眼瞼下垂と自律神経失調症の関係
自律神経失調症とは、自律神経のバランスが乱れ、体や心に不調が生じる状態です。
ストレスや生活習慣、睡眠不足などが主な原因として考えられますが、眼瞼下垂によって自律神経が乱れる場合もあります。
本記事では、眼瞼下垂と自律神経失調症の関係について、主な症状や治療法も含めて詳しく解説します。
眼瞼下垂は自律神経の乱れを招く
眼瞼下垂とは、まぶたが下がって目を開きにくくなる疾患です。
発症すると視界が狭くなったり、目が疲れやすくなったりして、日常生活に影響を及ぼすおそれがあります。
また、眼瞼下垂は自律神経の乱れの原因のひとつと考えられています。
自律神経は、私たちの意志とは関係なく、自律的に働く神経です。
活動時に優位となる「交感神経」と、夜間やリラックス時に優位となる「副交感神経」が交互に働いてバランスを保ち、呼吸、体温、代謝、排泄、消化などの生命維持に欠かせない機能を調節しています。
しかし、眼瞼下垂になると、このバランスが崩れて心身にさまざまな症状をきたす場合があります。
ミュラー筋の収縮により交感神経が緊張する
まぶたの裏側には、まぶたを上げる主な筋肉である眼瞼挙筋と、それを補助するミュラー筋があります。
ミュラー筋は、自律神経の一つである交感神経に支配されている筋肉です。
眼瞼挙筋の機能が低下して眼瞼下垂になると、まぶたを上げようとしてミュラー筋が過剰に収縮します。
その結果、交感神経が緊張した状態が続き、自律神経のバランスが慢性的に崩れてしまうと考えられています。
自律神経のバランスが乱れると?自律神経失調症とは
交感神経と副交感神経のどちらかが優位となったり、両方の働きが弱まったりして自律神経のバランスが崩れると、心身にさまざまな不調をもたらします。
- 不眠
- 疲労感
- 頭痛
- 肩こり
- ほてり
- 食欲不振、吐き気
- 動悸(どうき)
- 息切れ
- 冷え
- 胃痛
- 下痢、下痢
- 耳鳴り
- 頻尿、残尿感
- 気分の落ち込み
- イライラ
- 焦り
- 不安感
- 焦燥感
- 興味関心の低下
自律神経が乱れたときに引き起こされる、上記の症状を統合して「自律神経失調症」と呼びます。
自律神経失調症は正式な病名ではなく、あくまで交感神経と副交感神経のバランスが崩れている「状態」です。
頭痛や動悸といった身体的な症状のほか、イライラや不安などの精神的な症状が見られる場合もあります。
自律神経の乱れを放置していると、血圧が上がり、生活習慣病の一つである高血圧になるリスクが高まるため注意が必要です。
血圧が慢性的に高い状態は、動脈硬化を引き起こし、脳梗塞や心筋梗塞、がんなどの重篤な疾患を招きかねません。
自律神経失調症の主な原因
先述したとおり、自律神経失調症は交感神経と副交感神経のバランスが崩れるために生じますが、その原因は多岐にわたります。
眼瞼下垂だけではなく、ストレスや生活習慣、環境の変化など、さまざまな要因がからみあって生じます。
- 過度のストレス
- 生活リズムの乱れ
- 体質(低血圧や虚弱体質など)
- 性格(ストレスに弱い)
- 環境の変化(気温の変化、職場の異動、引越しなど)
- 女性ホルモンの影響
自律神経失調症の症状はさまざまで、ほかの病気と区別しにくいため、自分で判断することは困難です。
気になる症状があらわれたら、早めに専門医に相談しましょう。
眼瞼下垂手術で自律神経症状を改善できる?
眼瞼下垂と自律神経系の関係については、現時点で十分に確立された科学的根拠はありません。
この分野の研究は限られており、両者の関連性やメカニズムについては、さらなる調査が必要です。
眼瞼下垂や自律神経系の症状でお悩みの方は、個々の状況に応じた診断と治療を受けるため、専門医に相談することをお勧めします。
直接的な関連性はない
眼瞼下垂手術は主に視野の改善と外見の回復を目的としており、直接的に自律神経症状を改善するものではありません。
間接的な影響の可能性としては、以下の2点が挙げられます。
視野の改善によるもの
手術により視野が広がると、日常生活のストレスが軽減され、結果として自律神経症状の一部が緩和される可能性があります。
また、ミュラー筋にかかっていた負担が軽減されて緊張がなくなるため、自律神経のバランスが整い、不調が改善される可能性があります。
外見の改善によるもの
見た目の改善が自信につながり、精神的ストレスの軽減に寄与する可能性があります。
科学的根拠について
眼瞼下垂手術と自律神経症状の改善の直接的な関連性を示す科学的証拠は、現時点では限られています。
また、手術方法によっては、ミュラー筋を傷つけてしまい、かえって自律神経症状を悪化させることが指摘されています。
そのため、医師とよく相談し、リスクも理解したうえで眼瞼下垂手術を検討する必要があります。
専門医の診断が必ず必要
自律神経症状を改善するには、ストレスや生活リズムなど、原因として考えられる要素を一つひとつ解消していかなければいけません。
眼瞼下垂以外の要因も考慮する必要があり、神経内科医などの専門医による総合的な診断と治療が重要です。
また、自律神経症状の改善には、生活習慣の改善、ストレス管理、適切な運動など、総合的なアプローチが効果的です。
眼瞼下垂手術を受けられるのはどこ?
