みを感じるようになります。目の感染症は抗生物質の投与や手術で治療しますが、手遅れになると失明する危険もあるので注意が必要です。
飛蚊症かどうかを調べる検査
飛蚊症の症状が強くみられている場合、眼底検査を行います。眼底検査では検眼鏡を使って、眼球奥にある網膜の状態を調べます。検査前には、瞳孔を広げる点眼薬を行います。
飛蚊症の治療について
飛蚊症の治療は、症状が起きている原因によってアプローチが異なります。通常、生まれつきのものや加齢によって起きている飛蚊症には、治療を行わないことがほとんどです。視界に浮遊物が見える状態が続きますが、気にし過ぎないようにすることも大切です。
目の病気により飛蚊症がみられている場合は、その治療を行います。特に、網膜剥離で飛蚊症がみられている場合、早い段階で治療をすれば、失明を防ぐことができます。
網膜に裂け目があるなど剥がれる前の状態なら、レーザーを当て、網膜と周辺の組織を焼き付けます(光凝固法)。また、すでに網膜が剥がれている状態であれば、手術で剥がれた網膜を元の場所に戻します。
日常生活のポイント
飛蚊症の多くは、加齢による目の老化で起こるものです。
また、飛蚊症の原因となる目の病気を予防することも大切です。たとえば、網膜剥離であれば、ケガや目への強い衝撃が原因となることがあります。コンタクトレンズの不十分な管理など目の不衛生は、感染症を引き起こすこともあるでしょう。
繰り返しになりますが、飛蚊症の原因の多くは、加齢や生理的な原因であり、特に治療は必要になりません。しかし稀に、網膜剥離のような重大な目の病気のサインとしてみられることもあります。患者さんの飛蚊症の自覚症状だけでは、治療が必要な飛蚊症なのか治療の必要のない飛蚊症なのかの区別は困難です。急に飛蚊症がみられたり、飛蚊症の悪化を自覚したときは、早めに医療機関を受診するようにしましょう。
まとめ
飛蚊症の多くは、加齢による目の老化や生まれつきで起こる生理現象で起こるものです。生理現象による飛蚊症の場合、積極的に治療は行われないため、心配し過ぎないことが大切です。
一方、網膜剥離や目の感染症などが原因で、飛蚊症がみられることもあります。目の病気の中には失明を引き起こすものもあるので、症状をそのまま放置しないようにしましょう。
当院では、飛蚊症の原因となる網膜剥離など目の病気の検査・治療を行っています。目の前に見える浮遊物が心配な方は、受診を検討してみてください。