眼瞼下垂手術が美容整形と思われるのではと心配な方へ

眼瞼下垂は単なる美容の問題ではなく、日常生活に支障をきたす可能性のある医学的症状です。

しかし、その治療法である眼瞼下垂手術を「整形手術」と誤解される懸念から、必要な治療を躊躇する方も少なくありません。

本記事では、眼瞼下垂手術が整形と思われるのでは、と心配されている方向けに、眼瞼下垂手術の医学的重要性と整形との違いや、周囲の理解を得るためのポイントなどを解説していきます。

高田　尚忠（たかだ　なおただ）

高田眼科　院長　｜ひとみ眼科 / フラミンゴ美容クリニック　眼瞼手術担当医師

所属学会：日本眼科学会、日本形成外科学会、日本眼形成再建外科学会

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岡山大学医学部卒業後、横浜形成外科の二木　裕先生に師事。 郡山医療生活協同組合 桑野協立病院などの様々な医療機関を勤務し、 現在は高田眼科の院長を務める。 眼科医と形成外科医の知識と、これまでの豊富な眼瞼手術の術者としての経験をもとに、2022年においては年間2,000件超える眼瞼下垂症手術を手がけております。 2022年3月より、名古屋市内の伏見駅近くのフラミンゴ眼瞼・美容クリニックを開院。

眼瞼下垂手術は機能面を回復させるために行う

眼瞼下垂とは、加齢や生活習慣、先天性の要因などにより、まぶたが垂れ下がる病気です。

視野が狭くなってものが見えづらくなるほか、眠そうな印象に見えたり、頭痛や肩こりなどの身体的なトラブルを引き起こしたりします。

眼瞼下垂手術は、こうした眼瞼下垂の症状を改善するための医療行為であり、美容整形ではありません。

基本的に審美性は考慮されず、まぶたの機能面の回復のみを目的としています。

高田 尚忠

保険診療の眼瞼下垂症手術は、結果的に二重瞼になることが多いのですが、二重瞼を狙って手術をしているわけではありませんので、二重になりにくい人は二重にならないと言えます。

