眼瞼下垂の基礎知識

[先天性眼瞼下垂] 「眼瞼裂狭小症候群の症状・治療」

Dr.髙田
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高田 尚忠
高田 尚忠(たかだ なおただ)
高田眼科 院長 |ひとみ眼科 / フラミンゴ美容クリニック 眼瞼手術担当医師
所属学会:日本眼科学会、日本形成外科学会、日本眼形成再建外科学会
岡山大学医学部卒業後、横浜形成外科の二木 裕先生に師事。 郡山医療生活協同組合 桑野協立病院などの様々な医療機関を勤務し、 現在は高田眼科の院長を務める。 眼科医と形成外科医の知識と、これまでの豊富な眼瞼手術の術者としての経験をもとに、2022年においては年間2,000件超える眼瞼下垂症手術を手がけております。 2022年3月より、名古屋市内の伏見駅近くのフラミンゴ眼瞼・美容クリニックを開院。

眼瞼裂狭小症候群って?

眼瞼裂狭小症候群;Blepharophimosis ptosis epicanthus inversus syndrome:BPES)は、眼瞼裂狭小・眼瞼下垂・逆内眼角贅皮症候群の3つの要素で構成されております。

その特徴は、先天的に狭い横長の眼瞼裂(目の開きが小さい)、眼瞼下垂(眼瞼下垂)、下眼瞼の内側と上方に走る異常な皮膚のひだ(逆上皮)などがあることです。

眼瞼およびその他の顔貌の発達に影響を及ぼすまれな遺伝的疾患です。

結果として、「先天性眼瞼下垂(せんてんせいがんけんかすい)」のひとつであり、まぶたを上げる筋肉に何らかの異常があり、眼瞼下垂の症状となるわけです。

実は、眼瞼裂狭小症候群には、眼瞼異常と早発卵巣不全の両方を伴い、女性患者に不妊症を引き起こすI型と、眼瞼異常のみを呈するII型があります1)

本症候群の原因は、FOXL2遺伝子の変異と関連しており2)、発症した親から子へ常染色体優性遺伝するため、変異した遺伝子を1コピー持つだけで発症します。

海外で行われた臨床研究によって、BPESの主な臨床的特徴が明らかにされ、以下の表にまとめられています:

特徴説明
眼瞼裂狭小「眼瞼裂」とは上まぶたと下まぶたの裂け目の部分を指しますが、この症状は、その横や縦の長さ、またはその両方が縮小して狭くなっています。
①開眼部の水平径の減少
②眼瞼裂の垂直径の減少
眼瞼下垂症上眼瞼の垂れ下がり。ぶたを上げる筋肉に何らかの異常があり、眼瞼下垂の症状となる。
そして、その眼瞼下垂は、両方の目に症状が出る「両眼性」として現れ、目の開きが少なくなりますが、左右で差が出る場合もあります。
逆さまつげ下まぶたから垂直に立ち上がる皮膚ひだ
テレカンサス左目と右目の目頭の間隔が異常に離れたように見える。
過眼球症(目の間隔が広い)


通常、視力は、矯正されていない眼瞼下垂や斜視による弱視が生じない限り、維持されます。
また、鼻涙管閉塞も合併することも多く、その影響から流涙や細菌感染症を引き起こすことがあります。

この疾患に伴う成長障害や知能障害は認められません。

2015年7月、厚生労働省が新たに「難病医療費助成制度」に指定した「ヤング・シンプソン症候群」にも、この眼瞼裂狭小症候群に似た症状がみられ鑑別が重要になるとされています。

一般に眼瞼裂狭小症候群(BPES)では、基本的に精神遅滞を認めませんが、欠失型BPESの場合には精神遅滞、成長障害、関節症状などを合併することがあり、ヤング・シンプソン症候群と混同されやすく注意が必要です。

治療について

BPESの主な治療法は外科的手術です。手術は、眼瞼の異常を修正し、視力を改善し、美容的な外観を向上させることを目的としています。
手術は通常、逆さまつげやテレカンサスの矯正、眼瞼下垂の修復など、複数の段階を経て行われます。手術のタイミングや計画は、それぞれの患者さんに合わせて行うことが重要である3)

人工涙液の点眼やヒアルロン酸点眼液は、合併症である兎眼症(目を完全に閉じることができない状態)による角膜刺激症状を緩和するために使用する場合があります。

最後に、遺伝性の疾患であることから、遺伝カウンセリングはBPESに罹患した家族にとって非常に意味があります。
I型BPESの場合、妊娠を希望する女性には不妊治療の選択肢が検討されることもある4)

