近視進行を予防する治療があることをご存じですか?

近視とは
近くの物は見えるけど、遠くの物を見たときにぼやけて見える状態です。
目に入った光が網膜の手前で焦点を結んでしまうことが原因です。
近視の原因は大きく分けて2つあり、それぞれ原因・治療が異なります。
1.仮性近視
本当の近視ではなく、一時的に近視の状態になってしまう病気です。
そのため、本当の近視(軸性近視)ではない「仮の」近視ということで仮性近視と呼ばれています。
近くの物を長時間見続けることで、目の中のレンズ(水晶体)の厚みを調節する筋肉(毛様体)が収縮し続けてしまいます。その結果、遠くを見たときに目に入った光が網膜の手前で焦点を結んでしまうことが原因です。
小児(幼児~小学校低学年)に多いです。毛様体の緊張をほぐすことが治療になります。比較的短期間(1~3か月)の治療(点眼薬(ミドリンM)やワック)により回復することが多いです。
2.近視(軸性近視)
一般的に近視という場合、こちらの軸性近視をさします。
ヒトは成長するにつれて、目も大きくなります。成長期(7~16歳程度)に目の奥行が伸びすぎてしまうと、目に入った光が網膜の手前で焦点を結んでしまう状態になってしまいます。いわゆる小学校高学年~高校生の時期に出てくる近視です。
両親のいずれか、または両方が近視の場合、子どもも近視になりやすくなります。
軸性近視になってしまった場合、治療としては眼鏡やコンタクトレンズで矯正することが必要となります。
成長とともに眼の奥行も伸びていく(近視の進行)ために、眼鏡やコンタクトレンズのレンズ度数を徐々に強めていくことが多いです。
軸性近視では、仮性近視の治療方法(点眼薬(ミドリンM)やワック)による効果は乏しいと考えられています。
以下で詳しく説明しますが、軸性近視の進行を予防する治療方法(マイオピン点眼液・オルソケラトロジー)があります。

ここで仮性近視、近視(軸性近視)の概要を表にまとめますと以下となります。
(軸性近視は治療ではなく、進行の抑制治療である点にご留意ください。)
仮性近視 | 近視(軸性近視) | |
発症年齢 | 幼児~小学校低学年 | 小学校高学年~高校生 |
原因 | 眼の中の筋肉(毛様体)の緊張 | 体の成長と共に目の奥行が長くなること |
治療方法 | 点眼薬(ミドリンM)ワック | 点眼薬(マイオピン)オルソケラトロジー |
治療期間 | 短期間(数か月) | 16歳程度(体の成長が止まる頃まで) |
ミドリンM(仮性近視治療)
製剤情報サイト
https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1311705Q1048_1_08/

ワック(仮性近視治療)
紹介サイト(株式会社ワック)
http://www.woc.co.jp/product/d7000.html

マイオピン(近視(軸性近視)治療)
紹介サイト(アイレンズ社)
https://www.myopine-eyelens.sg/

オルソケラトロジー(近視(軸性近視)治療)
紹介サイト(株式会社メニコン)
https://www.menicon.co.jp/ortho/#1

仮性近視はあくまでも一時的な状態であるのに対して、近視(軸性近視)は成長と共に進行していく病気になります。小学生の場合、仮性近視と軸性近視両方が生じていることもあります。そのため、見づらさや学校検診で視力低下を指摘された場合、近視の状態の判断の為に医療機関の受診をお勧めいたします。
(以下の文章で、近視という場合 軸性近視のことをさします。)
近視の治療方法
一度近視(軸性近視)になってしまった場合、それを元に戻すことは出来ません。
眼鏡やコンタクトレンズで矯正頂くことが一般的な近視治療方法になります。
近視が進行することで生じる病気
近視が進むほどかかりやすくなる目の疾患があります。
特に強度近視の場合、大人になってから緑内障 網膜剥離 後部ぶどう腫 網膜分離症、黄斑円孔、近視性脈絡膜新生血管黄斑症、視神経乳頭萎縮 網膜萎縮などの疾患になるリスクが高くなるとされています。これらの疾患には失明につながるものもあります。近視の進行を予防することでこれらの疾患リスクを減らすことが大切です。
近視進行の予防方法
このように深刻な病気にもつながりかねない近視の進行を防ぐための方法がいくつかあります。
(以下の方法は、近視の進行の予防であって近視自体の治療ではない(一度なってしまった近視は元には戻らない)点にご留意ください。)
学童期に読書やテレビ・スマートフォン・タブレット等の利用時間が長いほど近視が進行しやすくなることがわかっています。また、屋外で日光の下で活動することで近視の進行が抑えられやすくなることも報告されています。
しかし、現代の生活においてはなかなか上記予防方法の実践は難しいと思われます。
現在、近視の進行予防治療としてエビデンス(科学的に立証されたデータ)のある治療方法は下記となります。
・オルソケラトロジー
特殊なコンタクトレンズを寝ている間に装着する治療方法になります。自費治療のため治療費がかなり高額となること。年少者の場合、コンタクトレンズ装用が困難なことがあるのが欠点となります。
・低濃度アトロピン点眼液(マイオピン点眼液)
シンガポール国立眼科センター、シンガポール眼科研究所で実施された臨床試験により、低濃度アトロピン点眼液を2年間点眼することで、点眼しない場合と比較して50%程度近視の進行を抑制することが発表されました。(末尾参考文献①)
また、このシンガポールの研究を踏まえて日本国内でも同様に低濃度アトロピン点眼液を使用した研究が実施され、近視の進行抑制効果があることが発表されました。
(末尾参考文献②)