逆に、二重切開手術は、二重瞼にならない方も二重瞼にする手術だと言えます。

医学的必要性

眼瞼下垂は単なる美容上の問題ではありません。治療されない場合、以下のような深刻な影響を及ぼす可能性があります。

まぶたが大きく垂れ下がり視野が狭くなると、家事や仕事をするのが困難となったり、転倒や交通事故のリスクが高まったりと、さまざまな悪影響を及ぼすおそれがあります。

症状に合わせた治療により、身体的・精神的な問題の解消につながり、生活の質が大きく向上します。

このように、眼瞼下垂手術は多くの場合、医学的に必要な処置であり、単なる美容整形とは異なります。

眼瞼下垂手術に関するよくある誤解

誤解1：「眼瞼下垂手術は贅沢な整形手術である」

眼瞼下垂手術は多くの場合、医学的に必要な処置です。

視機能の改善や日常生活の質の向上が主な目的であり、単なる美容目的の手術とは異なります。

誤解2：「手術後は不自然な目つきになる」

眼瞼下垂手術は、自然な目の開きを取り戻すことが目的です。熟練した医師による手術では、違和感のない自然な仕上がりが期待できます。

誤解3：「年齢とともに起こる眼瞼下垂は治療の必要がない」

加齢による眼瞼下垂でも、視野や日常生活に支障がある場合は治療が必要です。年齢に関係なく、症状の程度に応じて治療を検討すべきです。

眼瞼下垂手術と二重整形の違い

眼瞼下垂手術と二重整形は、どちらもまぶたに対して行われる施術ですが、手術方法や対応している診療科などが異なります。

手術方法の違い

眼瞼下垂手術は、まぶたが下がって開きにくい状態である眼瞼下垂を改善させるための手術です。

まぶたを切開したあと、ゆるんだ眼瞼挙筋を短くして瞼板に固定します。

大きく分けて、皮膚の切開を伴う切開式と、糸を用いて目の開きを改善する埋没式の手術があり、もっとも一般的な方法は切開式の「眼瞼挙筋前転法^※1」です。

一方、二重整形は、理想の二重を形成するために行われる美容整形の施術です。

一重や奥二重のまぶたを二重にしたり、より幅広の大きな目元にしたりするためにおこなわれ、眼瞼下垂の改善は期待できません。

二重整形にもメスを用いる切開法と、まぶたを切らずに二重ラインを作る埋没法があります。

診療科の違い

眼瞼下垂手術は「眼科」「形成外科」「美容外科」で受けられます。

ただし、眼瞼下垂かどうかの鑑別を正確に行うためにも、まずは繊細な検査ができる眼科で診察を受けるのがおすすめです。

一方、審美目的の施術である二重整形は、基本的に美容外科でしか受けられません。

保険が適用されず自由診療となりますが、「二重の幅を変えたい」「ぱっちりとした大きな目にしたい」など、見た目に関する希望に応えてもらえるメリットがあります。

目的の違い

眼瞼下垂手術の主な目的は以下の通りです。

美容整形（二重まぶた手術など）は主に美的改善を目的としています。一方、眼瞼下垂手術は主に視機能の改善や日常生活の質の向上が目的です。

眼瞼下垂手術は保険が適用される

眼瞼下垂手術と二重整形では料金も大きく変わってきます。

眼瞼下垂手術は病気の治療を目的とした施術であり、眼瞼下垂と医師に診断されれば、保険が適用されます。

軽度や美容目的の治療は保険適用外

保険が適用されるのは、生活に支障が出るほどの中等度〜重度の眼瞼下垂と診断された場合です。

まぶたが瞳孔（黒目）にほとんど被さっておらず、視野に影響がない軽度の場合は、保険適用の対象にはならない可能性があります。

また、眼瞼下垂の改善だけではなく、見た目の仕上がりにもこだわりたい場合も、保険適用での治療は原則認められません。

さらに、まぶたの切開を伴わない埋没式の眼瞼下垂手術（切らない眼瞼下垂）も保険適用外です。

眼瞼下垂手術で周囲の理解を得るためのポイント

先述したとおり、眼瞼下垂手術は二重整形のように見た目の美しさを求める施術ではなく、視野や身体的な不調を改善するために行う医療行為です。

しかし、なかには眼瞼下垂手術を二重整形と誤解している人もいることから、家族や友人からの理解を得られず悩んでいる方も少なくありません。

ここでは、眼瞼下垂手術で周囲の理解を得るためのポイントを解説します。

眼瞼下垂は病気であることを説明する

眼瞼下垂は、まぶたが下がって視野を狭くする病気です。

改善するためには二重整形ではなく、眼瞼下垂手術が必要である旨を伝えましょう。

日常生活への支障を伝える

「ものが見えづらい」「頭痛や肩こりがひどい」など、眼瞼下垂によって日々の生活にどのような影響が出ているのかを伝えましょう。

家族や周囲の人にも病気の苦しさを理解してもらうことで、手術に対する理解と協力を得られる可能性があります。

見た目の変化は副次的な効果であると伝える

眼瞼下垂手術によって二重になるのは、あくまでも結果であり、本来の目的ではありません。

外見を整えるためではなく、まぶたの機能面を改善するための手術である点を説明しましょう。

不自然な過矯正には注意

眼瞼下垂症の手術を受ける際、最も重要な目標の一つは自然な見た目を保つことです。

過度の矯正は、不自然な外観をもたらし、かえって整形手術を受けたという印象を与えてしまう可能性があります。

眼瞼下垂の過矯正とは

過矯正とは、眼瞼下垂症の手術において、必要以上に上まぶたを持ち上げてしまう状態を指します。

目を開いたときに、驚いているような表情になるため「びっくり目」とも呼ばれます。

これは皮膚と眼輪筋の過剰切除や、まぶたの測定の誤り、手術中の調整ミスなどによって、まぶたを持ち上げる眼瞼挙筋の短縮量が多くなりすぎるために起こります。

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また、目を開くときに眼瞼挙筋をサポートするミュラー筋の操作により過矯正になるおそれもあります。

不自然な過矯正を防ぐためには、診察やカウンセリングで術後の仕上がりのイメージを十分に確認することが重要です。

時間の経過によって改善する可能性も

眼瞼下垂手術を受けた直後は、一時的に目の開きが大きくなって過矯正に見える場合があります。

しかし、軽度の過矯正であれば、術後3〜6か月で眼瞼挙筋が徐々にゆるみ、自然な開き具合に改善されるケースも少なくありません。

また、前頭筋の過剰な働きが原因で過矯正になっている場合は、前頭筋にボトックスを注射することで改善が可能です。

それでも改善しなければ、癒着部分をはがし、眼瞼挙筋を適切な短縮量に調整して瞼板に再固定する修正手術を検討します。

ただし、過矯正の修正手術に対応しているクリニックは限られているほか、難易度が高く失敗のリスクもあるため、医師とよく相談したうえで手術を受けてください。

まとめ

眼瞼下垂手術は目の開きを良くするための医療行為であり、魅力的な目元をつくるための二重整形とは目的が大きく異なります。

しかし、二重が形成されるため、家族や職場の人などに整形と誤解されて、眼瞼下垂手術への理解を得られない方もいるかもしれません。

周囲の理解を得るためには、眼瞼下垂が日常生活に影響を及ぼす病気であること、医学的に必要な治療であることを伝える必要があります。

また、手術の目的が機能改善であることを明確にし、専門医の診断や意見を共有する、保険適用の可能性について言及するなども、理解を得るためのポイントです。

眼瞼下垂手術と整形の違いについてよくある質問

参考文献

FINSTERER, Josef. Ptosis: causes, presentation, and management. Aesthetic plastic surgery, 2003, 27.3: 193-204.

ALLARD, Felicia D.; DURAIRAJ, Vikram D. Current techniques in surgical correction of congenital ptosis. Middle East African Journal of Ophthalmology, 2010, 17.2: 129-133.

SOOHOO, Jeffrey R., et al. Congenital ptosis. Survey of ophthalmology, 2014, 59.5: 483-492.