まとめると、眼瞼裂狭小症候群は複雑な疾患であり、遺伝カウンセリング、不妊治療、眼球異常に対する外科的介入など、最適な管理のために集学的アプローチが必要である。

眼瞼裂狭小症候群は、眼瞼裂の状態から目を大きく開けることが難しいため、見えづらさを補う目的で眉を持ち上げたり、アゴを上げたりする癖「チンアップ」がつくこともあり、片方の目が正しい方向を向いているのに、もう片方の目がズレて向いている「斜視」や、視覚情報が伝わる経路上に支障があることで視力が弱まった「弱視」を伴うケースがみられます。

したがって、それぞれの症状に応じた治療が求められますが、いずれにしても、眼瞼裂狭小症候群の眼瞼下垂症の治療法は、やはり手術が一般的です。

先に述べたように視力にとっての悪影響を考慮すると、重症のケースでは、なるべく早期の手術がベストな場合もありますが、状況によっては、手術は、思春期に向かって成長するに従って複数に渡って行う場合もあります。

さらに、本人が他人と比べて異なる状態にあることを自覚することによる心の内面の問題なども考えて、早期の治療をすすめる医師もいるぐらいですので、精密検査や遺伝子レベル・染色体レベルの検査を行い、疾患の状況を踏まえ、良く考慮した上で治療を検討することが必要となります。

眼瞼裂狭小症候群は、どちらか一方の親から原因遺伝子を受け継いだだけで発病する優性遺伝の疾患であります。

したがって、眼瞼裂狭小症候群の診断においては、精密検査や遺伝子レベル・染色体レベルの検査を行うことが重要となりますが、両親のどちらか、あるいは両方に眼瞼裂狭小症候群の遺伝子が認められるケースが大半となります。

ただ、両親のどちらにも瞼裂狭小症候群の遺伝子がなかったり、家族には全く発病者がみられないのに、その子供に症状が現れる場合(孤発例)もあって、優性遺伝だけを原因とすることができないので、注意が必要です。

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先に述べたように、眼瞼下垂症についての治療方法は手術で治すのが一般的ですが、ほかの「先天性眼瞼下垂(せんてんせいがんけんかすい)」と同様に、どの時期に手術を行うかは、さまざまな見地があります。

一般的には3~4歳以降をすすめるケースが基本なのは、ほかの先天性眼瞼下垂と同様ですが、眼瞼裂狭小症候群は、重度の場合、視野が狭くなって視機能の面で障害が生じるリスクについて考える必要があります。

特に横の瞼裂が狭小となるケースでは、弱視につながる可能性が高くなります。

斜視や乱視の発症リスクも含め、その重大性を認識することも大切です。

もうひとつ、容姿を理由とする昨今のいじめ問題を危惧する声は大きく、本人が抱くであろう劣等感などを考慮すると、早期の治療について相談される意義は大きいでしょう。

また、早期の手術を行った場合、成長に伴って将来、改めて手術する必要が生じるのですが、傷跡などをご心配されることはありません。

具体的な手術方法については、

という眼瞼下垂の主な3方法を通してそれぞれご説明しています。

参考文献 (References)

(1)Dollfus H, Porto F, Caussade P, Speeg-Schatz C, Sahel J, Grosshans E, Flament J. [Ophthalmologic findings in blepharophimosis, ptosis, epicanthus inversus syndrome (BPES) syndrome]. Arch Pediatr. 2003;10(8):715-21.

(2)Cocquet J, Pailhoux E, Jaubert F, Servel N, Xia X, Pannetier M, De Baere E, Messiaen L, Cotinot C, Fellous M, Veitia RA. Evolution and expression of FOXL2. J Med Genet. 2002;39(12):916-21.

(3)Zlotogora J, Sagi M, Cohen T. The blepharophimosis, ptosis, and epicanthus inversus syndrome: delineation of two types. Am J Hum Genet. 1983;35(5):1020-7.

(4)De Baere E, Dixon MJ, Small KW, Jabs EW, Leroy BP, Devriendt K, Gillerot Y, Mortier G, Meire F, Van Maldergem L, Courtens W, Hjalgrim H, Huang S, Liebaers I, Van Regemorter N, Touraine P, Praphanphoj V, Verloes A, Udar N, Yellore V, Chalukya M, Yelchits S, De Paepe A, Kuttenn F, Fellous M, Veitia R, Messiaen L. Spectrum of FOXL2 gene mutations in blepharophimosis-ptosis-epicanthus inversus (BPES) families demonstrates a genotype–phenotype correlation. Hum Mol Genet. 2001;10(15):1591-600.

- 【眼瞼下垂】延べ2万眼瞼以上の手術経験 -
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