疾患|ひとみ眼科

突然見えなくなったのは、網膜剥離なのかもしれません

Dr.髙田
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高田 尚忠
高田 尚忠(たかだ なおただ)
高田眼科 院長 |ひとみ眼科 / フラミンゴ美容クリニック 眼瞼手術担当医師
所属学会:日本眼科学会、日本形成外科学会、日本眼形成再建外科学会
岡山大学医学部卒業後、横浜形成外科の二木 裕先生に師事。 郡山医療生活協同組合 桑野協立病院などの様々な医療機関を勤務し、 現在は高田眼科の院長を務める。 眼科医と形成外科医の知識と、これまでの豊富な眼瞼手術の術者としての経験をもとに、2022年においては年間2,000件超える眼瞼下垂症手術を手がけております。 2022年3月より、名古屋市内の伏見駅近くのフラミンゴ眼瞼・美容クリニックを開院。

網膜のはたらき ~カメラのフィルム~

網膜とは、眼球の一番内側を構成する膜です。眼球は人の体の中でみれば小さい臓器ですが、複雑な構造をしており、他の臓器では代替できないはたらきをもっています。眼球の仕組みとはたらきは、カメラによく似ています。

  • 角膜:対物レンズ
  • 虹彩:しぼり
  • 毛様体:ピント
  • 水晶体:ピント調整用レンズ
  • 硝子体:暗箱
  • 網膜:フィルム
  • 強膜:ボディ

このうち網膜は、写真を焼き付けるフィルムのようなはたらきがあります。近年はデジタルカメラが主流ですが、撮影した画像を映して記録する機能が、網膜に相当します。

網膜は、神経細胞からつくられる「神経層」と、色素細胞からつくられる「色素上皮層」に分けられます。このうち、光を感じ取るはたらきを持つのが「神経層」で、網膜の一番内側、硝子体と接している部分です。角膜、水晶体、硝子体を通り抜けた光は、神経層の神経細胞に届き、電気信号に置き換えられます。これらの細胞が一つの束となって視神経を形成し、視神経を通じて電気信号を脳へ届けます。

脳では、視神経からの電気信号により、「何がどのように見えているか」を判断します。

網膜剥離とは 

網膜の神経層と色素上皮層との間には「接着させるための仕組み」がありません。

網膜剥離は、この神経層と色素上皮層との間がはがれて(剥離して)しまった状態です。神経層は色素上皮層から「視る」ために必要な成分を受け取りますが、隙間ができると視神経が光を感じ取れなくなってしまい、この部分が見えなくなってしまうのが、網膜剥離です。

網膜剥離の症状 

網膜剥離を起こすと、次のような症状がみられるようになります。

・飛蚊症(ひぶんしょう)

文字とおり、「(目の前を)蚊が飛んでいるように見える」という症状です。ごみが飛んでいる、と表現する人もいます。視界の中に不透明で小さな物質(にごり)が見えており、目を動かしたり視線をずらしたりすると、その小さな物質がゆれながら動いて見え、視界の中から消えません。まばたきをしても、目をこすっても、めがねをはずしても、やはり視界の中には「何かが飛んでいる」ように見えます。

飛蚊症そのものは網膜剥離以外でもみられる症状ですが、急に飛んでいる物体が大きくなったり数が増えたような場合は、すぐに眼科を受診する必要があります。

・視野欠損

黒っぽい影が視界の一部を覆ってしまい、視界の一部が見えにくくなったりする症状です。視野欠損は網膜剥離だけではなく、緑内障などでも起こりますが、網膜剥離による視野欠損は、その前の兆候として飛蚊症がみられることが多いです。

・ゆがみ

また、網膜の中心は黄斑部といい、視神経が集まっているため、この部分の網膜のはたらきで視力が決まるという、大事な部分です。黄斑部やその周辺で網膜剥離が起こると、視界全体がゆがんで見えたり、視力が急に低下したりします。

・光視症

光っているものを見ていないのに、目の中に「光が走る」ように見える症状で、光が見える時間は一瞬から数秒とさまざまです。網膜と硝子体が癒着している部分があると、網膜が硝子体に引っ張られてしまい、網膜が刺激されて「光が走る」ように見えてしまうのです。

光視症そのものが必ず網膜剥離によって起きる症状という訳ではありませんが、光視症がある場合、網膜に裂け目(裂孔)や網膜剥離が生じていることがあります。

網膜剥離の原因

網膜剥離は、若い人から中高年までさまざまな年代で起こる病気ですが、年代によってその原因や進行具合に少し違いがあります。

・若い人

強度の近視や、ボールやこぶしの衝突などの外傷が原因で、網膜剥離となるケースが多くなります。

強度の近視の人は、眼球の形が少し横に長い(奥行きが深い)形をしていますので、網膜が薄くなり、変性を起こしてしまうことがあります。すると、網膜に小さな丸い穴(円孔)ができ、そこから網膜の剥離が進んでいきます。