眼瞼下垂手術は、眼科や形成外科、美容外科で受けられます。
診療科ごとのメリット・デメリット
眼瞼下垂手術を受けられる診療科それぞれにメリットとデメリットがあるため、事前に確認しておきましょう。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
眼科 | ・眼球の細かい検査が可能 ・専門医が多い ・顕微鏡を用いた繊細な治療を受けられる ・保険が適用される | ・審美的な治療には細かく対応できない ・外科的な手術をおこなっていない眼科がある |
形成外科 | ・外科的な手術の経験が豊富 ・機能性と審美性の両方に配慮してもらえるところもある ・保険が適用される | ・眼球の細かい診察・検査はできない ・まぶた専門の医師が少ない |
美容外科 | ・審美性に配慮した治療を受けられる ・眼瞼下垂以外の手術と併用でき、より理想の仕上がりになる | ・眼球の細かい診察・検査はできない ・保険は原則適用されないため、費用が高い |
受診する診療科については下記の記事も参考にしてください。
まずは眼科への受診を推奨
頭痛、肩こり、不眠などの自律神経症状でお悩みの場合、これらの症状が眼瞼下垂と関連している可能性を調べるには、重症度やほかの疾患の有無などを詳しく確認するために、まずは眼球の細かい検査が可能な眼科への受診を推奨します。
- 眼瞼下垂の診断と程度の評価
- 視野検査による影響の確認
- 眼精疲労など、目の問題との関連性チェック
眼科では、視力検査、眼瞼挙筋機能検査、視野検査などを行い、眼瞼下垂の重症度や他の疾患の有無などを詳しく確認することができます。
まとめ
まぶたの奥には、自律神経の一つである交感神経の刺激によって収縮するミュラー筋が存在します。
眼瞼下垂になり眼瞼挙筋の機能が低下すると、ミュラー筋が過剰に働くため、自律神経のバランスが乱れて心身にさまざまな影響を及ぼすおそれがあります。
ただし、自律神経の乱れは眼瞼下垂だけが原因ではありません。
眼瞼下垂の手術後に頭痛や肩こり、不眠などの症状が改善する可能性はありますが、眼瞼下垂手術は主に視野の改善と外見の回復を目的としており、直接的に自律神経症状を改善するものではありません。
眼瞼下垂が頭痛や肩こり、不眠などを引き起こしているのではないかと心配される方は、いちど専門医にご相談ください。
眼瞼下垂と自律神経失調症の関係についてよくある質問
- 眼瞼下垂は自律神経失調症の原因になりますか?
-
直接的な原因とは言い切れませんが、眼瞼下垂によるミュラー筋の過剰収縮が交感神経を慢性的に緊張させ、自律神経のバランスを崩す可能性があります。また、視野狭窄によるストレスも自律神経に影響を与える可能性があります。
- 眼瞼下垂手術で自律神経症状は改善しますか?
-
眼瞼下垂を改善することで、ミュラー筋の過剰収縮が軽減され、交感神経の緊張状態が改善する可能性があります。また、視野改善によるストレス軽減で症状が和らぐ可能性もあります。ただし、効果には個人差があります。
また、眼瞼下垂手術は主に視野の改善と外見の回復を目的としており、直接的に自律神経症状を改善するものではありません。
- 眼瞼下垂と頭痛には関連がありますか?
-
眼瞼下垂による目の疲労が頭痛を引き起こす可能性はありますが、必ずしも直接的な関連があるわけではありません。
- 眼瞼下垂と自律神経失調症の両方の症状がある場合、どの診療科を受診すべきですか?
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まずは眼科で眼瞼下垂の診断を受け、その後神経内科で自律神経失調症の評価を受けることをお勧めします。
- 眼瞼下垂と自律神経失調症の関連性について、最新の研究はありますか?
-
この分野の研究は継続的に行われていますが、現時点で直接的な関連性を示す決定的な証拠は限られています。
参考文献
MATHIAS, Christopher J. Autonomic diseases: clinical features and laboratory evaluation. Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry, 2003, 74.suppl 3: iii31-iii41.
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