眼瞼下垂は目薬で治る?市販薬・緑内障点眼薬を使用するリスク
眼瞼下垂とは、まぶたを上げる力が弱くなり、目を十分に開けられなくなる病気です。
視界が狭くなるほか、目の疲れやかすみなどの症状があらわれる場合もあり、手軽に目薬で改善できないか疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
この記事では、眼瞼下垂は目薬で治るのかどうか、市販薬・緑内障点眼薬を使用するリスクについて解説しました。
眼瞼下垂は目薬で改善できる?
結論からお話すると、眼瞼下垂は目薬では改善できません。
種類にもよりますが、目薬をさすとうるおいがプラスされ、一時的に視界がはっきりとする場合があるため、眼瞼下垂による目の開きにくさを改善できると考える方もいるでしょう。
しかし、眼瞼下垂は、まぶたを上げる眼瞼挙筋と瞼板をつないでいる「挙筋腱膜」が伸びたり緩んだりするために起こります。
そのため、目薬をさすだけでは根本的な改善にはつながらず、治療するには手術が必要です。
眼科においても、眼瞼下垂の改善を目的として目薬が処方されるケースは基本的にありません。
なお、一時的にまぶたが上がる「ネオシネジン」と呼ばれる点眼薬もありますが、これは眼瞼下垂の改善ではなく、眼瞼下垂症を診断するために使用されるものです。
市販の目薬を眼瞼下垂改善のために使用するリスク
目薬は、目の乾きや不快感を一時的に和らげるのに効果的です。
しかし、先述のとおり、目薬を使用しても眼瞼下垂は改善できません。
それどころか、市販の目薬を必要以上に使用すると眼瞼下垂を悪化させたり、目の不調を引き起こしたりするおそれがあるため注意が必要です。
角膜にダメージを与える
市販の目薬にはさまざまなタイプがありますが、防腐剤や血管収縮剤が含まれている目薬は目に悪影響を及ぼすため、避けるのが賢明です。
防腐剤 | ベンザルコニウム、ホウ酸、クロロブタノールなど |
血管収縮剤 | 塩酸ナファゾリン、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸フェニレフリンなど |
防腐剤は、目薬を汚染させず、長期間保存するのに有効である一方、過剰に使用すると目の保護機能を低下させて角膜を傷つけてしまうおそれがあります。
角膜に問題がない方であればトラブルが起こる心配はほとんどありませんが、眼瞼下垂の方は防腐剤入りの目薬は控えたほうがよいでしょう。
また、血管収縮剤も市販の目薬の多くに使用されており、結膜の充血を抑える効果があります。
眼瞼下垂になると目が疲れやすくなり、充血する場合があるため、血管収縮剤が含まれた目薬を使用すれば、一時的には症状が改善する可能性があります。
しかし、血管収縮剤を長期にわたり使い続けると、血行が悪くなり、逆に充血を悪化させてしまいかねません。
涙の3層構造が崩れる
涙(涙液)は「油層」「水層」「ムチン層」の3層構造で構成され、それぞれがバランス良く作用して目を保護しています。
油層 | 外側にある層。水分の蒸発を防ぐ役割がある |
水層 | 中間にある層。角膜や結膜に栄養を届け、細菌への感染を予防する |
ムチン層 | 目にもっとも近い層。涙が流れ落ちないよう安定させる |
目薬を過剰に使用すると、涙の中にある抗菌成分や油分が流れ出てしまい、目の表面を覆っている3層構造のバランスが崩れてしまうおそれがあります。
その結果、目が乾いて傷つきやすくなり、眼瞼下垂を悪化させたり、感染病にかかったりするリスクが高まるため注意が必要です。
目薬は、1回につき1滴、1日4〜5回までにとどめることが推奨されています。
市販の目薬を使用する場合は、できるだけ涙に近い成分が含まれているものを選び、正しい使用方法を守りましょう。
「まつ毛が伸びる」緑内障治療の点眼薬は眼瞼下垂の原因に
緑内障治療に使われる点眼薬に「プロスタグランジン関連薬(PG製剤)」があります。
緑内障とは、主に眼圧の上昇によって視神経が障害される状態を指します。視野が狭くなるほか、放置すると失明に至るケースもある危険な病気です。
プロスタグランジン関連薬には眼圧を下げて視神経への負担を減らす効果があり、緑内障の治療に使われています。
また、休止期のまつ毛を成長期へと促したり、まつ毛のメラニンを増やして濃くしたりする効果があるのも特徴です。
そのため「まつ毛が伸びる」薬として販売されているプロスタグランジン関連薬もあります。
- キサラタン
- ルミガン
- タプロス
- トラバタンズ
- レスキュラ など
眼瞼下垂への影響
プロスタグランジン関連薬の使用は、まぶた周囲のトラブルであるプロスタグランジン関連眼窩周囲症(PAP)を引き起こすおそれがあります。
眼瞼下垂はPAPの代表的な症状であり、緑内障患者の約1〜5%に発症するといわれています。
- 眼瞼下垂
- 上眼瞼溝深化
- 下三白眼
- 皮膚や脂肪の萎縮
- 眼球陥凹
- 皮膚の色素沈着
- まつ毛の多毛化、伸長
- 目が充血する
なぜ緑内障治療の点眼薬が眼瞼下垂を招くのか、明確な理由はわかっていませんが、眼瞼挙筋の機能低下と上眼瞼溝深化(じょうがんけんこうしんか)※1 が主な原因と考えられています。