また、ボールやこぶしなどが衝突すると衝撃で眼球が変形し、そこから網膜に裂け目ができて網膜剥離が起こります。

さらに、アトピー性皮膚炎がある人は、かゆみで目の周囲をこすることが多いために、網膜剥離を起こしやすいといわれています。しかし、網膜の周辺から剥離してゆっくり進行することが多く、なかなか症状に気づきません。また、アトピー性白内障を合併している場合、光視症や視界のゆがみなどがあっても、網膜剥離によるものであると気づくのが遅れることがあります。

網膜剥離の進行は急激に進むものもあれば、比較的遅く、飛蚊症から徐々に視野欠損が起こったり、ものがゆがんで見えたり、視力が低下するものもあります。

・中高年

眼球内部の大部分の容積を占める硝子体は、加齢とともに収縮(萎縮)し、網膜と硝子体の間にすき間ができてきます。しかし、網膜と硝子体の癒着が強い部分では、網膜が硝子体に引っ張られてしまい、網膜がはがれて裂け目ができます。

中高年の人の網膜剥離は、弁状の裂孔(馬蹄のような形の穴があきます)であることが多いのが特徴です。

網膜剥離の進行は早いものが多く、最初は光視症や飛蚊症で気づきます。悪化すると、視野欠損や視界のゆがみ、視力低下へと急に進行することがあります。

網膜剥離の検査と診断

網膜剥離が疑われる場合、瞳孔から光を入れて眼底鏡(がんていきょう)で網膜の表面を観察する、眼底検査を行います。網膜は眼球を広く覆っていますので、内側からすみずみまで観察するために、散瞳薬という目薬を使って瞳孔を広げる必要があります。

散瞳薬による効果は人にもよりますが、しっかりと瞳孔が広がるまでに20~30分かかり、散瞳薬の効果がなくなるまでは数時間かかります。その間、ものがはっきり見えにくくなったり、距離感がつかめなくなったりしますので、検査後は4時間程度車の運転ができません。

網膜剥離の治療

網膜の裂け目(裂孔)のみであれば、その周囲を凝固させる「網膜レーザー光凝固」を行います。剥離している網膜の周囲に瘢痕癒着をつくることで、進行を予防する治療法です。

しかし、網膜剥離が広がってしまった部分は、手術が必要となります。網膜剥離の手術には、網膜剥離が起こっている状況(裂孔の大きさ、数、位置、進行度など)や硝子体に出血があるかどうか、ほかの眼の病気があるかなどによって、目の外側から手術を行う強膜バックル術(強膜内陥術)と、目の内側から手術を行う硝子体手術のいずれかを行います。

<強膜バックル術(強膜内陥術)>  

眼球の外側(強膜の外側)からシリコン製のスポンジなどを使い、眼球を内側に凹ませるようにする手術です。網膜の神経層と色素上皮層を密着させ、裂け目(裂孔)の周囲を凝固させます。

欠点としては手術後に眼球運動障害が生じることがあります。

<硝子体手術>

網膜剥離の進行度や位置によっては、原因となっている硝子体による「ひっぱり」の部分を切除する、硝子体手術があります。次のような場合に有用とされています。

  • 硝子体出血がある
  • 裂け目(裂孔)の位置が眼球の奥深くにある
  • 網膜剥離が進行し、増殖膜ができている(増殖性硝子体網膜症)

手術時に眼球内にガスやシリコンオイルを注入します。ガスの場合、眼内のガスが吸収されるまで、術後1週間程度はうつ伏せ姿勢が必要になります。
シリコンオイルの場合、術後しばらくして網膜剥離部位が治ったところでシリコンオイルを除去するための手術が必要となります。

強膜バックル術・硝子体手術はそれぞれに利点・欠点があります。
どちらの手術方法を選択するかは、網膜剥離の原因や状態(裂孔の位置、数、硝子体との癒着、網膜剥離の大きさ等)によって最適な方法が判断されることになります。

網膜剥離の予防に向けて

・見え方の変化は気付きにくい

網膜剥離の症状はいろいろありますが、目は2つありますから、片方に小さな変化が起きても、もう片方の目がその変化を補ってしまうため、症状に気づきにくいことがあります。ときどき、片方の目を隠してみても視界に変化が無いかを、確認してみましょう。

・早めの受診、定期的な受診を

網膜剥離は、剥離が起こる原因や剥離している場所によっても、自覚症状に気づきにくいことがあります。

特に若い人の場合、転倒やボールが当たるなどの強い力が目に加わったときには、眼科を受診して目の奥まで検査し、問題が無いことを確認しておきましょう。早めに受診して治療を始められると、網膜剥離の進行を予防することができます。また、強度の近視や、親族に網膜剥離になった人がいる場合、アトピー性皮膚炎がある人などは、定期的な眼科受診をお勧めします。

中高年の場合、白内障があるとなかなか網膜剥離の症状に気づかないこともあります。少しでも気になる症状がみられたら、かかりつけの眼科医に相談してください。

愛知県愛西市のひとみ眼科
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