眼瞼下垂の基礎知識

眼瞼下垂症手術こぼれ話:「左右差調整」の難しさとHeringの法則

Dr.髙田

2026年1月14日 修正・更新

眼瞼下垂症手術において、多くの患者さんが最も気にされるのは「目の開きが良くなるかどうか」ですが、実際の臨床現場では、それと同じくらい、あるいはそれ以上に重要なポイントがあります。

それが、
左右の目の高さ(開き具合)を自然に揃えることです。

この「左右差の調整」は、想像以上に繊細で高度な技術を要する工程であり、眼瞼下垂手術を専門とする医師にとっても、最も神経を使う部分のひとつです。


ABOUT ME
高田 尚忠
高田 尚忠(たかだ なおただ)
高田眼科 院長 |ひとみ眼科 / フラミンゴ美容クリニック 眼瞼手術担当医師
所属学会:日本眼科学会、日本形成外科学会、日本眼形成再建外科学会
岡山大学医学部卒業後、横浜形成外科の二木 裕先生に師事。 郡山医療生活協同組合 桑野協立病院などの様々な医療機関を勤務し、 現在は高田眼科の院長を務める。 眼科医と形成外科医の知識と、これまでの豊富な眼瞼手術の術者としての経験をもとに、2022年においては年間2,000件超える眼瞼下垂症手術を手がけております。 2022年3月より、名古屋市内の伏見駅近くのフラミンゴ眼瞼・美容クリニックを開院。

両眼同時手術と片眼ずつの手術の違い

原則、眼瞼下垂症手術を両眼同時に行います。
この方法の利点は、その場で左右の高さを比較しながら微調整ができる点です。

どうしても、片眼ずつ行う場合には、その場で左右を直接見比べて修正することができないという制約があります。


眼瞼下垂手術で必ず意識すべき「Heringの法則」

この左右差調整を難しくしている最大の要因が、Hering(ヘーリング)の法則です。

Heringの法則とは?

Heringの法則とは、簡単に言うと、

片方の眼瞼を持ち上げると、もう片方の眼瞼が下がることがある

という生理的な反応です。

正式には、

両側の挙筋は、脳から同時に同じ神経刺激を受ける

という仕組みに基づいています。

つまり、

  • 下垂が強い方 → 脳が「もっと開けよう」と強く指令
  • その指令が両側に同時に出る
  • 結果として、健側も引き上げられて見える

という状態が起こっています。

ここで、下垂の強い側を手術で改善すると、脳は「もうそんなに頑張らなくていい」と判断し、神経刺激を弱めます。
その結果、反対側のまぶたが下がってくることがあるのです。

これが、Hering効果と呼ばれる現象です。


なぜ左右差が生じやすいのか?

このHeringの法則があるため、単純に

「下がっている方を持ち上げればOK」

というわけにはいきません。

もしそれをしてしまうと、

  • 手術直後は左右が揃って見える
  • 数日〜数週間で反対側が下がる
  • 結果として左右差が出る

という事態が起こります。

この現象を理解せずに手術を行うと、
「術後に左右差が出てきた」
「片方だけ眠そうに見える」
といったトラブルにつながります。


私が行っている左右差調整の考え方

Heringの法則への対策として、現在、多くの医療機関では左右同時に手術を行い、術中にバランスを見ながら調整する方法が採用されています。

この方法では、

・その場で左右の高さを比較できる
・Hering効果の影響を受けにくい
・微調整が可能

というメリットがあります。

そのため、「Heringの法則=必ず左右差が出る」というわけではなく、適切な術式と調整を行えば、左右差は最小限に抑えることが可能です。


それでも左右差が残る可能性がある理由

ただし、すべてのケースで完全な左右対称が実現できるわけではありません。

特に、

・術前から明らかな左右差がある
・挙筋機能に左右差がある
・皮膚や脂肪量に差がある
・眼窩構造そのものに左右差がある

このような場合には、術後にある程度の左右差が残る可能性があります。

これは手術の失敗ではなく、解剖学的・生理学的な限界によるものです。

この点を事前に正しく説明しないと、

「完全に同じになると思っていた」
「思ったより左右差がある」

といった不満につながってしまいます。


左右差調整は「ゼロにする」ものではない

眼瞼下垂手術における左右差調整とは、

❌ 完全な左右対称を保証するもの
⭕ 違和感のない自然なバランスに近づけるもの

です。

人間の顔はもともと左右非対称であり、
「完全な左右対称」は生物学的に存在しません。

そのため、眼瞼下垂手術では、

・違和感がないか
・眠そうに見えないか
・視界が改善しているか
・表情が自然か

これらを総合的に判断する必要があります。


なぜこの調整が難しいのか?

この過矯正量の決定は、

  • 教科書通り
  • マニュアル通り
  • AI的計算

では不可能です。

なぜなら、

  • 筋肉の質
  • 腱膜の硬さ
  • 眼窩脂肪の量
  • 皮膚の厚み
  • 神経反応

これらがすべて個人差だからです。

つまり、これは完全にアナログの世界なのです。


外科医としての醍醐味

この「ほんの少し」を見極める感覚は、

  • 症例経験
  • 失敗からの学び
  • 術後経過の検証
  • フィードバック

これらを何年も積み重ねて、初めて磨かれます。

私は、この感覚を磨いていく過程こそが、
外科医としての最大の醍醐味だと考えています。


まとめ:眼瞼下垂手術は「高さ合わせの職人技」

眼瞼下垂手術は、

❌ ただ上げる手術
⭕ バランスを整える手術

です。

その中でも、

  • Heringの法則を理解しているか
  • それを前提に設計しているか
  • ミリ以下の調整ができるか

ここに、術者の技量差が最も出ます。

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- 【眼瞼下垂】延べ2万眼瞼以上の手術経験 -
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