※1 上眼瞼溝深化(Deepening of Upper Eyelid Sulcus;DUES):上瞼がくぼんだ状態になること
PAPによる眼瞼下垂は、両眼に発症しやすく、徐々に進行していくのが特徴です。
PAPによる眼瞼下垂の治療・予防方法
PAPによる眼瞼下垂は、軽度であれば原因となっているプロスタグランジン関連薬の使用量を減らしたり、種類を変えたりすると改善する可能性があります。
また、眼瞼保護剤の点眼薬の使用も有効です。
眼瞼下垂が中等度〜重度の場合は改善が難しいケースが多く、手術が推奨されます。
眼瞼下垂を進行させないためにも、緑内障の点眼薬を使用している方はとくに注意しましょう。
「目を開きにくい」「まぶたが重く感じる」などの症状がみられたら、早めに眼科医に相談してください。
眼瞼下垂手術後のドライアイには点眼を行います
眼瞼下垂手術を受けたあとは、ドライアイが起こりやすくなります。
これは、手術によって下垂していたまぶたが引き上がり、空気に触れる眼球の面積が広くなるからと考えられます。
また、眼瞼下垂手術後の副作用の一つとして、まぶたを閉じにくくなる症状が挙げられます。
寝ている間にもまぶたを完全に閉じきれず、少し開いた状態になるために、目が乾きやすくなるケースも少なくありません。
ドライアイの症状は、術後1〜2か月ほどで落ち着いてくるケースがほとんどです。
しかし、ドライアイを放置していると、視力低下や頭痛、肩こり、角膜の損傷などの不調を引き起こすおそれがあるため注意しなければいけません。
ほとんどのクリニックでは、眼瞼下垂手術後のドライアイ対策として点眼薬を処方しています。
点眼により、目の乾燥を防ぎ、不快感を軽減する効果が期待できます。
なお、市販の目薬は配合成分が異なるため、眼瞼下垂手術後は使用を控えたほうが安心です。
点眼以外にできる術後のドライアイ対策
点眼薬に頼りすぎず、生活習慣や家の中の環境を見直して目の乾燥を防ぐ工夫も大切です。
パソコンやスマホの使用を控える
パソコンやスマホなどのモニターを長時間見続けていると、まばたきの回数が減ってドライアイや眼精疲労につながります。
そのため、まばたきをする回数を意識して増やすほか、適度に休憩をとり画面から目を離す時間をつくりましょう。
また、パソコンは目線より下の位置に設置するとまばたきがしやすくなります。
加湿器を取り入れる
ドライアイを予防するためには室内の乾燥対策も欠かせません。
エアコンや暖房機器などの使用により部屋が乾燥していると、涙が蒸発しやすくなります。
とくに乾燥しやすい時期は加湿器を活用して、湿度を50~60%に保ちましょう。
目をあたためる
まぶたには「マイホーム腺」と呼ばれる外分泌腺があり、油分を産出して涙の蒸発を防いでいます。
マイホーム腺が詰まると、涙が蒸発しやすくなってドライアイの症状を助長してしまします。
そこで、ホットタオルや市販のホットアイマスクなどを利用してまぶたを温めましょう。
マイホーム腺に詰まった油が溶け、機能が回復してドライアイ予防につながります。
まとめ
本記事では、目薬の眼瞼下垂に対する効果や、市販薬・緑内障点眼薬を使用するリスクについて解説しました。
目薬には目にうるおいを与えて乾燥を防いだり、充血を和らげたりする効果がありますが、眼瞼下垂の改善にはつながりません。
間違った方法で目薬を使用すると、かえって眼瞼下垂を進行させてしまうおそれがあるため注意が必要です。
また、まつ毛が伸びるといわれている緑内障治療の点眼薬には、眼瞼下垂の原因となるプロスタグランジン関連眼窩周囲症(PAP)を引き起こすリスクがあります。
目の開きにくさや視界の狭さなど、眼瞼下垂の症状があらわれたら、自己判断での目薬の使用は避け、まずは眼科医にご相談ください。
参考文献
FINSTERER, Josef. Ptosis: causes, presentation, and management. Aesthetic plastic surgery, 2003, 27.3: 193-204.
WIJEMANNE, Subhashie; VIJAYAKUMAR, Dhanya; JANKOVIC, Joseph. Apraclonidine in the treatment of ptosis. Journal of the Neurological Sciences, 2017, 376: 129-132.
SWEENEY, Adam R., et al. Topical prostaglandin analog use is associated with increased failure rate of ptosis repair. Ophthalmology, 2020, 127.2: 276-278.
ZOUMALAN, Christopher I.; LISMAN, Richard D. Evaluation and management of unilateral ptosis and avoiding contralateral ptosis. Aesthetic surgery journal, 2010, 30.3: 320-328.