シンガポールでの臨床試験(ATOM2)結果のグラフ資料
マイオピン(0.01%アトロピン)点眼薬使用により、未使用(プラセボ)と比較して近視進行抑制効果が50%程度得られたことを示しています
低濃度アトロピン点眼液(マイオピン点眼液)の臨床試験のまとめ
- 近視の進行抑制効果が確認された(完全には進行は止められなかった)。
- 副作用はほとんどみられなかった。
- 点眼治療終了後のリバウンド(近視の再進行)も少なかった。
ここで仮性近視、近視(軸性近視)の治療方法を表にまとめますと以下となります。
(軸性近視は治療ではなく、進行の抑制治療である点にご留意ください。)
マイオピン点眼液 | オルソケラトロジー | |
治療方法 | 毎晩寝る前に1回点眼 | 毎晩特殊なコンタクトレンズを装用した状態で寝る |
治療開始年齢 | 幼児~ | 小学校高学年~(コンタクトレンズの装用が可能であれば小学校低学年でも可能) |
治療の容易さ | 容易 | やや難しい(コンタクトレンズの洗浄管理等も必要) |
治療費用 | 1年間4万円程度(検査・診察・点眼薬代) | 1年間8~15万円程度(検査・診察・コンタクトレンズ代) |
上記より、治療方法が容易で効果の高いマイオピン点眼液による近視進行抑制治療を当院では採用しております。
当院での診療の流れ

お子様の視力検査や目の状態の診察を行います。
検査・診察の結果を説明します。ご希望がありましたらマイオピン点眼薬を処方します。
初処方1週間後・1か月後に問題点がないか検査・診察致します。
1か月後の診察で問題ない場合、以降は3か月毎に検査、診察のため受診いただきます。
マイオピン点眼液による治療に関しての注意点
- 点眼後6~8時間ぐらいまぶしさ・見え方のぼやけを感じることがあります。(起床時間から逆算して寝る前に点眼頂くことで日常生活への影響を避けられます。)
- まれに点眼薬に含まれる防腐剤に対してアレルギー性結膜炎を生じることがあります。(マイオピン点眼液に含まれる防腐剤は他の点眼液にも使われる一般的な防腐剤です。)
- 点眼薬1本(5㎖)は開封後1ヶ月間使用可能です。開封後1か月過ぎたものは安全性の観点から破棄してください。
- 3か月に1回定期検査と診察が必要になります。
- 自費治療となります。
- 国内未承認治療になりますが、安全性・有効性に関してはシンガポール及び日本国内での臨床試験で確認されています。(末尾参考文献①、②)
マイオピン点眼液の輸入は正規代理店を通してシンガポールより輸入しております。
(アイレンズ社 https://www.myopine-eyelens.sg/myopine-jp )
マイオピン点眼薬治療の費用
- マイオピン点眼薬1箱 ¥2,980円(税別)(購入は1回につき3箱まで)
- 診察・検査代 1回¥2,000円(税別)
(初回処方1週間後の検査・診察代は1000円(税別))
マイオピン点眼薬による治療は近視のこれ以上の進行を抑制するための治療です。
この治療で低下した視力が良くなるわけではありません。
治療について相談をご希望される場合、お電話( 0567-55-7535 )にて当院の診察予約をお願い致します。
参考文献
- Atropine for the treatment of childhood myopia: changes after stopping atropine 0.01%, 0.1% and 0.5% (小児近視治療用アトロピン:アトロピン濃度0.01%、0.1%、0.5%の点眼終了後の変化) Am J Ophthalmol. 2014 Feb;157(2):451-457
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24315293/ - 近視学童における0.01%アトロピン点眼剤の近視進行抑制効果に関する研究(ATOM-J Study)
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/201910/562424.html