眼瞼下垂の基礎知識

筋強直性ジストロフィーによる眼瞼下垂|目の症状と、まぶたの手術・麻酔の注意点を眼形成外科医が解説

髙田 尚忠

まぶたが下がってきた。握った手がすぐに開かない。40歳前後で白内障と言われた。こうした症状が重なるときに疑われるのが「筋強直性ジストロフィー」です。大人の筋ジストロフィーで最も多い病気で、まぶたの手術には、ほかの眼瞼下垂にはない注意点があります。

  • 眼瞼下垂は、この病気の2人に1人にみられる:スペインとブラジルの研究で、どちらも患者さんの約半数にまぶたの下がりがありました。
  • 手術でまぶたは上げられるが、控えめに上げる:目を閉じる力も弱いため、上げすぎると角膜が乾いて傷つきます。吊り上げ術のあとに角膜の傷が出た目は42%でした。
  • 麻酔・鎮静薬・痛み止めに注意が必要:呼吸が弱くなりやすい病気です。診断がついている方も、疑いがある方も、手術の前に必ずお伝えください。

執筆:髙田 尚忠(高田眼科 院長/眼科医・眼形成外科) 最終更新:2026年10月

筋強直性ジストロフィーとは

筋肉の力が少しずつ落ちる「筋力低下」と、力を入れたあとに筋肉がゆるみにくい「筋強直」を特徴とする病気です。DMPKという遺伝子の中で、CTGという3つの塩基のくり返しが異常に長くなることで起こります(1型)1。

筋肉だけの病気ではありません。心臓、呼吸、目、内分泌、脳など、全身に症状が出ます1。

日本の患者さんの状況

全国登録の大人の患者さん809人(年齢の中央値44歳)にみられた合併症
心電図の異常32%
糖代謝の異常21%
人工呼吸器16%

日本の筋ジストロフィー患者登録(Remudy)のデータ。先天性の方は含みません。「心電図の異常」は、心臓の電気の伝わり方が遅く、突然死の危険があるとされる基準に当てはまった人の割合です2

発症する時期で、症状が大きく違う

このページ大人になってから気づくタイプ

筋力の低下、手の開きにくさ、若いうちの白内障、まぶたの下がりなどで気づかれます。症状が軽く、高齢になるまで気づかれない方もいます1。

生まれたときから先天性のタイプ

最も重いタイプで、ほとんどが母親から受け継がれます1。先天性は1型だけにみられます3。

先天性筋強直性ジストロフィー

目とまぶたに出る症状

まぶたを上げる筋肉(眼瞼挙筋)そのものが弱ることで、まぶたが下がります4。加齢やコンタクトレンズで腱(すじ)がゆるむ「腱膜性眼瞼下垂」とは仕組みが違い、筋肉の病気による眼瞼下垂(筋原性眼瞼下垂)に分類されます5。

筋強直性ジストロフィー1型で、眼瞼下垂があった人の割合
スペイン 42人50%
ブラジル 42人55%

スペインの研究は平均47歳で、はっきりした眼瞼下垂を数えています。まぶたの下がりの程度は、CTGのくり返しの長さと関係していました6。ブラジルの研究は平均41歳で、眼瞼下垂は運動機能の低下が強い人に多くみられました7

白内障は、40歳前後で始まる

30%イタリアの243人(18〜70歳)のうち、白内障があった人1
40歳ごろ白内障が始まった年齢の平均(男性40歳、女性41歳)1

一般の白内障よりずっと早く始まるため、白内障がきっかけでこの病気が見つかることがあります1。スペインの42人の研究でも、36%がすでに白内障の手術を受けていました6。

そのほかの目の症状

手術で最も重要目を閉じる力が弱い

筋肉の病気では、目を閉じる筋肉(眼輪筋)や、目を閉じたときに眼球が上を向く反射(ベル現象)も弱くなります。まばたきが浅くなり、目が乾きやすくなります5。

日本の研究目の動きが遅くなる

日本の患者さん29人の研究では、視線をすばやく移す動きが、同年代の人より遅くなっていました。CTGのくり返しが長い人ほど遅い傾向でした8。

検査で分かる眼圧が低い

スペインの研究では、眼圧の平均は10.5mmHgでした6。ブラジルの研究でも、41人中40人で眼圧が低くなっていました7。

まぶたの手術で注意すること

手術でまぶたを上げることはできます。ただし、角膜を守ることを最優先にします。

まぶたを上げるほど、目は閉じにくくなります。目を閉じる力が弱いこの病気では、上げすぎると角膜が乾いて傷つきます5。

42% 前頭筋吊り上げ術のあとに、角膜の表面に細かい傷が出た目の割合 オランダの研究。筋肉や神経の病気による眼瞼下垂の大人69人の中で、筋強直性ジストロフィーが最も高い割合でした。全体では26%、角膜潰瘍のような重い合併症は3%でした9

手術方法の選び方

上げ幅視界を確保できる高さに、控えめに

筋肉の病気の手術では、視界のじゃまにならない高さまで意図的に控えめに上げる方針が、複数の研究でとられています5。

力が残っている眼瞼挙筋前転法・挙筋短縮

まぶたを上げる力が残っていれば、挙筋の手術を行います5。イギリスの研究では、筋強直性ジストロフィーの7人を含む29人に挙筋の手術や吊り上げ術が行われ、まぶたの開きが広がりました10。

眼瞼挙筋前転法/眼瞼挙筋短縮術
力がほとんどない前頭筋吊り上げ術

まぶたと額の筋肉をつなぎ、額の力でまぶたを上げる方法です。挙筋の力が弱い場合に、一般に選ばれます5。

前頭筋吊り上げ術(当院で行っていない理由)
手術以外テープで支える

角膜の合併症の危険が高く手術を見送った方で、二重まぶた用のテープでまぶたを支え、視界と生活動作が改善した報告があります4。

眼瞼下垂のテープ

麻酔・鎮静薬・痛み止めにも注意

筋強直性ジストロフィーでは、鎮静薬や麻酔薬をきっかけに、呼吸が弱くなることがあります11。麻酔の危険は、1型で高いとされています3。

韓国の研究では、全身麻酔や、体の一部に効かせる麻酔(区域麻酔)で手術を受けた42人のうち11人に、手術後の合併症がありました。7人は呼吸の合併症でした。合併症は、筋力低下が進んでいる人と、手術後に医療用麻薬の痛み止めを使った人に多くみられました12。

この研究に、局所麻酔だけの手術は含まれていません。眼瞼下垂の手術は局所麻酔で行いますが、鎮静薬や痛み止めの選び方に関わるため、病気のことは必ずお伝えください。

診断がついていない方は、特に注意が必要です

日本でも、病気に気づかないまま集中治療で鎮静薬を使い、呼吸の回復が大きく遅れてから診断された20歳の方が報告されています11。手が開きにくい、若いうちに白内障になった、家族に同じ症状の人がいる。こうした方は、手術の前に必ずお伝えください。

院長コメント:全身の状態を確認してから、手術を計画します

筋強直性ジストロフィーの方は、手術の前に、まぶたを上げる力、目を閉じる力、目の乾きを確認します。心臓や呼吸の状態は、かかりつけの脳神経内科と連携して確認します。手術は眼瞼挙筋前転法を基本とし、角膜を守れる高さに調整します。

よくある質問

手術をしても、また下がりますか。

病気が進むと、再び下がることがあります。筋肉の病気による眼瞼下垂では、控えめに上げることもあり、再手術が必要になる割合はほかの眼瞼下垂より高くなると考えられています5。

子どもに遺伝しますか。

常染色体顕性(優性)遺伝で、親から子へ受け継がれることがあります。世代を経るほど発症が早く、症状が重くなる傾向があります1。遺伝の相談は、脳神経内科や遺伝カウンセリングの外来で受けられます。

白内障の手術とまぶたの手術、どちらが先ですか。

一般的には、白内障の手術を先に受けていただきます。白内障の手術ではまぶたを器具で開くため、その後にまぶたの高さが変わることがあるからです。詳しくは「目の手術後の眼瞼下垂」をご覧ください。

手術は保険が使えますか。

基準を満たす後天性の眼瞼下垂は、保険診療の対象です。まぶたを上げる力が、生まれつきの眼瞼下垂と同じくらい大きく失われている場合は、自費診療になります。詳しくは「眼瞼下垂手術の費用」をご覧ください。

高田眼科の考え方

筋強直性ジストロフィーのまぶたの下がりは、角膜と全身の安全を最優先に、眼瞼挙筋前転法で控えめに上げることを基本にしています。ほかの筋肉の病気との違いや全体像は「筋肉の病気による眼瞼下垂」をご覧ください。

まぶたの下がりと、手の開きにくさや白内障が気になる方へ

まぶたの下がりの原因を見きわめ、全身の状態に合わせた治療方針をご提案します。

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執筆:髙田 尚忠(たかだ なおただ)
高田眼科 院長。岡山大学医学部卒業。眼科医・眼形成外科医として眼瞼下垂手術を専門とし、関連クリニックを含め年間2,000件以上の眼瞼手術に携わっています。

参考文献

PubMed収載論文をもとに作成しています。文献1・5・11・12は全文、それ以外は抄録を確認しています。

  1. Scutifero M, Lanza M, Petillo R, et al. Gender effect on onset, prevalence and surgical treatment of cataract in patients with myotonic dystrophy type 1. Acta Myol. 2022;41(3):105-110. doi:10.36185/2532-1900-N75
  2. Yamauchi K, Matsumura T, Takada H, et al. The current status of medical care for myotonic dystrophy type 1 in the national registry of Japan. Muscle Nerve. 2023;67(5):387-393. doi:10.1002/mus.27799
  3. Veyckemans F, Scholtes JL. Myotonic dystrophies type 1 and 2: anesthetic care. Paediatr Anaesth. 2013;23(9):794-803. doi:10.1111/pan.12120
  4. Jeong S, Choi E, Lee SJ. Double eyelid tape as a treatment option for severe ptosis in patients with myotonic dystrophy type 1. Am J Phys Med Rehabil. 2022;101(2):e25-e27. doi:10.1097/PHM.0000000000001880
  5. Park RB, Akella SS, Aakalu VK. A review of surgical management of progressive myogenic ptosis. Orbit. 2023;42(1):11-24. doi:10.1080/01676830.2022.2122514
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  7. Ikeda KS, Iwabe-Marchese C, França MC Jr, et al. Myotonic dystrophy type 1: frequency of ophthalmologic findings. Arq Neuropsiquiatr. 2016;74(3):183-188. doi:10.1590/0004-282X20150218
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  9. van Sorge AJ, Devogelaere T, Sotodeh M, et al. Exposure keratopathy following silicone frontalis suspension in adult neuro- and myogenic ptosis. Acta Ophthalmol. 2012;90(2):188-192. doi:10.1111/j.1755-3768.2010.01876.x
  10. Doherty M, Winterton R, Griffiths PG. Eyelid surgery in ocular myopathies. Orbit. 2013;32(1):12-15. doi:10.3109/01676830.2012.736599
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このブログの執筆者
髙田尚忠
髙田尚忠
高田眼科 院長|フラミンゴ美容クリニック/銀座Jクリニック/あさ美皮フ科 眼瞼手術担当
岡山大学医学部卒業後、郡山医療生活協同組合 桑野協立病院などの様々な医療機関を勤務し、現在は高田眼科の院長を務めつつ、関連クリニックの名古屋のフラミンゴ眼瞼・美容クリニック、銀座のJ clinic、亀戸のあさ美皮フ科においても、眼瞼下垂手術を中心に年間2,000件以上の眼瞼手術に携わっています 「見え方(視機能)」と「日常の快適さ」を回復することを第一に、診察では原因(加齢・コンタクト・体質・既往手術など)を丁寧に整理し、必要な治療を分かりやすく説明すること心がけています。 このブログでは、眼瞼下垂の症状、治療選択、術後経過で不安になりやすいポイントなどを、専門医の立場からできるだけ具体的に発信しています。
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